茨城県つくば市で起きた竜巻被害(写真:和田隆昌)
恐ろしい竜巻被害
春は「季節の変わり目」であることから、大陸からの寒気と太平洋側からの暖かい空気がぶつかる傾向があります。その温度差が大きくなることによって、低気圧や積乱雲が急速に成長し、まるで台風のような強風が吹き、豪雨、雷、ひょうなどの気象現象をもたらし、場合によっては竜巻などの局所的な強風による大きな被害が発生することがあります。この春の嵐(メイストーム)と呼ばれる現象は、夏期に起きる台風などよりも広範囲に影響を及ぼし、時に日本列島全体にまで広がる場合があります。また、その成長は急速なため、発生の予測が難しい傾向があります。
2012年5月6日発生した茨城県つくば市、常総市などで発生した竜巻では、死者1名、負傷者30余名、300棟を超える家屋が全半壊しました。この日、日本海に低気圧が発達し、この低気圧に向かって太平洋側から暖かい空気が流れ込み、太平洋側の東海地方から東北地方への広い範囲で大気の不安定な状況を生み出しました。上空の氷点下21度にもなる強い寒気とぶつかってスーパーセル(巨大積乱雲)が発生。この積乱雲に伴って竜巻が複数発生、つくば市の被害範囲は500mの幅で15kmの範囲に及び、藤田スケール(竜巻の強さ)でF3 (風速70m/sから92m/sに及ぶ)と認定され、国内でも最大クラスの竜巻であったとされています。
翌日の7日につくば市の被災現場に入りましたが、木造家屋が基礎から倒され、多くの建物の屋根や壁が吹き飛び、駐車場には転がって大破した車が多数散在していました。特に竜巻の進行上に在って、直撃を受けた集合住宅では、飛来物によってベランダがひしゃげて破壊されるほどの衝撃を受けていて、窓が枠ごと飛んでしまっているような惨状。そして蛇行しながら移動して行った竜巻の、通り道にあった商店街は、破壊しつくされ、まさに爆撃を受けたようでした。ところがそこからほんの少し離れた位置にある家屋は全く被害がないというような、竜巻特有の局所的な被害状況が見られた災害でした。
春の嵐が起きる条件と対策
春の嵐はどんな気象条件において起きるのでしょうか?台風は、夏から秋にかけて、日本の南海上にある低気圧が発達して日本近海にやって来るものですが、最近は冬から春にかけて、日本海上に巨大な低気圧が急速に発達する場合があります(爆弾低気圧とも呼ばれる)。台風であればその被害範囲は進行上においてほぼ限定されているため準備や対策がしやすいのですが、春の嵐の場合には、短時間で急速に積乱雲が発達するために予測が非常に困難です。それまで晴天だったのに、にわかにかき曇り、雷雨や突風が吹き始めるということがあります。
気象庁も本年度より新しい気象衛星「ひまわり8号」の運用を開始するとあって、さらに精度の上がった気象予測が行われると期待されていますが、これまでの観測データが細密になった上に映像がカラー化され、さらに30分に一度しか出来なかったデータ収集がわずか2分半に短縮されることで、これまで難しかった積乱雲の発達や、竜巻の発生など、気象の急変にも対応できるので、それらの予測に効果を発揮出来るのではないかと言われています。
春の嵐が吹くような気象状況を天気予報が伝える時のキーワードで「大気が不安定」という言葉があります。これは今、晴れていても天気が急変する可能性があるということです。急な降雨、雷、ひょう、突風(時に竜巻)が発生する場合があります。基本的に室内に退避していればまずは問題ないのですが、まだ夕方でもないのに空が急に暗くなり、湿った風が吹いてきた、遠くに雷の音が聞こえ始めた場合は注意が必要です。車の運転中の場合は屋内駐車場に入れる、頑丈な鉄筋の建物内に退避するなどの行動を心がけましょう。
また自宅で天候の急変が予測された場合には、早めにテラスにある植物などを室内に入れ飛来物のないようにする、雨戸を閉めるなどの強風対策をした上で、さらに強風が吹いて窓が割れるなどの被害を受けた場合には、風下の部屋(ない場合には風呂、トイレなど)で風が収まるのを待つ、などの行動が被害を最小限にするポイントです。