現行ハーレーの中でも3本の指に入る「軽さと取り回しやすさ」
この世に取り回しやすくて軽いオートバイはいくらでもありますが、ハーレーの現行ラインナップのなかで見れば、アイアンは3本の指に入る軽さです。またローダウン仕様ということから重心も低いので、「オートバイの取り回しに不安がある」という人でも、シートに腰を添えてハンドルを握り、お互いを支え合うようにして取り回してやれば、その不安はかなり解消されるでしょう。身長174cmの僕がまたがってみると、見事にベタ足。ヒザも「十分です」と言いたくなるぐらいゆとりがあります。ハンドル位置はさほど遠いとは思いませんでしたが、小柄な人だと印象は変わるかもしれません。ただ、オーナーとして楽しまれるのであれば、体を前方でホールドしてくれるシートに換えるだけで解消するのではないでしょうか。その際、ステップ位置がやや手前に来ますが、元々ミッドコントロールなので、小柄な人であればむしろちょうどいいポジションになるかも。
ストリートで映えるダークスタイル
5年ほど前に試乗したことがあるアイアン、当時の印象は「低すぎて、高めの段差で(車体の)底をこする」、「コーナーで曲がる際、ちょっと車体を寝かせただけでステップ(バンクセンサー)をこする」と、こするイメージしかありませんでした。そして久方ぶりの試乗で、この数年前の印象を再確認してみたところ……全然変わっていませんでした。当たり前ですね(笑)。たとえばコンビニに入ろうとして段差を乗り上げようとする際、ちょっといいスピードがついて飛び込んじゃうと、フレームの下をゴンっ!と当ててしまいます。また時速80~100kmほどで巡航する高速道路での走行時には、ローダウン仕様のため段差を乗り越える際の衝撃を緩和しきれず、ライダーへ伝わる衝撃の度合いが通常のオートバイ以上にもなります。結果、体に疲れが蓄積されて長距離を乗るのがしんどくなったりも。足着き性が良くなるということから、多くの方が取り入れられるローダウンですが、オートバイとして楽しむ際に犠牲となる部分が少なからず存在します。
何事にもメリットとデメリットの両方があり、あとはオーナー自身がどちらを優先したいかをチョイスするということ。元々ローダウン仕様であるうえ、積載能力もないのでツーリング向きとは言えず、ワインディング(峠)に持ち込んでもバンク角がないので乗り手はフラストレーションを溜めてしまいます。とすると、アイアンがその魅力を存分に発揮できるのはストリート、いわゆる街乗りです。
街中で乗る分には、アイアンはなかなかに楽しいです。ポジションがコンパクトで動きもクイックなので、低速で引っ張りながらコントロールできる楽しさがあります。例のごとくセッティングが日本仕様とされているためエヴォリューションエンジンのパワーをめいっぱい引き出しきれていませんが、中排気量モデル(400ccまでのものを指す)だと思えば、これはこれでアリかもしれません。もちろん、排気量883ccのパワーを引き出してやれば楽しさは倍増しますが。
ダークカスタムモデル & ローダウン仕様という組み合わせは、ストリートという都会的なステージを想定してのカスタムモデルであることの証。加えてこのラメラメギラギラなデザインのハードキャンディーカスタムが、都会のネオンにまばゆく映えるのです。
塗料にラメをまぶして塗り込むキャンディーペイントは、元々1970年代のアメリカで生まれたペイント手法で、モーターサイクルカスタム全盛期だった当時のチョッパーバイクやヘルメットに多く見られます。これ、はるか未来の世界に対する憧れを抱いていたアメリカという国ならではの表現方法でもあったのです。
1960年代のアメリカで起こっていたことのひとつのカルチャーテーマに『宇宙』があります。1968年に公開されたスタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』、1966年にはじまった米人気ドラマ『宇宙大作戦(スタートレック)』、そして米ソ冷戦にともなう宇宙開発事業の競争と1969年アポロ11号による人類初の月面着陸……。当時のアメリカのアンティークも未来志向による奇抜なデザインのものが多く、キャンディーデザインもそうした独自のカルチャーから生まれたもの。カスタムカルチャーあってこそのハーレーダビッドソンですので、アイアンをはじめとするハードキャンディーカスタム採用モデルは、そうした1970年代のアメリカへのオマージュと言えるものなのです。
スポーツスター本来のF19 / R16スタイルを今なお貫き、旬のダークカスタムをベースにヴィンテージデザインをまとうXL883N アイアン。キャラクターがはっきりしたオーソドックスモデルですので、ここからオーナーが自分色に染めていく——つまりは乗りやすくカスタムしていくことで、楽しみはどこまでも膨らんでいきます。「この世に一台だけの、自分のバイクが欲しい」という方におすすめのモデルですね。
[HARLEY-DAVIDSON XL883N SPECIFICATIONS]
全長/2205mm
全幅/855mm
全高/1105mm
ホイールベース/1515mm
加重時シート高/735mm
車両重量/257kg
エンジン型式/Air-cooled, Evolution
排気量/883cc
フュエルタンク容量/12.5L
フロントタイヤ/100/90B19 M/C 57H
リアタイヤ/150/80B16 M/C 77H
メーカー希望小売価格(消費税込)/[モノトーン] 115万円 [ハードキャンディーカスタム] 118万5,000円
(2014年9月現在)