星空の下の練習、髪も洗えず、グラウンドで寝る指導者も…
夏合宿には、それこそ地獄を連想させるようなエピソードがたくさんあります。私が現役だった当時よくあったのは、「星を見るぞ」と言われること。早朝から始まった練習が夜中まで延々と続き、真っ暗な中、星明かりだけを頼りにボール追ったり、ぶつかり合ったりしていました。また「髪の毛を洗えなくなる」というのも、よくある話です。腕がパンパンに張って上がらなくなり、仲間に洗ってもらう選手をしばしば見ました。中にはとことんまで疲れ切って、着替えずにベッドで寝てしまい、翌日そのまま練習に出るという選手も…。指導者の中には、あまりにも熱中しすぎてグラウンドの横で寝起きしていたという人もいます。文字通り、一日中グラウンドにいたわけです。
おもしろいのは、これらはすべて実話なのですが、当時はだれもそれを不思議なことだとは思っていなかった、ということです。「夏合宿で勝負をかけなければならない」という人間の気迫が、そういうことを可能にさせるのだと思います。
未来を担う原石や目指すスタイルを発見。
夏合宿ならではの見どころ
公式戦のシーズンが始まってしまうと、基本的にはずっと試合を見ることになります。だからこそ夏合宿では、「練習」を見るのがオススメ。そのチームがどんな練習をしているかを見ることで、何を重視し、どんなスタイルを目指しているかがわかるようになります。もうひとつ、夏合宿では練習試合を行う際、1軍同士だけでなく、2軍同士、3軍同士、4軍同士…というように、グレード別にたくさんの試合をやることがよくあります。公式戦で見られるのは1軍だけですが、2軍以下には将来そのチームを背負って立つような原石が必ずいます。そうした選手を探してみるのも、夏合宿の楽しみ方が広がると思います。
おもしろいのは、チームによっては1軍だけではわからないけれど、2軍、3軍の試合を観戦することで、目指す戦い方が見えてくることがあります。1軍の試合ではエースや中心選手のプレーにチーム戦術が影響を受けやすくなりますが、2軍以下ではそうした個性が目立たないぶん、よりチームとしての戦い方が明らかになりやすい。それぞれのチームのスタイルを知るという意味で、2軍以下の試合はいい試金石になります。
美しい風景、おいしい食べ物。魅力一杯の夏ラグビー
夏合宿は多くの場合避暑地で行われるので、夏でも気候的に涼しく、風景もすばらしいところが多くあります。シーズンになれば都市部のスタジアムで試合を見るわけですが、緑に囲まれた牧歌的な風景の中で激しいラグビーを見る機会は滅多になく、ある意味贅沢な環境といえます。ラグビーにそれほど詳しくなくても、美しい景色に囲まれ、おいしい空気を味わいながらラグビーを見れば、きっと清々しい気分になるはずです。最近ではラグビー以外のスポーツをできる施設も増えてきており、テニスやサッカー、グラウンドゴルフ、ハイキングなどを楽しむこともできます。夏の過ごし方としては、とてもいい時間になるでしょう。
また合宿地には食べ物も新鮮でおいしいところが多くあります。体づくりが重要なラグビー選手が多く集まるわけですから、町全体で食に対する意識が高くなければなりません。指導者にすれば全国から集まってくる仲間と交流する貴重な機会でもあり、食事をしたりお酒を飲んだりできる場所も数多くあります。
7月から8月は日本中のあちこちの避暑地で、ラグビーの夏合宿が行われています。ぜひ、普段目にするラグビーとは違った「夏ラグビー」を楽しむために、その様子を見に行くことをお勧めします。