『この世界の片隅に』の呉市内の聖地(ロケ地)めぐり

現在、全国拡大上映中の劇場用長編アニメ『この世界の片隅に』は、広島市江波(えば)地区で生まれ育ち、軍港の街・呉(くれ)に嫁いだ、ごく平凡な女性の視点で、戦前・戦中の世相を描いた作品。
『この世界の片隅に』呉の自宅近くで、スケッチする主人公の、すずundefined(C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

『この世界の片隅に』呉の自宅近くで、スケッチする主人公の、すず (C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

この映画のスクリーンに描かれた風景を手がかりに、戦前・戦中を通じて軍港の街として発展した呉で、『この世界の片隅に』の聖地(ロケ地)をめぐりたいと思います。

なお、本記事の前編、「聖地巡礼!『この世界の片隅に』の舞台・広島をめぐる」もあわせてお楽しみください。

すずが嫁いだ街・呉の市街地を歩いて

広島から呉までは、JR呉線の電車で、およそ30分ほど。呉市の市域は市街地の広がる本州側と、瀬戸内海に浮かぶいくつかの島々から成っています。

また、呉という地名は、劇中でも紹介されていますが、9つの峰に囲まれている「九嶺」が語源とされます。中でも呉のシンボルとされる灰ヶ峰(標高737m)は、呉の街を歩いていると、ほぼどこからでも見ることができます。
呉の街を歩いていると、ほぼどこからでも北にそびえる灰ヶ峰が見える。頂上にある気象レーダー観測所が目印

呉の街を歩いていると、ほぼどこからでも北にそびえる灰ヶ峰が見える。頂上にある気象レーダー観測所が目印


呉の市街地は、"碁盤の目"のように東西南北に走る真っ直ぐな通りで区画されています。このうち、南北に走る主な通りは、呉駅前から北に伸びる「今西通り」、その東に並行する「蔵本通り」、さらにその東の「本通り」があります。

『この世界の片隅に』の主人公である、すずの嫁ぎ先、北條家のある長ノ木地区へは、今西通りを歩いて行くのが分かりやすいのですが、ちょっと寄り道したい場所があるので、駅前を東に向かい、まずは蔵本通りまで行ってみましょう。
小春橋から見た堺橋

小春橋から見た堺橋


蔵本通りに沿うようにして流れる堺川に架かる橋の一つ「小春橋」が最初の目的地。この橋は、すずと夫の周作が会話をするシーンに使われていました。

映画の中で、背後の橋の上を路面電車が通過して行きますが、これは現在も残る「堺橋」。もちろん、今は路面電車は走っていませんが、呉市役所に問い合わせたところ、この堺橋は、1932(昭和7)年に架けられ、空襲にも焼けることなくそのまま残ったのだそうです。まさに、歴史の生き証人ですね。
橋桁や石造りの欄干などに風格を感じる堺橋

橋桁や石造りの欄干などに風格を感じる堺橋


さて、小春橋から堺川に沿って1kmほど上流に向かって歩いて行くと、呉駅前から伸びる今西通りがカーブしてきて、堺川と交差し、そこに「相生橋(あいおいばし)」が架かっています。偶然にも、広島の原爆投下の目標になった橋と同じ名前です。

この相生橋の西詰の北側の朝日町一帯に、かつて「朝日遊郭」があり、登場人物の一人、「二葉館」の遊女である白木リンが住んでいました。すずは、ヤミ市に砂糖を買いに出かけた帰りに、道を間違え遊郭に迷い込んでしまい、そこでリンと出会います。
朝日橋がわずかに名残を伝える

朝日橋がわずかに名残を伝える


朝日町を歩いても、かつては関西一の規模を誇ったという遊郭の名残はまったくなく、堺川に架かる橋の一つに「朝日橋」という名前が付いているのが、唯一の名残かもしれません。

すずの嫁ぎ先、北條家を目指して

朝日町の一角にある「胡(えびす)町公園」という児童公園から見て、下の写真の建物の右側の道を入って行くと、すずの嫁ぎ先、北條家のある長ノ木地区方面へ通じています。
中央の建物の右の道に入って行く

中央の建物の右の道に入って行く


途中、すずが北條家から呉の街に出るときに、必ず前を通過する、同じ形の蔵が3つ並んでいる「三ツ蔵」があり、とても印象的。
三ツ蔵

三ツ蔵


ここから細い坂道を登っていくと、まもなく「長ノ木」の交差点付近に出ます。右を見ると、長ノ木トンネルがあり、トンネル脇の階段を上ると、山の斜面に造られた住宅地があります。おそらく、北條家はこの付近にあったという想定ではないでしょうか。

