代表チームでベースアップに着手、ジョーンズ監督の功績
オーストラリアのブランビーズを率いて2001年シーズンのスーパーラグビーを制したエディー・ジョーンズ氏がヘッドコーチに就任して以降、日本代表は飛躍的に成長を遂げ、それに連れて海外ラグビー関係者の日本人選手を見る目も変わってきました。そのように「ちゃんと見てもらえる環境が整ってきた」ということも、スーパーラグビーに挑戦する選手が増えた要因だと思います。この点については、はっきりジョーンズ監督の功績と言えます。ジョーンズ監督は、「真っ直ぐ走って、ちゃんとパスをし、ちゃんとキャッチする」といったラグビーにおいてもっとも大切なベースの部分を鍛えるところから手をつけました。ハンズアップ、アーリーキャッチ、フォロースルー、ストレートランといった、初めてラグビーをする人に教えるようなことを、代表チームでも徹底的にやったのです。
いままでの代表では、実はこの部分がおろそかにされていて、それらができないまま代表に選ばれ、教わらないまま試合をしていました。ジョーンズ監督はそこを変えた。それによって選手のファンダメンタル(プレーの基礎的な構成要素)がしっかりと確立されました。
もしジョーンズ監督がそうしたことに手をつけなければ、‘16年シーズンから日本チームがスーパーラグビーに参戦するという大きな転換点を迎えるこの重要なタイミングに、これほど多くの選手をスーパーラグビーに輩出することはできなかったでしょう。ジョーンズ監督自身も、現在の代表の中でファンダメンタル向上に徹底して取り組んでいる選手であれば、自信を持って海外に送り出せるはずです。
自信と課題が日本ラグビーの未来を変える
一流と言われる選手の中にも、「能力は高いけれど基本スキルができていない選手」はいます。そういう選手が海外にいっても、まず通用しません。しかし基本スキルを身につけているかどうかは、キャリアがあるコーチでも意外に見抜けないものです。多くのコーチは、代表の練習や試合を見て、「キャッチがダメ」「パスがダメ」とは言いません。なぜならプレーがうまくいったかどうかに注目するため、そうしたベースの部分にはなかなか目が向かないからです。しかし実際にはそれこそがもっとも世界と差がある部分であり、ジョーンズ監督は徹底してそこのトレーニングに取り組んみました。今シーズンの日本選手権で初優勝を果たした清宮克幸監督率いるヤマハ発動機もファンダメンタルの向上に力を入れたそうですし、トップリーグのグループステージを首位で通過した神戸製鋼のギャリー・ゴールドヘッドコーチもそうだったようです。日本代表とトップリーグの各チームがラグビーの基本に立ち返り、地味なベース部分の強化に地道に取り組んだ。その成果が、これほど多くの日本人選手がスーパーラグビーに続々と挑戦する時代が到来したことだと言えます。
スーパーラグビーにチャレンジする選手が増えることで日本ラグビーにもたらされる影響は、大きく2つあると思います。ひとつは、「日本人でもやれるんだ」という自信が生まれることです。実際にスーパーラグビーでプレーする選手自身はもちろん、その姿を見た若い選手たちも、「自分たちだってやれる」と思えるようになっていくでしょう。これまでは「花園に出て、●●大学に進み、日本代表になる」といったところでとどまっていた目標が、これからは「スーパーラグビーで優勝したい」「日本代表としてNZを倒す」というように、目標のレベルが変わってくる。これはとても大きな進歩です。
もう一方で、「日本では飛び抜けてすごい選手でも、スーパーラグビーではこの部分はこんなに通用しないんだ」ということがはっきりと認識できることも、すごく重要だと思います。スキルはもちろん、集中力やファイティングスピリットなど、外から見るだけではなかなかわかりにくい部分まで体感できるわけですから、これは大きな学びの材料となるはずです。
自信を得る反面、足りない部分も知ることができる。この2つの要素は、日本ラグビーにかつてないほどの好影響を与えてくれると思っています。