「HIGH RAIL 1375」が2017年7月にデビュー!
2017年7月にデビューしたJR小海線の観光列車HIGH RAIL 1375。JRで一番標高の高い地点(海抜1375m)を走る高原列車である。車窓からは八ヶ岳、千曲川、浅間山と自然豊かな信州の風景が展開する。工夫を凝らした車内でブランチやスイーツを味わったり、天井に星空が映し出されるギャラリーで楽しんだりと、魅力的な仕掛けが満載の列車だ。HIGH RAIL 1375を使用する列車としては、小淵沢駅(山梨県)発、小諸駅(長野県)行きの「HIGH RAIL 1号」、小諸駅発小淵沢行きの「HIGH RAIL 2号」、夜間に小淵沢駅から小諸駅まで走る「HIGH RAIL 星空」の3本がある。このたび、小諸駅発の2号に乗ることができたので、小淵沢駅までの旅をレポートする。
ユニークな車内のHIGH RAIL
2両編成の観光列車HIGH RAIL2号が小諸駅のホームで出迎えてくれた。乗車口は2号車のドア一か所だけ。女性アテンダントさんが指定券をチェックしつつ車内へ案内してくれる。
指定席は1号車だったので、通路を通って2号車から1号車へ。手前に2区画だけボックスシートがある以外は、通路の左側が窓を向いたペアシート、右側が一人掛けのシングルシートだ。
シングルシートは、窓に向かって45度の角度で車窓を見ることになる。窓下に設置されたテーブルは広く、一人旅ならおすすめの席だ。
2号車を覗いてみると、こちらは通常のリクライニングシート。車椅子用のスペースを確保するため、一人席が3つある。車両が1号車より小ぶりの上、ラウンジとトイレがあるため客室が小さくまとまっていて、落ちついた感じがする。
小諸駅を出発、佐久平駅で思わぬ歓迎
自分の席に戻って一息ついたところで、発車時刻となり、列車は静かにホームを離れた。しばらくは、しなの鉄道の複線電化の線路と並走する。小海線だけに2つ小さな駅があるが、HIGH RAIL は快速列車なので通過。乙女という面白い名前の駅を過ぎると、ようやくしなの鉄道と分かれて南に向かう。住宅が目立つ市街地を抜け、数分で佐久平駅に到着。片面しかない一本のホームは子供たちであふれていた。列車に乗りに来たのではなく、HIGH RAIL の発着を歓迎するために集まってきたのだ。手書きで「佐久へようこそ」と書かれた大きな横断幕がほほえましい。窓向きのペアシートに座っていると目の前に子供たちが立って大勢でこちらを見つめていて何だか気恥かしかったが、すぐに発車すると、みんな手を振って見送ってくれた。
この駅は北陸新幹線との乗換駅であり、新幹線が地平、小海線が高架と、普通とは位置関係が逆になるところが珍しい。ホームを離れると、高架なので見晴らしがよく、駅舎の向こうに浅間山が見える。佐久平駅に到着する前から家並の背後にちらちらと眺められたが、このあたりで見納めとなりそうだ。
楽しい箱に入ったスイーツセット
アテンダントさんが、スイーツセット注文の確認に来たので、事前に購入しておいたクーポン券を渡す。「ありがとうございます」といって持って行ったけれど、大勢の人が注文していたのでアテンダントさんはてんてこ舞いだ。車内を行ったり来たりして、ようやくケーキの入った箱とドリンクをテーブルの上に置いてくれた。
スイーツセットの容れ物は、HIGH RAILの車両の形をした面白いケースだ。さて、食べようと思ったら中込駅着。小海線の拠点駅で小さな車両基地がある。ここで13分停車。ホームで駅員さんが歓迎のささやかなプレゼントを渡すというので、降りてみた。列をつくって順番に袋に入ったお菓子をいただく。
さて、席に戻ってケーキセットを食べる。花豆モンブランとアップルパイの2つで、地元佐久市の老舗である和泉屋菓子店が地元の素材を使ってつくったものだ。味は文句のつけようがないほど美味しい。温かい紅茶が飲みたかったけれど、アイスしかないのが残念である。
ケーキを食べ終わり、箱を広げると小海線沿線の観光スポットが描かれたイラストマップになっているところが秀逸だ。こちらは捨てないでお土産として持ち帰った。
ロケット型展望台と星空が見えるギャラリー
その間に、列車は、臼田駅に停車し、すぐに発車する。アテンダントさんが「右手の丘の上をご覧ください」というので見てみると、ロケットが発射台に据え付けられているような情景が目に入る。もっとも、本物ではなく、コスモタワーというロケットの形をした展望台だ。この近くにJAXA臼田宇宙空間観測所があるため、「星の町」をアピールするために建てたものだという。野辺山駅もそうだが、小海線沿線は星空がきれいに見えるところが多い。
