メモとしての写真、写真としての写真
スマホの普及以来、写真とメモとの区別がなくなってきました。何をしたかを書くよりも、何かしている写真を撮る方が早いし、後から見直した時に喚起される記憶も、文字よりも多いというか、情報量が圧倒的に違うのですから、その流れは当然と言ってもよいと思います。ライターの私が言うのも何ですが、文字によるメモなんて、後で見たら何の事だか分からない事が多かったりしますから。
ただ、だからといって写真を撮る、という行為の内実は変わっていないと思うのです。カメラが身近になってメモや日記の代わりに写真を使うようになっても、メモ代わりでなく「写真」を撮ろうとすると、「一眼レフカメラでなければ」というのも今の常識のようになっています。
インスタ女子と言われている人たちも、上手い人ほどライティングなどをしっかり考えて良いカメラで撮っていますし、自撮りにも様々なテクニックがあり、それらは「キレイな写真」を撮るためのものなのです。
そういう意味では、スマホによってカメラが身近になったことが、「写真を撮る」という行為について真剣に向き合う人を増やしたとも言えます。ただ、そのせいか、写真の世界が極端に二極化してしまったような気もするのです。
でも、カメラと写真の関係というのは、「良い写真は高いカメラ、普通の写真はスマホ」というほどシンプルなものでもありません。カメラは機械ではあるのですが、手に持って目で見て撮る道具なので、「撮る人とカメラのマッチング、撮られるモノとカメラのマッチング」といったアナログな部分も意外に重要なのです。
機械と人の間を速さで埋める快適な操作性
最近使用しているオリンパスのコンパクトデジカメ「Tough TG-5」は、スマホとデジタル一眼の間を埋めるカメラであり、写真と人の間を取り持つカメラです。何だか大げさですが、数ヶ月使ったガイド納富の結論です。写真を撮ろうと思った時に、こうできたらいいなと思う機能が、使いやすく配置されているため、撮りたいと思う絵にスムーズに近づけるような気がするのです。
「こうしたらこういうふうに写る」という、操作と仕上がりが分かりやすく繋がっているカメラだと思うのです。
「TG-5」の最大の特長は起動が速いこと。電源スイッチを押したら、ほぼ瞬時に撮影が可能になります。この速度はスマホ以上。「あ、あれを撮りたい」と思ってから、電源を入れ被写体にカメラを向けて、ズームで構図を決めてシャッターを押すまで、慣れれば3秒以下で済みます。慣れなくても5秒かからないのではないでしょうか。
さらに、「TG-5」の機能の一つである「プロキャプチャーモード」を使えば、シャッター半押しでピントを合わせる段階から記録が始まるから、「あっ」と思ってシャッターを切ったら、撮りたい瞬間の一瞬後しか撮れなかったということもありません。
ピントが合う速度、露出補正をした時のモニター画面への反映の速さ、再生モードと撮影モードの相互切り替えの速さなど、起動だけでなく、ちょっとした操作のレスポンスがとにかく良くて、もたつくことがありません。さらに、露出補正がシャッター横のダイヤル一つで行えるので、好みの露出に素早く簡単にたどり着くことができます。
そして、電源投入時もズーム時にもレンズが出たり入ったりしないので、ズーム速度も速いのです。この、何かしたいと思った時にサッと動くというのも、撮りたいと思った絵がスムーズに撮れる要因になっています。
撮りたい絵にたどりつくために
そして、ズーム全域に渡ってF2.0と、とてもレンズが明るく、室内や夜の撮影でも、ほぼストロボの必要が無く手ブレ補正機能と合わせれば、手ブレの心配もなく、撮影時はとにかく露出や構図に集中することが出来ます。色々考えなくても、ほとんどのシチュエーションで、露出補正と構図とシャッターのタイミングだけで、それなりにカッコいい写真が撮れてしまうのも、「TG-5」の特長です。
