防災/防災関連情報

ネパール大地震に見る、山岳地域での地震の恐ろしさ

4月25日、ネパールで発生した大地震は28日現在ですでに4000人超の犠牲者が出ていると報じられています。雪に埋もれた登山客や通信が途絶えた村の被害は把握が困難であり、まだ被害の全容は把握に時間がかかるでしょう。余震が続いている現地ですが、山岳地域で起きた特有の二次被害も発生しています。山地の多い日本でも過去、大きな地震災害は発生していますが、この地震災害からどのようなことを学ぶべきなのでしょうか。

和田 隆昌

執筆者:和田 隆昌

防災ガイド

 
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ネパールの山岳地域には斜面にも多くの家屋が建てられている。


ネパール大地震、被害はなぜ拡大したのか


ヒマヤラ山脈はユーラシアプレートをインド・オーストラリアプレートが押し上げることで出来た世界最高峰の山脈です。元々地震・地殻変動の激しい地域であったにもかかわらず、その住居を見ると石積みの簡素なものが多く、現地の映像を見れば3~4階建ての建物が跡形もなく崩れているのが良くわかります。ネパールではカトマンズで1934年M8.4の地震が発生、8万戸が倒壊し、8500名もの死者が発生しています。80年もの年月は人々の記憶を消し去るに十分な年月と考えられます。やはり地震に対する危機感は薄く、経済的な問題もあるとは思いますが、耐震性の低い建物が被害を大きくしたと考えられます。

ヒマヤラの地震というとちょうど10年前の2005年パキスタン・カシミールで発生したM7.8の地震、この時は周辺各国合わせて8万6千人もの死者が出るという歴史的な大惨事になりました。この時もこの地方特有の石積みの住居が多くの犠牲者を発生させたことは記憶に残っています。今回のこのネパールの大地震はこの時と同一のプレート内で発生した、同様のメカニズムによる地震です。この地震がたとえば日本のように建築基準の厳しい国であったなら、建物倒壊による犠牲者ははるかに少なかったでしょう。日本と同様の地震多発国であり、友好的な国家であるネパールに今後このような技術的な支援もして欲しいと強く願います。

今のネパールは絶好の登山シーズン。すでに分かっているだけでも20名近くの登山者が落石や雪崩などによって命を失ったとされています。自分自身も雪山登山をする関係から、何度か目の前で雪崩を見る機会がありましたが、実際にその恐ろしさは体験したものしか分かりません。落下してくる雪は数トンの重さで人間の体を押しつぶしていき、人間の身体はひとたまりもなく、岩石を伴って、手足を簡単にもぎとっていきます。巻き込まれて助かる確率はほんの偶然でしかありません。運よく雪中で生存していたとしても周囲の人間が掘り出すことが出来なければ数分で絶命してしまいます。

今回は著名な登山家も落石や雪崩の被害を受けていますが、その報道の裏でいまだに実数のつかめない登山家や多くの観光客が地震発生時に雪崩の被害に遭っていると考えられます。また、大量の負傷者も救援のヘリや部隊の到着が遅れれば、もっと犠牲者が増えることになります。ふもととの連絡道も土砂崩れなどが発生しているようですので、余震などによる二次的な被害にも注意が必要です。雪山登山をする人でもなければ雪崩と言われてもピンとこないとは思いますが、国内でも山岳地域で地震を受ける可能性は十分にあるのです。


日本の山岳地域で地震があったなら


これからのシーズン、登山人気の拡大などもあって、富士山など、人気の山などでは登山道が長々と渋滞するような場所も出てきます。もしも岩場や急坂などがあるような登山コースを回るのであればぜひヘルメットの着用を心がけてください。自分自身も登山中に地震を(弱いものでした)経験したのは過去一度だけですが、この地震多発国ではいつ何時そのような事態になるとも限りません。大きな地震であれば余震による落石、土砂崩れの可能性もありますので、山頂方向からの落石に注意を払いつつ、落下物があるようならすぐに身を隠せるような大木や岩陰に身を低くして揺れをしのぎましょう。大きな揺れであれば余震や二次災害の可能性もあるので、早めに下山をすることをおすすめします。

また登山道が河川の周辺であったり、河川沿いのキャンプ地にいたりした場合に地震を感じたなら、すぐに河川の周辺から沢を避けるようにして離れなければなりません。地震直後には上流でのダムの決壊や、土石流が沢沿いに発生する可能性があり、避難が遅れ、巻き込まれれば助かる可能性は非常に低くなります。国内での山間部における地震というと、すぐに2004年最大震度7を記録した新潟中越地震を思い起こしますが、この時も山崩れなどによる土砂災害や多数の土石流が発生しています。ところが、その規模から比較して家屋の被害、死者数が圧倒的に少なかったのは日本の家屋の耐震性の高さ、豪雪地域特有の強度があったためでしょう。ただ地震発生時は10月であって屋根に積雪があった場合には木造家屋は二階の重量によって倒壊する可能性が高くなるため、降雪期であれば被害の状況はまた大きく変わったとも考えられます。

山を愛する多くの人々の憧れの地であるヒマラヤ山脈。たとえ地震がなかったとしても大変なリスクを抱えてチャレンジする場所なのですが、地震災害がネパールという国の存立を危うくするほどの大惨事になっています。一昨年、エベレスト登頂直前の登山家、三浦雄一郎氏にインタビューする機会があったのですが、8000mを超えるような登山は本当に死と隣り合わせの世界。ほんの少し酸素ボンベを外しているだけで簡単に絶命してしまうとおっしゃっていました。それでもあえて自分の限界を超えて挑戦する姿勢と生き方にいたく感動しましたが、そんな感動を生んでくれる、多くの登山家たちの憧れの地を保護するためにも、日本政府の早急かつ手厚い対応をお願いしたいと思います。

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