吉野家<9861>の株主優待は本当にお得?
吉野家<9861>は牛丼チェーン「吉野家」を主力に、うどん店「はなまる」、ステーキ「アークミール」、すし「京樽」などを展開しています。飲食業界6位のグループで、牛丼では2位。牛丼では店舗数で「すき家」を展開するゼンショーHDに抜かれたものの、高価格で業界の常識を覆す手間のかかる商品の投入など、低価格ではなく、商品の付加価値性で勝負する戦略に切り替え、新たな意味で業界のリーダーシップを握っていると言えます。また、ITの活用など新たな取り組みにも積極的で、将来の業務効率向上や中食対応など、時代ニーズにあったサービス展開ができる素地が作られつつあることを評価したいです。業績は好調で、18/2期上半期は2.1倍の経常増益を達成しており、利益率の改善も順調。財務状況も良好で、先行投資もできているため、総じてポジティブな印象です。
今回はそんな同社の株主優待が魅力的なのかを検証していきたいと思います。
【銘柄名】吉野家ホールディングス
【市場:コード】東証1部<9861>
【予想配当+予想優待額面利回り】:4.3%
【2017年12月1日株価】1867円
【株主優待獲得最低投資額】 100株=18万6700円
【今期予想現金配当(1株あたり)】20円
【株主優待権利確定月】 2月末、8月末
【優待内容】サービス券
※詳しくは同社のHPをご覧ください。
※今回は100株を購入して年間で6000円分の株主お買物優待券を獲得したケースを想定しています。株主優待は6000円で評価し、利回り計算を行っています。
元祖和製ファストフード、牛丼業界の雄~付加価値商品の投入で新たな成長段階へ~
吉野家は言わずと知れた牛丼チェーン「吉野家」を展開するグループです。吉野家を軸に、はなまる(うどん)、京樽(寿司)、アークミール(ステーキ)などを展開しています。2017年8月時点の店舗規模は、国内店舗数は吉野家が1,206、はなまるが454、アークミールが181、京樽が332と、そして海外776店舗を含めるとグループ全体で3,207店舗(17/5月時点では3099店舗)を数えます。同社の創業は1899年(明治32年)と古く、東京日本橋にあった魚河岸に牛丼店を開店したことに始まります。「はやい・うまい・やすい」はせわしない現代人向けのフレーズ化と思いきや、この創業当初から続くポリシーでした。しかも、この中でもとりわけ「はやい」が当初からのビジネスモデルの中核となっていたといいます。
「はやい」が重要視されていた理由は、回転率です。社長(二代目の松田瑞穂氏)は「年商1億円」を達成するにはどうすればよいかを考えました。(この1号店、現在(今は築地移転に関連した延長をしているよう)もですが営業時間が5時から13時の8時間で15席の小さな店舗です。)この小さな店舗が年商一億円を達成するには、一日1000人の客が7分毎に入れ替わる必要があると割り出し、その仕組みを作ったといいます。
ちなみに、店舗数では吉野家を上回る牛丼首位のゼンショー(7550)の小川社長も、同社の安部元社長(ミスター牛丼)も、吉野家出身です。ミスター牛丼こと安部元社長は1970年代の米国進出を担当。同社が巨額の負債を抱え会社更生法の適用を受けると、帰国しその後は出世街道を走り抜けて42歳の若さで社長に就任しています。
一方、小川氏は、入社した2年後に会社更生法の適用を受けることになり、経理担当として再建の策を担っていたといいます。その後 小川氏は辞職して弁当屋を起業し、牛丼業界に参入。M&Aによって最大の外食チェーンに育てあげた人物として知られます。
海外展開:和製ファストフードの海外進出の先駆け~苦肉の策が、新事業に進展!~
さて、吉野家の海外展開は、1970年代、米国から始まります。海外展開と言っても出店目的ではなく、まずは当時輸入制限があった牛肉を直接買い付けるための現地法人の設立でした。ところが法人設立早々日本政府が牛肉輸入を禁止したのです。本来の業務を失ってしまったわけですが、同社が窮余の一策として講じたのが牛丼ショップの出店だったのです。苦し紛れに始めた牛丼店でしたが現地で大人気となり(一日1000食とも!)、1977年には米国200店舗構想を掲げるほどに。何が功を奏するかわからないですが、これが同社の海外展開のきっかけでした。(このような代打ホームランは、2004年にもありました。「豚丼」です。豚丼は、アメリカ産牛肉禁輸措置による牛肉不足の期間に考え出されたメニューでした。苦肉の策がまたもや大ヒットとなったわけです。)
