大企業の支援と人件費の関連性
最も効率的に人件費を活かしているチームとは……?
今シーズンのJ1を戦っている18チームを、2014年度の決算に占める人件費の順に整理してみる(決算期が3月の柏レイソルを除く)。
■2014年度・人件費ランキング
1位)浦和レッズ/20億5400万円
2位)名古屋グランパス/20億5300万円
3位)ガンバ大阪/18億1500万円
4位)横浜F・マリノス/17億6500万円
5位)FC東京/17億900万円
6位)鹿島アントラーズ/15億6200万円
7位)川崎フロンターレ/15億4600万円
8位)清水エスパルス/13億5400万円
9位)サンフレッチェ広島/13億4900万円
10位)ヴィッセル神戸/13億4800万円
11位)サガン鳥栖/11億7600万円
12位)ベガルタ仙台/11億4100万円
13位)アルビレックス新潟/10億8500万円
14位)ヴァンフォーレ甲府/7億5900万円
15位)モンテディオ山形/4億6300万円
16位)湘南ベルマーレ/4億5200万円
17位)松本山雅FC/4億4300万円
チーム人件費がもっとも多い浦和レッズ、同2位の名古屋グランパスは、20億円を超える資金を選手に注ぎ込んでいる。三菱自動車(レッズ)、トヨタ自動車(グランパス)、パナソニック(ガンバ)、日産自動車(F・マリノス)らの世界的企業がメインスポンサーを務めるチームは、J1でも屈指の資金力を誇る。4チームは入場料収入やグッズの売り上げも伸ばしているが、メインスポンサーの存在がチームの編成を豊かにしているのは間違いない。
順位表の下位に眼を移すと、15位のモンテディオ山形以下の3チームは、人件費が5億円に満たない。レッズとグランパスとは、5倍近い差があるのだ。
モンテディオ、湘南ベルマーレ、松本山雅FCは、今季からJ1へ昇格している。J2で戦っていた昨年よりも人件費は増えていると予想されるが、飛躍的な上積みはない。
上記の順位表に含まれていないレイソルは、13年度の人件費が21億円を超えている。総合電機メーカー“HITACHI”のロゴがユニフォームの胸を飾るこのチームは、2014年度もリーグ上位の人件費を確保しているはずだ。
費用対効果に優れるベルマーレ
それでは、J1の最新順位表(5月23日現在)を見てみよう。チーム名のあとの数字は、上記の人件費のランキングだ。■J1最新順位表(2015年5月23日現在)
1位)浦和レッズ(1)
2位)サンフレッチェ広島(9)
3位)ガンバ大阪(3)
4位)横浜F・マリノス(4)
5位)FC東京(5)
6位)川崎フロンターレ(7)
7位)サガン鳥栖(11)
8位)湘南ベルマーレ(16)
9位)名古屋グランパス(2)
10位)ヴィッセル神戸(10)
11位)鹿島アントラーズ(6)
12位)松本山雅FC(17)
13位)ベガルタ仙台(12)
14位)柏レイソル(─)
15位)モンテディオ山形(15)
16位)ヴァンフォーレ甲府(14)
17位)清水エスパルス(8)
18位)アルビレックス新潟(13)
アジアチャンピオンズリーグ(ACL)に出場したレッズとアントラーズは1試合、現在も勝ち残っているガンバとレイソルは2試合、リーグ戦の消化ゲーム数が少ない。このため、ガンバはサンフレッチェを抜いて2位に、レイソルは最高で7位になることができる。勝点15で11位のアントラーズも、8位のベルマーレを上回ることができる計算だ。
人件費と順位には、それなりの相関関係が読み取れる。
人件費が2位ながら中位に位置するグランパスは、ブラジル人ミッドフィールダーのレアンドロ・ドミンゲス(31歳)がケガで1試合も出場していない。レイソル在籍時の2011年にJ1リーグMVPを受賞した彼の年俸は、少なく見積もっても1億円を超える。費用対効果が良くない理由のひとつだ。ここまで最下位のアルビレックスも、攻守の中心となるレオ・シルバ(29歳)が5月からケガで戦線離脱している。
J2から昇格した3チームは、いずれも健闘している。
なかでも5勝3分5敗の勝点18で8位につけるベルマーレは目を惹く。
神奈川県平塚市、藤沢市、厚木市などの7市3町をホームタウンとするベルマーレは、グランパスにとってのトヨタ自動車のような責任企業を持たない。ホームタウンを中心に幅広く支援を集め、チームを運営していく“市民クラブ”だ。現役の日本代表プレーヤーや、実績豊かな外国人の獲得は難しい。
近年の年間予算は、11億円から15億円の間で推移する。ベルマーレがチームを運営する総額を、人件費だけで上回るチームがいくつもあるのだ。
ところが、ベルマーレのサッカーは面白い。個々が力を惜しまずにピッチを駆け巡り、たくさんの選手が攻撃にも守備にも関わるサッカーは、リスクを恐れない勇敢さに満ち溢れている。ハリルホジッチ監督が強調する「タテへの速さ」と「ボール際の激しさ」も、チームのスタイルとして以前から追求されてきた。
リーグ戦と並行して開催されているナビスコカップでも、4戦負けなしで予選リーグAグループの2位につけている。「勝ち負けを超えたいいコンテンツの提供」(大倉智代表取締役社長)を心がけるベルマーレのゲームは、エンターテインメントとしての楽しさに満ちているのだ。
Jリーグに限らず、人件費はサッカーの勝敗を左右する重要な構成要素となる。ただ、予算という格差を乗り越えることができるのも、スポーツの、サッカーの見どころのひとつだ。
今年からJ1リーグは2ステージ制となり、第1ステージは6月27日に最終節を迎える。残り4試合だ。費用対効果という視点を持つと、各チームの満足度が浮き彫りになるだろう。