オーストリアの治安と犯罪、および対策
オーストリアといえば優雅な音楽の都であったり、アルプスののどかな山小屋風景であったりと、危険なイメージは思い浮かべにくいのではないでしょうか。確かに物騒な事件は日本ほど耳にせず、第二次世界大戦後に永世中立国となったため、テロの標的にもされにくいようです。そんなヨーロッパ内でも治安の良い部類に入るオーストリアですが、やはりテロリストが流入している可能性は無きにしも非ずですし、日本人旅行者を狙った軽犯罪は常時多発しているので、油断は禁物!ということで、今回は注意すべき場所とイベント、および典型的な犯罪例を紹介していきたいと思います。
<目次>
テロや暴徒に巻き込まれそうな場所
ここ数年、ヨーロッパではテロリストによる無差別大量殺人事件などが多数起こっています。幸いオーストリアではこの手の事件は未発ですが、やはり人の集まる場所は狙われやすいので、気を付けたほうが良さそうな場所を記しておきます。■クリスマスマーケット(毎年11月下旬~クリスマスにかけて各地で開催)
ウィーンの冬の見どころトップに入るクリスマスマーケット。2016年にベルリンのクリスマスマーケットがトラックで襲撃された事件を受け、ウィーンでも主要マーケットのエントランスにコンクリートブロックが設けられたり、治安維持部隊が巡回するようになりました。しかし何かあったとき速やかに脱出できるよう、事前に逃げ道や避難できそうな場所を見つけておくと安心です。
■ウィーン・アカデミカー舞踏会(毎年1月末頃開催)
極右思想の支持者たちが集う舞踏会。毎年、開催地であるホフブルク王宮付近では、反対派による過激なデモ行進が行われています。治安維持部隊は出動するものの、破壊行為が行われることもあるので、この日は外出しないほうが賢明です。
■ウィーン・シティマラソン(毎年4月開催)
通常は平和裏に終わるウィーンのマラソンイベントですが、アメリカのボストンマラソンでは2013年に爆弾テロ事件が発生たので、念のため注意してください。
■サマーナイトコンサート(毎年6月開催)
ウィーンのシェーンブルン宮殿の庭園で毎年催されるコンサート。入場料無料であるうえに、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏とあって、大変混みあいます。
■ドナウインゼルフェスト/ドナウ島祭り(毎年6月下旬開催)
週末にかけてウィーンのドナウ島で開催される、オーストリア社会民主党主催の一大音楽イベント。誰でも入場できるため、結構な人出に。
■レインボーパレード(毎年6月開催)
ウィーンのリンク通りで執り行われる華やかなLGBTパレード。特に2019年はヨーロッパのLGBTコミュニティのイベントであるユーロ・プライドがウィーンで開催されるため、より多くの混雑が見込まれています。
■ザルツブルク音楽祭(毎年7~8月開催)
ウィーンではオペラが休みに入る7~8月に、毎年ザルツブルクで開催される音楽祭。ウィーンフィルを筆頭に世界トップの音楽家たちが集う、モーツァルトを記念した祝祭で、世界中から観光客が集まるオーストリアの一大イベントです。
有事の際には同行者とはぐれてしまう可能性もあるので、あらかじめ待ち合わせ場所や連絡手段を話し合っておくと良いでしょう。
典型的な軽犯罪被害の例
オーストリアで被害に遭う日本人のレポートが毎月のようにあがっていますが、その筆頭は何といってもスリや置き引きなどの盗難です。そこで頻出手口を以下にまとめてみました。■その1 ビュッフェ形式レストランでの置き引き 毎月必ず発生する、ホテルの朝食ビュッフェなどでの置き引き事件。座席に荷物を置いて食事を取りに行った隙に、貴重品やバッグが無くなるというものですが、周りに日本人の団体旅行仲間がいるからと安心するのはNGです。手練れの犯人はそんな油断を見越し、旅行者が気を許した一瞬をついて犯行に及ぶので、貴重品はくれぐれも肌身離さず持っていてください。たとえ着席中でも、椅子の背にかけた鞄や床に置いた荷物は即座に盗難のターゲットにされるので、こちらも気を付けて下さい。
■その2 有名カフェでのスリ 旅行者で賑わうケルントナー通りにスリが跋扈しているのは有名な話。特にこの通り沿いに向かい合って建つ、五つ星のホテルザッハーのカフェとスターバックスコーヒーでは、現地在住の外国人でもよく被害に遭うことで知られています。ガイド自身もカフェ・ザッハーで、横の椅子に置いていた鞄が忽然と消えたことがありましたし、スターバックスでは新聞で姿を隠しながらにじり寄ってくるスリがいるとのこと。またコールマルクト通り沿いにある皇室御用達菓子店のデメルも、お土産コーナーがスリの巣窟となっているので、気を引き締めて下さいね。
カフェでの対策としては、
- カフェの出入口付近やオープンテラス席に座らない(カフェの外から手を伸ばされるため)
- 鞄は横、後ろ、下には置かず、必ず膝の上で握っておく
- ビュッフェスタイルのレストラン同様、セルフサービス方式のカフェでは決して座席に貴重品を置いたまま席を立たない。また隣のテーブルで何も注文せず、座って新聞を読んでいるだけなどの挙動不審な人がいないか、そして徐々に接近して来ていないか目を配る
■その3 夜行列車での盗難 夜行列車での移動時は取り分け注意が必要です。というのも、ウィーンからブダペストやプラハ、ベネチア行きなどの国際夜行列車では、個室に鍵をかけてもかなりの確率で外から開錠されるようで、夜に寝静まった際に個室に忍び入られ、鞄からお財布やパスポートを抜き取られるケースが後を絶ちません。対応策としては、
- 自転車用ワイヤーロックで鞄を手すり等に固定する
