もしかして日本だけ?乳がん早期発見のための検診
乳がんの自己検診は、乳がんの早期発見や予防に有効と考えられていました。しかし海外では現在推奨されない方法になっています。その理由とは?
乳がんの自己検診には意味がない?
2016年現在、日本では多くの人がご存知の乳がんの自己検診については、・死亡率を下げるという明らかな証拠がない
・乳がんの自己検診によって不必要な検査(良性の腫瘍の生検など)が増える
ということで、米国国立がん研究所(NCI:National Cancer Institute)、米国対がん協会(ACS:American Cancer Society)、米国予防医療専門委員会(USPSTF:U.S. Preventive Services Task Force)、コクランライブラリー(Cochrane library:イギリス)などの、医療関係者が信頼している団体は、こぞって「現在では推奨しない」というスタンスを取っています。
これは主に2つの大規模で(全部で388,535人の女性)、かつ質の高い調査の結果(ロシアと上海からの地域住民ベースの研究。2002年と2003年に相次いで論文が発表されました)、自己検診している人とそうでない人で乳がんの死亡率について比べた結果、死亡率は変わらないのに不必要な検査が増えた、という研究結果によるものです。つまりデメリットの方がメリットより多いので推奨しないということです。
ちなみに、ちょっとわかりにくいかもしれませんが、研究にも質の高いものとそうでないものがあります。質の高い研究で、かつ人数が多いものの結果は、なかなか覆しづらいと考えられています。上記の研究はそれにあたるため、多くの信頼性の極めて高い団体が「推奨しない」というスタンスをとっているのです。また、これも専門的な話になりますが、「検診の有効性」は「死亡率」のことになります。その他の指標(発見率など)は調べる集団によって動いたりするので、「検診の有効性」としては不十分と考えられています。
自分の正常を知っておくことは大事
とはいえ、こういった団体も、自己検診は「死亡率の低下」というメリットは確認されていないものの、自分の「正常な状態」というものを知っておくのはよいことで、なにか普段と違ったことがあれば相談すること、というスタンスは変わりません。実はこの「なんとなく変」という感覚、医療従事者としてはすごく大事だと思っています。例えば私が研修医のころ、腰痛で受診された患者さんを、先輩の先生が「なんか変だから」という理由で詳しい検査を行い、通常のよくある腰痛ではなく、「大動脈解離」という放っておくと死にいたることもある病気が発見されたことがあります。私が「なんでわかったんですか?」と聞くと、先輩は「なんとなく、痛がり方が普通じゃないから」と答えました。それくらい、「普通と違う」ということはそれだけで重要な情報なのです。
自分の体のことだとわかりにくいかもしれませんが、例えば自分の状態を自分ではっきり言葉で表せない小さいお子さんでも、毎日みているお母さんが、「何か違う」「元気がない」と思って病院に連れてゆくことはありますよね。その結果、実際に熱があったり病気だったりすることもままあります。そして、大抵小児科の先生も「いつもみてるお母さんがそういうなら、なにか違うんだね」と、その情報を重要視してくれますよね。それと同じです。
定期的な自己検診は、がんの死亡率といった意味では有効ではないとしても、乳がんにかぎらず、自分の体の「正常」を知っておくことは必要だと思います。
▼参考(英語サイト)
米国国立がん研究所(NCI:National Cancer Institute)
Breast Self-Examination
米国対がん協会(ACS:American Cancer Society)
Breast Cancer Prevention and Early Detection
・米国予防医療専門委員会(USPSTF:U.S. Preventive Services Task Force)
Breast Cancer: Screening
・Cochrane library (コクランライブラリー)
Regular self-examination or clinical examination for early detection of breast cancer