すずが段々畑で、夫の姉である徑子(けいこ)の娘・晴美とともに港を見ていると、そこに呉海軍工廠(こうしょう)で造られ、呉を母港としていた戦艦大和が帰港するシーンや、港に停泊している軍艦をスケッチしていて憲兵に咎(とが)められるシーンなどが劇中にあります。
現在は、長ノ木地区からは、海はわずかに見えるだけ

現在は、長ノ木地区からは、海はわずかに見えるだけ


しかし、現在は家が増えたのと、海までの間にマンションなどが建ったことで、かなり高い場所まで登っても、長ノ木地区には呉港を一望できるような場所はありませんでした。
灰ヶ峰頂上の展望台より

灰ヶ峰頂上の展望台より


灰ヶ峰の頂上は、呉市街と海を一望できる素晴らしい絶景スポットで、夜景の名所でもありますが、ここまで行くのは車がないとキツいと思います。

【2017/01/10.編集部注】映画の公式サイトでは、呉市の聖地巡礼について旧上長ノ木・畝原・惣付のあたりは道の細い住宅街のため、いわゆる「聖地巡礼」の目的地としないよう注意を呼びかけています。当記事では、すずの嫁ぎ先のロケーションと想定される長ノ木地区も紹介しておりますが、観光は控えていただくよう、お願いいたします。


旧軍港付近の聖地(ロケ地)をめぐる

さて、長ノ木地区から、いったん、先ほどの相生橋まで戻りましょう。ここから今西通りを南東方向に進むと、間もなく「本通り」に出るので、これを南へ。
めがね橋の呉線ガード。映画では、このガード上を蒸気機関車が通過する

めがね橋の呉線ガード。映画では、このガード上を蒸気機関車が通過する


1kmほど歩くと、道はJR呉線のガード下を通過。ガード下の交差点名は「めがね橋」ですが、現在、ここを流れていた川は暗渠(あんきょ)になっており、橋は存在しません。

ガードの先にあるのが、現・海上自衛隊呉集会所(旧・下士官兵集会所)です。

旧・下士官兵集会所(現・海上自衛隊呉集会所)

旧・下士官兵集会所(現・海上自衛隊呉集会所)


資料によれば、昔はスクラッチタイルが張られたモダンな作りだったそうで、映画でもそのように描かれていますが、現在はコンクリートをレンガ色に塗った、味気ない造りになってしまっています。

この集会所は、すずが周作に帳面を届けに行くシーンで登場し、その後、2人は呉の街に繰り出しますが、折から、大きな船(すずの幼馴染み・水原哲も乗船する重巡洋艦「青葉」)が呉に寄港したため、街は大混雑で、映画も見ることができませんでした。
旧・呉海軍病院(現・呉医療センター)の石段

旧・呉海軍病院(現・呉医療センター)の石段


さて、海上自衛隊呉集会所から「美術館通り」と名付けられた美しい並木の坂道を上って行くと、正面に、入院中の周作の父・円太郎を、すずと晴美が見舞うシーンで登場する現・呉医療センター(旧・呉海軍病院)の石段が見えてきます。
旧・呉鎮守府司令長官官舎の内部

旧・呉鎮守府司令長官官舎の内部


ここで、ぜひ立ち寄りたいのが、呉医療センターの目の前にある「呉市入船山記念館」。敷地内には、旧・呉鎮守府司令長官官舎や、東郷平八郎が呉に在任中(明治23~24年)の住居の離れを移築した建物などを見ることができます。

大和ミュージアム

このほか、映画に登場する場所ではないものの、呉でぜひ見ておきたいのが、「大和ミュージアム(呉市海事歴史科学館)」。
「大和ミュージアム」外観

「大和ミュージアム」外観


全長26.3mもある10分の1サイズの戦艦大和をはじめ、人間魚雷「回天」の試作品や零戦(零式艦上戦闘機)などが展示されているほか、軍港・呉の歴史がビデオや資料などで分かりやすく説明されており、見応えがあります。
海自カレーのセット

海自カレーのセット


また、呉のグルメといえば、「海軍カレー」が有名ですが、現在の海上自衛隊の艦艇(かんてい)で提供しているカレーと同じレシピで作った「海自カレー」なんていうのもあります。ぜひ、味わってみてください!

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■大和ミュージアム
住所:広島県呉市宝町5-20
休館日:火曜日
営業時間:9:00~18:00(展示室入館17:30まで)
入館料:大人500円
地図:交通案内(アクセス)
ホームページ → 大和ミュージアムHP

 

なお、主人公のすずの声優を担当したのんが、物語の舞台となった広島県呉市を巡る姿を追った写真集「のん、呉へ。 2泊3日の旅~『この世界の片隅に』すずがいた場所~」が12月16日に発売になっています。

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