妊娠・授乳期の薬と健康

妊娠中・授乳期のインフルエンザ対策2014-2015

インフルエンザの最新診療ガイドラインに準拠した、妊娠・授乳中のインフルエンザワクチンや、抗インフルエンザ薬の使用についての解説と、日常生活における感染予防対策、インフルエンザは自然治癒力で治すという方へのアドバイスなどについて紹介します。

赤岩 明

執筆者:赤岩 明

妊娠・出産ガイド

インフルエンザは感染力の強さや重症度から、医学的には一般の風邪とは区別されて考えられています。特に妊婦は重症化しやすく、肺炎などの合併症を引き起こすこともあります。
2009年の新型インフルエンザ流行では、当初、海外から多数の妊婦死亡が報告され心配しましたが、幸い日本では妊婦の死亡例はありませんでした。日本は発症48時間以内に医療機関の受診が可能で、迅速検査の上、早期に抗インフルエンザ薬を投与したことが一因と考えられています。例年なら抗インフルエンザ薬に頼らず、自然治癒力で治すという方も、この新型の際には医療機関を受診した方が多かったようです。

その新型ウイルスも、現在では、例年流行する季節性インフルエンザ・ウイルスの1つとなりました。最新の妊娠・授乳期のインフルエンザ対策について、以下の順で具体的に紹介します。

・ インフルエンザの診療ガイドライン2014とその解説
・ 日常生活における感染予防対策
・ 自然治癒力で治す方へのアドバイス


■インフルエンザの診療ガイドライン
(産婦人科診療ガイドライン 産科編2014 から引用)

1.インフルエンザワクチン接種の母体および胎児への危険性は妊娠全期間を通じて極めて低いと説明し、ワクチン接種を希望する妊婦には接種する。(推奨レベルB)

2.感染妊婦・授乳婦人への抗インフルエンザ薬投与は利益が不利益を上回ると説明する(尋ねられたら)。(推奨レベルB)

3.インフルエンザ患者と濃厚接触した妊婦・授乳婦への抗インフルエンザウイルス薬予防投与は利益が不利益を上回る可能性があると説明する(尋ねられたら)。(推奨レベルC)

推奨レベルA:実施を強く勧められる
推奨レベルB:実施を勧められる
推奨レベルC:実施を考慮される


ガイドラインでは、ワクチンの有用性は高く、総合的判断として接種を推奨していますが、ワクチン接種をしない考えも容認しています。

ワクチン接種回数は1回で、流行が本格化する前の10~11月に行い、免疫効果は4~5ヶ月間続きます。現在使われている不活化インフルエンザ・ワクチンで流産や先天異常の危険性が高くなることはないとされ、接種は妊娠全期間、および授乳期にできます。妊娠中にワクチン接種することで、生まれた児もインフルエンザに罹りにくくなることがわかっていますが、免疫効果が発揮するまでに2週間かかるので、出産が近い方は早めに接種する必要があります。

現在日本で使われているワクチンには、保存剤としてエチル水銀(チメロサール)を含む製剤と、含まない製剤があります。保存剤添加ワクチンも安全性に問題はありませんが、基本的には、妊婦には保存剤無添加の製剤を使うように努めています。ただし保存剤無添加の製剤は、年末までにその年度の在庫が切れることもあるので、ワクチン接種を希望する方は、早めの接種が必要です。


妊娠・授乳中にインフルエンザを発症した場合には、妊娠全期間、および授乳中を問わず抗インフルエンザ薬を処方してもらえます。抗インフルエンザ薬には、タミフル(内服)、リレンザ(吸入)、ラピアクタ(点滴)、イナビル(長時間作用吸入)があり、いずれも妊娠、授乳中の使用は可能ですが、インフルエンザのタイプや流行情報、薬の使用方法の違いなどから医学的な判断で使い分けられます。特にタミフル、リレンザは使用経験が多く、安全性が高いとされています。

医療機関によっては、通常の外来受診の手順とは異なる場合がありますので、妊娠中である事、インフルエンザを疑う症状がある事をあらかじめ、電話で伝えて受診します。  優先的に診察、薬の処方をしてもらえる可能性があります。

授乳中に発症した場合も、重症化していない方は抗インフルエンザ薬を使用しながら直接授乳を続けることができます。もし入院中なら、他の母子との接触を避けるために、母児同室で個室隔離となる場合もあります。発症の時期や施設の実情によっても指示は異なります。


インフルエンザ発症者と濃厚接触があった時に、抗インフルエンザ薬を予防的に投与することは認められていますが、その場合は健康保険は適応されず、自己負担となります。


■日常生活における感染予防対策
普段から、周囲の人にウイルスを拡大させないエチケットが、感染の広がりを予防します。個人の注意が、お互いの感染予防になります。自分だけを守ろうという発想では流行は防げません。

・ 石けんと流水による頻回の手洗い。手指消毒用アルコールも活用する。
・ 咳とくしゃみをする際は、ティッシュで口と鼻を覆う(咳エチケット)、素手で覆ってはいけない。
・ 発病した時は可能な限り自宅で療養し、やむなく外出する際はマスクを着用し、周囲の人から離れる。

うがいや健常者のマスクは、海外では重視されませんが、習慣がないだけで無意味という事ではありません。外出から帰ったら、うがい・手洗いは日本の良い習慣です。うがいは、水、塩水、うがい薬(イソジンも可)のいずれでも好みでOKです。

十分な休養・睡眠、栄養を取り免疫力を保ちましょう。不必要な外出は避けます。室内の換気や空気清浄機、湿度を50~60%に保つ、人の手が触れる場所をまめに掃除する、などは感染予防に有効です。

発症時に、数日間は外出しなくてすむように飲料水と食料を備蓄しておきます。発熱時にスポーツドリンクやビタミン飲料が有用です。スポーツドリンクを10リットル程度と、効能に「発熱性消耗性疾患・妊娠授乳期などの栄養補給」と記載された医薬部外品のビタミン飲料をインフルエンザ・シーズンは常備しておきましょう。


■インフルエンザを自然治癒力で治す方へのアドバイス

ワクチン接種はしない、抗インフルエンザ薬は使わないという方もおられます。インフルエンザは本来、自然治癒力で治るという考えはその通りです。中には、インフルエンザに罹っても重症化しない人もいますが、それはおそらく、その人の免疫システムが優秀ということです。免疫システムとその記憶には個人差があります。自分の経験が、全ての人に通用するとは限りません。

インフルエンザに総合感冒薬は効きません。薬で症状を緩和させ、休養を取らずに仕事などを頑張ることは非常に危険ですし、周囲の人にウイルスをまき散らすことになります。抗生物質も、細菌性肺炎を併発した最重症の場合以外には使いません。

発熱、頭痛、関節痛などの辛い症状に対しては、2リットル以上の飲水と保温で発汗を促し、症状の改善をはかることが大事です。妊娠中はアセトアミノフェン以外の解熱鎮痛剤は使用しません。特に妊娠後半期にボルタレン、インドメタシン、ロキソニンなど解熱鎮痛剤を自己判断で使うことは胎児にとても危険です。
人生で経験したことがないほどの症状の時は、産科の担当医に電話で連絡し、指示を仰ぎましょう。


※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※妊娠中の症状には個人差があります。記事内容は執筆者個人の見解によるものであり、全ての方への有効性を保証するものではありません。体の不調を感じた場合は、適切な医療機関での受診をおすすめいたします。当サイトで提供する情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当社、各ガイド、その他当社と契約した情報提供者は一切の責任を負いかねます。

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