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「介護不倫」は今後、増えていくのだろうか

小室哲哉さんの件でにわかに浮かび上がった「介護不倫」、実は以前からある現象だ。その実態とは。そして人は、どういう思いで不倫への経緯をたどるのだろうか。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

恋愛ガイド

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「介護不倫」は実際にある

年齢にかかわらず、夫婦間の介護問題は根深い。

年齢にかかわらず起こりうる介護問題は根深い。


介護離職、介護離婚、あげくは介護殺人まで起こる現在、介護する人たちの心身の負担は想像するにあまりある。先日の小室哲哉さんの不倫疑惑から引退という一件も、「介護不倫」「介護離職」と報道したところがあるようだ。

介護不倫については実際に話を聞いたことがある。夫の両親を介護しているのに、夫からねぎらいの言葉ひとつもらえず外で恋に走ったケースもあれば、夫の介護に疲れて他の男性に癒やしてもらうケースもある。
不倫に善悪などないが、「どうにもやり場のない気持ち」をわかってくれる人に気持ちが向いていくのはやむを得ないとも感じてしまう。

 

夫の両親を介護するために離職

働き盛りの40代で夫の家族の介護に直面。

働き盛りの40代で夫の家族の介護に直面。


ミサキさん(42歳)の夫の父親が脳梗塞で倒れたのは5年前。退院はしたものの自力では歩けず、夫の母が必死に介護をしていた。当時、ミサキさんは8歳と5歳の子を抱え、仕事もしていたので手伝うこともむずかしかった。

「そのうち疲れたんでしょう、義母も倒れてしまって。そこでついに夫が私に仕事を辞めて介護を手伝ってくれないかと言い出したんです。夫は一人っ子だし、私も放ってはおけないと思ったのでやむなく仕事を辞めました。がんばって続けてきたからもったいないと思ったけど……。介護は先が見えないから休職というわけにもいかなかった」

そこからミサキさんの生活は一変する。朝5時に起きて、朝食作りと夕食の下ごしらえ。洗濯をすませたところで夫を会社へ、上の子を学校に送り出す。掃除など家事を終わらせて下の子を保育園へ連れて行って、1時間ほどかかる夫の実家へ。家事や両親の食事の世話などをして夕方には自宅へ。これが毎日続くのである。

 

誰も認めてくれない、報酬もない

「仕事と違うのは誰も認めてくれない、報酬もないということですよね。両親も体が弱って心も弱っている。暗いんです、笑顔もない。どんなにこちらががんばっても明るさが戻ってこない。義父は認知症も入ってきて、何度も同じことを言う。そのうち徘徊するようになってきて」

たっぷり3年間がんばったところで、ミサキさんは何もかもイヤになり、気持ちがどんどん落ち込んでいった。

「夫は週末、たまに様子を見に行く程度で、それまでと変わらない生活をしている。私の大変さをわかろうともしない。私がぐったりしていると『今日はピザでもとるか』と言ってはくれたけど、そもそも自分の両親を私に介護させていることについてきちんと感謝してもらったこともない」

ある日、夫の実家に行こうとして電車を乗り過ごした。寝ていたわけではなく、ぼんやりしていて降りるべき駅で降りなかったのだ。

「このままどこかへ行ってしまいたいと思いましたね。でもそうもいかない。重い体を起こして次の駅で降りたら、『ミサキちゃん』と声をかけられて。びっくりしました。中学時代の同級生の男の子だったんです」

彼は取引先から会社に戻るところだった。ちょっとだけお茶でもと誘われ、遅くなりついでだと彼女も応じた。

 

彼という支えがあるからやっていける

傍観するだけの夫とは事務的な会話だけ……。

傍観するだけの夫とは事務的な会話だけ……。


「義両親と子どもの世話に明け暮れていたから、大人の男性とまともに話すのは久しぶりでした。夫とも事務的な話が多くなっていたし。彼と話して、あ、私は社会とつながっていると実感できたのがうれしかった」
そこから彼との関係が始まった。無理やり時間を作って彼と会い、話をした。それがいつしか恋へとつながっていく。
「いけないとわかっていたけど、彼が私の唯一の社会との接点であり、私が生きている女であるとわからせてくれる存在だったんです。ゆっくり会えるのは月に1回くらいだったけど、その他にも彼は30分でも時間をあれば話を聞くよと会ってくれた。それがありがたかったですね」
1年前、義父が再度、脳梗塞を起こして亡くなった。それを機に、ミサキさん一家は義母を引き取った。義母も現在、認知症があり、介護はまだまだ続く。

「それでも彼という支えがあるから、私はこの5年間を過ごすことができたのだと思います。もし彼がいなかったら、私はうつ病になるか自殺していたか……。一時期はそれほど追いつめられていましたから」

ミサキさんは自分の指先を見つめながら語った。少し荒れた指先が彼女の日常を物語っているようだ。

 

再婚同士の夫の介護に疲れ果てて

晩婚化や高齢での再婚で直面する夫婦間の介護問題。

晩婚化や高齢での再婚で直面する夫婦間の介護問題も。


同じように夫の介護に疲れ果てたリョウコさん(56歳)。一回り年上の夫と結婚したのは10年前。お互いに再婚だった。そして結婚して3年後から介護が始まった。

「長年一緒にいる夫婦だから介護はできるんですよね。私の場合は結婚生活より介護生活のほうが長い。正直言って、しまった、結婚なんてするんじゃなかったと思いました。夫には申し訳ないけど」

夫にはひとり娘がいるが、遠方で暮らしているためめったに来られない。リョウコさんには子どもはいない。

「夫側は親戚もほとんどいないんです。結婚するときは親戚がいなくてめんどうがないわと思っていたけど、こうなってみると協力者もいないということなんですよね」

右半身が不自由になった夫を心身ともに支えていくのは大変だった。どうにもつらくて、離婚した元夫に電話したことがある。

「元夫とはときどき連絡をとる関係ではありました。彼も再婚していますが、他に頼れる人がいなかった。意外にも彼が親身になってくれて……。とにかく会おうと。支援してくれる機関を教えてくれたり、私のことも励ましてくれたりしました。そうしているうちに元夫と寝てしまった。元夫も再婚相手とうまくいっていなかったみたい。離婚してよりを戻そうかという話にもなったけど、介護が必要な夫を見捨てるわけにもいかない。つらかったです」

 

わかってくれるのは元夫だった

結局、元夫とは今も定期的に会っている。ホテルへ行ってもセックスしないこともある。彼女自身、更年期もあって体調が定まらない。ただ、元夫に抱きしめられるだけで心が落ち着くのだという。

「いつまで続くかわからないんですよね、介護って。先が見えない。ずっと長いトンネルの中にいて光がまったく見えてこない。私がなんとか生きているのは、元夫がいてくれるからだと思います」

介護不倫というと言葉のイメージはよくないが、彼女たちはどうにもならない立場で必死に救いを求めているのだ。重い話であるが、誰にとっても他人事ではない。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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