そのスタイルは古き良き時代を思わせる
今回ご紹介するFLSTN ソフテイルデラックスですが、まずはファミリー区分のひとつである「ソフテイル」という名についてお話しさせてください。これは「ソフトテイル」(優しい尾っぽ)という言葉をもじって生まれたものなのですが、これだけでもまだ分かりませんよね(笑)。ただ、この説明なくしてソフテイルは語れないのです。バイクというのは、まずフレームありき。ここにエンジンやフューエルタンクなどが積載され、前後にホイール&タイヤを履かせてバイクとしての形状が象られます。そしてライダーが乗って走り出すわけですが、走行時に発生するライダーへの衝撃をやわらげるために「サスペンション」と呼ばれるものが前後に備わっています。で、バイクを大きく区分する際、後ろ側……リアサスペンションの本数で見ることがあるのです。
スーパースポーツ系やオフロード系、BMW Motorrad、ドゥカティなどの新型モーターサイクルに見られるのがリアサスペンション1本の『モノショック型』、そしてハーレーのその他モデルやヤマハSR、カワサキW800などクラシカル系に見られるリアサスペンション2本の『ツインショック型』。現代のモーターサイクルは大抵このどちらかに分類されますが、ソフテイルはこのいずれにも属さない、『ソフテイルフレーム』という、一見するとサスペンションが見えない、三角形のラインが印象的なデザインのフレームを採用しています。
この形状は20世紀初頭、ハーレーダビッドソンが創業間もない頃から採用していた『リジッドフレーム』と呼ばれるもので、当時はもっともスタンダードなフレームでした。道路の障害を乗り越える際の衝撃の大きさからついた呼び名が、通称“ハードテイル(激しい尾っぽ)”。その後、モーターサイクルそのものが進化し、快適な乗り味を実現するためのサスペンションというものが生み出され、それを用いたツインショック型フレーム、そしてモノショック型フレームなどが誕生したのです。
しかし、ハーレーダビッドソン本来のスタイルを表現するにはリジッド型フレームでなくてはならない。かといってサスペンションがないフレームはメーカーとして供給できない。そこで、「ならばリジッド型フレームの下にサスペンションを内蔵してみよう」というアイディアから、フレーム下部に特性サスペンションを仕込んだ優しいタッチのリジッド型フレームが開発され、ソフトテイルフレーム「ソフテイル」が誕生したのです。歴史の流れでいえば、リジッドフレーム(サスなし)→ツインショック→モノショックというところ。つまり、このソフテイルフレームにはビンテージなスタイルにこだわったハーレーダビッドソンのメーカーとしての哲学が詰め込まれているというわけですね。
ソフテイルファミリーはすべてこのスタイリングありき。そのうえで、FLSTNソフテイルデラックスの特徴についてご紹介します。本モデルがデビューしたのは2005年と、ちょうど10年前。伝統を物語るソフテイルファミリーのニューカマーとして登場した際は、前後のホワイトリボンタイヤにトゥームストーン(墓石)テールランプ、フォグランプが備わったヘッドライトまわり、ビンテージルックなサドルシートなど、戦後まもない頃のハーレーダビッドソンをほうふつさせるクラシカルなスタイルがその特徴として知られました。以降、デザインがまったく変わることなく、FLSTFファットボーイやFLSTCヘリテイジソフテイルクラシックとともに現行ラインナップを彩り続けています。
またソフテイルにはチョッパースタイルの『FX』モデルと、ノスタルジックスタイルの『FL』モデルのふたつがあるのですが、このデラックスはその名のとおり『FL』系モデル。これは油圧式フロントフォークを初めて採用した1948年『ハイドラグライド』を模したもので、これもビンテージスタイルを表現するうえで欠かせないポイント。あらゆる側面から、100年以上に渡るハーレーダビッドソンの伝統を語り継ぐモデルとして存在するというわけです。
これだけ喋っても、まだデラックスの魅力を語り尽くしたとは言い難いのですが、挙げていったらキリがないので、いよいよ実際に試乗した感想へと進みましょう。