1980年代は会社更生法適用の申請を行うという、同社にとって自力再生の時代でしたが、米国での「テリヤキ・チキン ボウル」のヒットを突破口に米国法人から会社更生を終了しています。
その後、1988年の台湾を皮切りにアジアに進出。中国、フィリピン、インドネシア、タイ、韓国、シンガポールと、1990年代には出店を加速させ、2000年代には海外でも広く「yoshinoya」ブランドが認知されるようになりました。現在ではこれまで培った出店ノウハウをもとに700を超える店舗を運営しています。そして今後も出店を進め、海外1,500店舗を目指しています。
豚丼の登場は、2004年のBSE問題がきっかけでした。アメリカ産牛肉の禁輸が発令されたことで牛肉が不足し、このままだと経営が立ち行かなくなる危険性がありました。そこで苦肉の策として考えだされたのが「豚丼」でした。豚丼は牛の替わりという位置づけでしたが、ふたを開けると大ヒット。興味で食べる人やヘルシー志向の女性客の心をつかみました。
豚丼はこの時だけでなく2014年に実施した値上げで客足が遠のき、業績が伸び悩んだ時にも活躍しています。2016年4月に幻のヒット商品となっていた豚丼が復活し、2カ月で1000万食を売上げる大ヒットを飛ばしました。豚丼復活によって、2016年4月の全店売上は前年比10%増、客数は18%増を記録しました。
2018年2月期上半期は吉野家の新商品の堅調推移に加え、はなまるや海外事業が好調!
2018年2月期上半期の業績は売上が4.5%増の977億円、営業利益が126.1%増の21億円、純利益が18.0%減の13億円となっています。讃岐うどん店「はなまる」の積極出店によって売り上げが伸びたほか、牛丼店「吉野家」において牛肉の仕入れ価格が下落したことが営業利益を押し上げました。なお、四半期純利益の減少については、前期に計上した旧本社事務所譲渡による固定資産売却益(13億3400万円)が消滅したためで本業に問題はありません。
はなまるの寄与が大きく、売上を16憶5700万円押し上げ、続いて海外も14億2900万円の増収に寄与しました。原価率は34.8%で前年から1.7%改善。牛肉の仕入れ価格が低下したことが作用したようで、吉野家は営業利益を3億00万円押し上げました。
国内吉野家では、「豚スタミナ丼」や「沖縄タコライス」などの新商品を積極的に導入したこと、朝定食や限定メニュー、機能性表示食品の発売等が奏功しました。一方利益面では、人件費増があったものの、増収及び売上原価の低減により大幅増益を達成しました。
はなまるでは、店舗数の増加によって事業が大きく伸び、京樽も堅調に推移し、米国や中国にけん引された海外も好調でした。一方、アークミールはしゃぶしゃぶ業態の競争激化の影響で減収となりました。アークミールでは営業組織の再編により原価や人件費の適正化を図っています。
下期には、吉野家を10店舗、はなまるを24店舗、海外を54店舗、アークミールを1店舗、京樽を3店舗増やす計画としています。設備投資も活発で、新設投資に26億7600万円、改装投資に23億6100万円を投下しています。吉野家に約10億円、はなまるに1億5000万円、海外に約8億円を改装に充て、店舗改装によって既存店を強化していることが表れています。
既存店売上高の計画を対前年で見ると、吉野家が2.4%増、はなまるが0.2%増、アークミールが1.5%増、京樽が1.0%増と、全セグメントで既存店売上は増収となる見込みです。原価率も引き続き改善の見通しで、通期では1.3%の低下となると見ています。
新たな成長に向けての取り組み~IT活用で店舗効率UP!~
ITの活用も始まっています。まずは、 「Tポイント」 を通じて収集 ・ 蓄積している客の属性や店舗利用に関するデータの活用です。これによって積極的な商品開発 ・ 投入が進められます。宅配ポータルサイト 「出前館」 を通じて、 無料対話アプリ 「LINE」から宅配を注文できるサービスも一部ではありますが開始されました。割高になりますが、中食ニーズにこたえるサービスとして注目されました。そして店舗オペレーションの改善・効率化でもIT活用がスタートしました。自動食器洗浄ラインの導入が具体化し、 音声認識オーダーシステムも実装まであと一歩というところに来ています。飲食業界では人で不足が深刻化しているため、これは興味深い取り組みだと思います。