「車内でも星空が見えますよ」というアテンダントさんのすすめで2号車のギャラリーHIGH RAILをのぞいてみた。円形のドーム型天井には星空映像が映し出されていて幻想的だ。筒状のギャラリーの両側には本棚があり、天文関係の書籍が表紙を見せてずらりと並んでいて図書室のようだ。
夜間に運転される「HIGH RAIL星空号」では、星空案内人による映像上映会があるとのこと。もっとも、昼間に走るHIGH RAILでは、移りゆく車窓の方が魅力的なので、開店休業状態だった。ギャラリーの丸椅子に少し座っていたが、車窓が気になるので席に戻る。
千曲川に沿って走るHIGH RAIL
その間に列車は、八千穂駅を出て、切り立った岩山に囲まれた山岳地帯に差し掛かっていた。小海駅を過ぎると、千曲川を何度も渡り、その渓谷美に魅了される。小海線の秘境駅と言われる佐久広瀬駅を過ぎ、しばらく寄り添っていた千曲川と別れると信濃川上駅に到着する。このあたりで、アテンダントさんがボード片手に記念写真撮影はいかがですかと回ってきた。ちょっと中だるみ状態だったので、絶妙のタイミングである。せっかくなのでカメラを渡してポーズを取り、シャッターを押してもらう。「はい、チーズ」ではなく「ハイレール」と列車名をいうところが面白い。
その間に、列車は山岳地帯から八ヶ岳山麓の高原地帯に差し掛かっていた。線路際には高原野菜の畑が続いている。
JRで一番標高の高い野辺山駅で小休止
JR線では一番標高の高い1345.67mに位置する野辺山駅に到着。ここで19分も停車するので、乗客の多くはホームに降りる。標高の書かれた記念柱の脇で記念撮影をする人が多い。標高の高さは、数字が2を除いて1から7まで続いて1345.67となっているので覚えやすい。
反対側のホームに移動して車両の写真を撮ったり、窓口で記念入場券を買ったり、とんがり屋根のメルヘン的な駅舎を撮影したりと、やることがいくらでもある。車内に戻って、1号車の先頭付近にある物販カウンターをのぞき、グッズやお土産を購入した。
JR最高地点をゆっくりと通過
時間になったので野辺山駅を出発。しばらくすると、西日に向かってまっすぐに高原を快走する。まもなく列車はスピードを落とす。右手を見るようにとアナウンスがあり、目を凝らすと、山小屋風の建物、神社に続いてJR最高地点の標柱が姿を見せる。野辺山駅よりも若干高い1375m。この数字にちなんで車両名「HIGH RAIL 1375」が付けられたのである。
ここを過ぎれば下り坂となり、長野県から山梨県に入って、女性に人気の観光地の玄関である清里駅へ。高度が下がったといえ、清里駅の1275mは野辺山駅に次ぐJRの中で2番目に高い駅である。
車内から滝見物
清里駅でも「またお越しください」の横断幕を持った駅員さん達の見送りを受ける。列車は、集落を抜け渓谷に差し掛かる。「右手に滝が見えます」とのアナウンスで右手の車窓を探すと、岩の間から絹糸のように流れ落ちる滝が一瞬見えた。竜の形に見えることから「吐竜(どりゅう)の滝」と呼ばれる。
甲斐小泉駅で普通列車とすれ違うと、いよいよ旅の終点小淵沢駅だ。右手に夕景でシルエットとなった八ヶ岳を見つつ、大きく左へカーブすると、中央本線と合流して、列車はゆっくりとホームに滑り込んでいった。
1号、星空号も魅力的
小諸駅から2時間半の旅は、見飽きることのない変化に富んだ車窓、アテンダントさんや途中駅の駅員さんや子供たちのおもてなし、車内のユニークなインテリアに特別なスペースなど盛りだくさんであっという間に過ぎてしまった。
今回は、小諸駅発の2号に乗車したけれど、ブランチの味わえる1号、野辺山駅での星空観察会がある夜間走行の星空号も別の魅力があるので、次回は、小淵沢駅から乗車してみたいと思う。
なお、冬季(2017年12月3日~2018年3月11日の土休日、12月31日および1月1日は運休)は2号と星空号のみの運転で、列車ダイヤが変更となる。また、2号は、昼食時の運転ダイヤとなるため、スイーツセットではなく、「冬の山野の恵みランチ」が提供される。
HIGH RAIL 1375は、全席指定席(禁煙)なので、乗車前に乗車券と指定券を用意しておく必要がある。指定券は、おとな=820円、こども=410円。快速列車なので、青春18きっぷも利用できる。ブランチ、スイーツなどの食事は、乗車の3日前までに、「びゅうプラザ」で申し込むこと。HIGH RAIL乗車を組み込んだ旅行商品もある。詳しくは、下記の公式サイトを参照のこと。
取材協力=JR東日本長野支社(報道公開時の車内撮影)
HIGH RAIL 1375公式サイト