イギリスの歴史をまとったブリティッシュ モーターサイクル
「リッター(排気量1,000cc)ものパワーはいらない、適度にトルクを感じながら“流して走る”のが楽しいバイクがいい。それでいて、ノスタルジックな雰囲気も持っていてほしい」
そんな要望にぴったりなのがこのボンネビルT100。トライアンフの同じカテゴリーに、T100がつかないスタンダードタイプの『ボンネビル』というモデルがありますが、その趣きはこのT100とは少々異なります。
ベースこそ同じものの、ボンネビルはフロントタイヤ系を小さくし、乗りやすくしたストリートタイプのモデルであるのに対し、このT100はビンテージフォルムを忠実に再現したモデル。いわゆる“似て非なるもの”ですので、購入を検討される際はご自身のバイクライフに近い方を選ばれるのがいいと思います。
そんなボンネビルT100のライバルモデルとして挙げられるのが、ハーレー スポーツスター883シリーズにカワサキ W800。この3タイプのあいだで購入を悩まれるユーザーが多いと聞きます。それぞれに魅力的な特徴があるわけですが、“ノスタルジックな雰囲気を持つネオクラシック”という共通項を軸に、好みが分かれていくようです。
個人的にはその違いを大きく感じるのはカラーリングとデザインです。近年のハーレーはキャンディーフレークなど1970年代のカスタムシーンをほうふつさせる派手なものが多いですが、トライアンフのネオクラシックはそのカテゴリーに忠実であろうとすることからか、ベースカラーをクラシカルにしつつ、ピンラインやサブカラーでアクセントを加えるヨーロッパらしさを感じるデザインに。ちなみにトライアンフのピンストライプはすべて職人の手作業によるものだそうです。目を凝らすと味わいのあるラインが引かれているので、近くで見られる機会がある際はぜひ着目してみてください。
その乗り心地は、ひとことで言えばマイルド。バーチカルツインエンジンが奏でるサウンドは、デザインと同じく派手ではないけどしっかりとパワーを感じさせてくれるもの。加速時の吹け上がりは実に素直で、ちょうど良いポジションのハンドルに厚みのあるシート、足を降ろしても邪魔にならないステップ位置と、オートバイとしてのバランスの良さが際立ちます。身長174cmの僕の感想なので、小柄な人が乗った印象はまた違うものになるかと思いますが、それでも不安なくコントロールできるモデルだと感じられるでしょう。
そんなライディングフィールを支えているのが、英トライアンフ モーターサイクル社の“世界を見据えた取り組み”です。海外メーカーのモデルに乗る際、チェックせねばならないのが排ガス規制の違い。日本の基準は世界でも極めて厳しいものとされており、基準が低い国からやってくるモーターサイクルは、輸出の際に日本の基準に合わせたセッティングに変えてきます。しかしそれによってセッティングのバランスを失うこととなり、なかには本来持つパワーを引き出せずにいるものも。
しかしトライアンフは、セッティングの基準を自国ではなくインターナショナルなものに合わせているため、セッティングを変えることなく日本に輸出できるというのです。つまり、メーカーが「これがこのモデルにとってベスト」という状態で、世界の誰もが変わらないトルク感を堪能することができるというわけです。イギリスを走っているボンネビルT100も、日本を走っているボンネビルT100も同じ仕様だと考えると、イギリスの歴史そのものをまとって届けられているような気持ちになりますね。
トライアンフの代表的モデル ボンネビルT100。伝統的なスタイリングのこのモデルは、さまざまな困難を乗り越えてきた同メーカーの歴史はもちろん、イギリスという国の薫りを漂わせる“何か”をも持ち合わせています。T100と走り出せば、普段見慣れた風景が違ったものに変わっていくことでしょう。その味わい深さは、ブリティッシュ モーターサイクルの名にふさわしいものです。