地獄とも形容される過酷さ。その本当の意味とは…
ラグビーの夏合宿といえば、かつては「地獄の…」といったフレーズで語られるほど、過酷なトレーニングを行うのが通例でした。多くの指導者は、ここでとことんまで追い込むことによって、チームを2倍も3倍も強くしようと考えます。選手にとってはまさに地獄であり、理不尽なほどの練習をしたり、味わったことのない過酷な経験をするのが、ラグビー特有の夏合宿だったのです。そしてこうした文化は、科学的で理論に裏づけされたトレーニングが浸透したいまの時代だからこそ、否定されるべきではありません。もう一度その効果を検証し、正しく評価すべきだと私は考えています。
最近では世界的な強豪国の中にも、ワールドカップ直前に軍隊の施設で厳しい鍛錬を積み、身体面だけでなく精神面も強化して本番に臨むというケースが増えてきました。ラグビーで絶対に必要となる「試合終盤のもっともキツい時間帯で踏ん張れる力」を養うためには、そうしたことが不可欠です。そう考えれば、日本流の夏合宿には大きな意味があるということが、おわかりいただけると思います。
チーム一丸で試練を乗り越えることが、忠誠心と一体感につながる
もちろん厳しい練習が単なるしごきや体罰などになっては問題外です。しかし全員が一丸となって、普段はとてもできないような過酷な練習を乗り越える――ということを目標にしているチームなら、地獄の合宿を経験することで、天国へ向かう道を切り開いていけるはずです。この時代だからこそ、みんなで協力して何かを成し遂げる、狂気的なほど何かに没頭するという機会をチームとして設定することは、とても大切です。それが最終的にチームに対する忠誠心にもつながっていきます。これはラグビーをやっている人間なら誰でもわかることですし、いまはあえてそうした機会を、ロジカルにチーム作りに活用している国々が増えているのです。
そしてそもそも日本には、昔からそうした文化があります。多くのチームがこのことを正しく理解し、選手、スタッフ一丸となって厳しいトレーニングを乗り越えることができるようになれば、日本ラグビーのレベルはいまよりさらに向上すると思います。