また、業績を回復基調にけん引した差別化商品による成長戦略では、吉野家で機能性表示食品の販売を開始したことが注目されます。これは外食チェーンとして初めてのこと。糖質が気になる人に向けたサラシア牛丼は、糖質オフ時代にマッチした商品展開です。時代ニーズにマッチした商品やサービスの展開は現代における成長戦略として欠かせないと思います。
事業基盤を強化するのは、商品の差別化によるスペシャリティ性だ
結論から言うと、メニューによる差別化ができることが企業の事業基盤を強くする最も賢い方法だと思います。創業以来牛丼業界のリーダーとして業界を引っ張ってきた同社でしたが、2008年に店舗数でゼンショーホールディングスにトップの座を奪われてしまいます。業績は低迷状態が続き2013年には値下げによる客足回復を狙うまでに。牛丼並盛を380円から280円に値下げして価格で客足を戻そうとしました。3か月程度は消費者インパクトで戻りましたが、その効果も短命に終わり、本当の意味での客足奪回には至りませんでした。価格では勝てない、そういうことに気づいたのでしょう。価格で差別化を図るのではなく(そもそも300円程度が定番価格の牛丼は、すでに、汎用性の高いコモディティとなっていたため、これ以上低価格にするというには無理があります)、商品そのもので差別化を図る路線に切り替えたのです。
ゼンショーの苦悩は過去に同社も経験!?
吉野家を抜き、業界トップとなったゼンショーホールディングスは、低価格と店舗拡大による成長路線をとってきました。ゼンショーはその店舗規模の大きさから大量仕入れによる低コスト化を実現し、人件費を削るために極端に省力化を進め、販売管理費も抑えてきました。ところが、各種報道でも知られるよう、結果的に従業員の過労問題などマイナスの影響を生み出してしまいました。店舗を増やすために必要な人手を無視した拡大を行ったためです。
また、大量仕入れは在庫を積み上げます。同社の棚卸資産回転期間(在庫を使うまでの日数)は2004年の7日から、10年後には33日にまで、なんと4倍に延びていました。しかも店舗出店にはお金がかかりますからゼンショーの自己資本比率は23%、有利子負債は自己資本の2倍近くあります。
過去に同社が会社更生法の適用を受けていますが、その理由も、派手な店舗拡大とそれによるしわ寄せでした。ゼンショーは破綻とまではいきませんが、店舗を縮小することになりました。
こうしてトップの座を奪ったゼンショーが不安定な経営状態になっているところを吉野家は追撃しました。580円という高価格で、しかも手間のかかる鍋料理「牛すき御前」を投入したのです。
低価格競争が基本だった牛丼チェーン業界の「安くて速い」という概念を覆す戦略でした。手間がかかるという店舗オペレーション面での課題は、専用の什器開発によって克服していることもポイントです。手間がかかって業務効率に支障をきたすようなメニューは、おいそれと追随できるようなものではありません。特に人手も足りず、専用の什器もないゼンショーにとっては、勝ち目のない「スペシャリティ製品による差別化戦略」だったのではないでしょうか。
この牛すき御前が、業績回復への突破口を開くことになったのでした。
業界の常識を覆したり、慣習に斬りこむのは、大きなリスクを伴いますが、それに成功した企業は新規にポジションを築いて、先行優位性とおもにリーダーシップをとりやすくなります。同社に至ってはもともとリーダーに君臨していた王者であり、事実上の倒産と復活、業績低迷を経験したうえで新成長の段階に来ており、老舗企業であるにもかかわらず将来性も評価してよいと思います。
吉野家の株主優待はお得!
新商品の投入と既存商品のブラッシュアップ、店舗拡大による増収、原価率低減による増益によって足元の業績は好調です。18/2期第2四半期末時点の財務内容は、自己資本比率49.4%、現金242億5000万円で有利子負債322億円。ネットDEレシオは0.1倍と良好な状態です。流動比率は1.2倍。大量の仕入を行うことから、一般的に外食チェーンは営業債務及びその他の債務が大きくなりがちですが、1倍以上を保っており、また当座比率も0.9倍となっており支払い能力は十分と考えて良いと思います。
17/2期実績ROEは2.2%。19/2期については四季報では3.1%と予想されています。ROEならびに営業利益率も改善が続いていることは評価されるところです。
ここまでに書いてきたように企業内容の優れる同社です。さらに同社の株主優待は利用店舗数が多く、利回りの高さを考えても、特に男性には非常に魅力的な株主優待なのではないかと思います!
参考:日本株通信
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