スムーズにカッコいい写真が撮れてしまうと、「このカメラで撮りたい」と思う瞬間を自然に見つけてしまい、結果的にどんどん写真を撮ってしまうのです。
カメラとしての基本性能、例えば解像度とか、画質とか、レンズの性能とか、そういうものに関しては、もうあまり気にしなくて良いところまで、技術は進歩して価格も安くなって、ハイエンド以外ではスペックにあまり意味がなくなっている状況で、「TG-5」のように、触って、使ってみると、どんどん写真が撮りたくなるという形で、その性能が表れるというのは、デジカメの今後の正しい方向の一つだと思うのです。
例えば、前機種の「TG-4」と比べて、それほど外観に変化はないのですが、構えてみると自然に指はグリップの最適な位置に来て、しっかりとホールディングできるようになっています。こういう改良を一つ一つ行うのが、正しい「最新機種」のあり方だとも思うのです。そしてメーカーやブランドへの信頼も、こういう形で作られていきます。
防水、防塵、耐衝撃、そして顕微鏡モード
実は、この「Tough」シリーズは、その名前の通り、タフであることが売りでした。「TG-5」も水深15mの防水機能、2.1mからの落下や100Kgの荷重にも耐え、-10度でも動作し、結露しにくく、防塵機能にも優れるというタフさです。
また、GPSに加え、温度センサーや気圧センサーも搭載して、撮影時の日時などの他、標高や温度まで記録できてしまいます。それらのデータを地図データで活用することもできる、アウトドア用のカメラとしての側面も持っています。
さらに、TG-3から搭載された「顕微鏡モード」による、ズーム全域で1cmまで寄れる超マクロ撮影や、接写につきものの被写界深度の浅さを補正する「深度合成モード」、別売のリングライト併用による、カメラを対象物にくっつけてのマクロ撮影など、まるで夏休みの宿題用のカメラかと見紛わんばかりの接写性能の高さは、他のカメラにはない、このシリーズならではの大きなアドバンテージです。
この機能だけでも、スマホの他に持ち歩く価値があると思わせるインパクトがあります。ピントをずらして撮った写真を合成して、全域にピントが合った写真を作る「深度合成モード」の処理速度ももちろん高速です。
ガイドの「こだわりチェック」
この他にも、4Kのビデオ撮影、様々なアートフィルター、内蔵のwifiによるスマホとの連動、撮影モードの細かいカスタマイズなど、痒いところに手が届く仕様で、文句の付け所がないのです。強いて言えば、みんな大好き「背景ボケボケ写真」は苦手ですが、マクロを使えば、虫とか花の背景ボケ写真はキレイに撮れます。
それよりも私としては、撮影モードの中の画質に関するモード、例えば「ビビッド」とか「ナチュラル」とか「モノクローム」とか「ポートレート」といった、プリセットされた撮影モードの初期設定を細かくカスタマイズできる機能がとてもありがたいと思っています。
これが何を意味するかと言うと、カメラの癖にこちらが合わせるのではなく、こちらの好みに合わせてカメラを設定できるということ。何も考えずに、普通に適性露出で撮影した時、「もうちょっとローキーで彩度は低め、コントラストが少し高い方が好みだなあ」とか思えば、そういう風に設定しておけるのです。「ビビッドという設定なんだから、もっと極端にビビッドに写ると嬉しいなあ」と思ったら、そんな風に写るように設定を変えられるのです。これがさりげなく便利なのです。
カメラ全体に行き渡る、この細やかさが、私は、このカメラの最も良くできた部分だと思っています。この繊細さと、ボディのタフさの両立。それは、スマホと一緒に毎日持ち歩こうと思わせるのに十分です。そして、仕事で使ってみたところ、ちょっとした取材なら一眼レフの代わりにもなってしまうことも分かりました。良い道具ですし、良いカメラです。
<関連リンク>
オリンパス「Tough TG-5」公式サイト