- 貴重品だけは就寝時に肌身につける。ただし服の中に隠していたのに盗難にあった人もいるので、パンツのポケット等のアクセスしやすい場所ではなく、トラベル用の貴重品ケースなどに入れて首から服の中にかける
- 列車の扉やカバンに防犯ブザーやうるさい鈴を付ける
- 踏んだら音が出るようなもの(丸めた新聞やビニール袋)を床に散らしておく
またオーストリアの国内旅行でも、網棚の鞄から貴重品だけ抜き取られたり、荷物の積み降ろしを手伝ってくれる人が犯人である場合が往々にしてあるので、昼間の列車旅行も十分注意してください。
■繁華街、観光地でのスリ 主要な観光地やショッピングストリートなどでは、ホットドッグやアイスクリームを食べている人にぶつかられ、慌てて汚れを拭き取っている間にお財布をすられる事件が多発しています。この他にも道を尋ねられたり、「服が汚れていますよ」などと話しかけてくるバリエーションがありますが、とにかく見知らぬ人から声をかけられたら一度は疑ってみた方が無難です。また不審人物に狙われていないか、周りに注意しながら歩くと良いでしょう。
■ニセ警官詐欺 こちらもオーストリアで長いあいだ横行している古典的な手口。警察手帳のようなものをかざした犯人が麻薬捜査と称して旅行者の所持品検査を行い、お財布を点検する間に紙幣をすばやく抜き取ったり、クレジットカードの暗証番号を聞き出すという詐欺犯罪です。本物の警官であればお財布を確認することはまずありませんので、無視するのが一番です。しつこい場合は「警察署に一緒に出頭しよう」と提案するのも手ですが、辺鄙な場所には連れていかれないようにご注意ください。
■ATMのスキミング オーストリアでは夜間や休日でも手軽に利用できるATMが多く設置されています。しかしウィーンの中心街では、ATMから暗証番号がスキミングされるケースが増えているので要注意。建物の外に設置されているATMは簡単にスキミング装置が設置されやすいので、お金を引き出す際には面倒でも、銀行の中のものを利用した方が安心です。窓口営業時間外には、銀行入り口のカード挿入口に自分のカードを差し込めば自動ドアが開く仕組みになっています。
難民による犯罪
隣国のドイツでは、浅黒い肌をした移民や難民申請者による集団性的暴行や強姦殺人事件が発生しました。オーストリアもEU政策の一環として、最近までドイツと同等に難民受け入れを推し進めていたため、シュタットパークなどの公園で日がな一日手持ち無沙汰に座っていたり、無料イベントに大挙してやってくる褐色肌の人々が散見されるようになりました。オーストリアでもウィーン2区のプラーターで婦女暴行事件が発生していますし、これからは給付金をはじめ難民支援を減らす方向に政策が進みそうですので、鬱憤のたまった人々が犯罪を引き起こす可能性も否定できません。一応情報としてお知らせしておきますので、頭の隅に入れておいていただければと思います。女性の一人旅
オーストリアは治安の良い国ですし、基本的に女性の一人旅でもさほど危険度は高くありません。とはいえ、昨今では前述のように難民によるレイプ事件も発生しているので、深夜に人気の少ない公園や森を一人歩きするのはやめたほうが無難です。またウィーンでの滞在先は中心街で人通りの多いウィーン1区や、大使館エリアの3区、中心街からほど近い4~9区の3つ星以上のホテルがお勧めです。一方、麻薬の売買がなされているウィーン2区のプラーターシュテルン駅近辺、移民が多く治安も比較的悪い10区、11区、ギュルテルと呼ばれる環状道路沿い、ターミナル駅のウィーン西駅(Westbahnhof)付近と地下鉄6番線沿いはできれば避けたいところ。あと万が一のことを考えて、お金は複数個所に分けて持つ、日本国大使館やクレジットカード会社の連絡先をお財布とは別に携行する、挑発的な服装やブランド物・宝石類を目立たせるような格好は控えた方が良いでしょう。夜間の外出
オペラやコンサートなどが旅行目的の一つであるウィーンやザルツブルクでは、夜に着飾った格好で出歩く機会も多いことでしょう。深夜に人通りの少ない場所を移動する際には、多額の現金は持ち歩かず、タクシーを利用することをお勧めします。事前準備と有事にすべきこと
犯罪に巻き込まれないようにするためには、事前準備が大切です。渡墺前に外務省海外安全ホームページを確認したり、3か月未満の渡航者用の海外安全情報配信サービス「たびレジ」に登録するとより安心です。また不運にも犯罪被害に遭ってしまった際には、ウィーンにある日本国大使館に連絡するか、現地の警察(独 Polizei)に赴いて、必ず被害届を出してください。警察・救急車・病院などの詳しい緊急連絡先はこちらです。ちなみにオーストリアで盗難に遭った鞄などは貴重品だけ抜かれ、後日残りが発見されるケースが80%(現地警察官談)と聞きますし、実際にガイドの盗まれた鞄も、会社の身分証が入っていたため、翌日拾った人が会社に届けてくれました。
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■在オーストリア日本国大使館領事部/Japanische Botschaft Konsularabteilung
住所:Heßgasse 6, 1010 Wien(グーグルマップ)
電話:(01)531 92 0 (国外からは+43(1)531 92 0)
窓口受付時間:月~金曜日(祝日除く) 9:00~12:00、13:30~16:30
2013年トルコの世界遺産カッパドキアにて、日本人2人が殺害および重傷を負う事件の発生を受け、オールアバウトニュースでも、警鐘を鳴らす記事、「欧州に住んで気づいた日本人女子旅行者の危うさ」を執筆しました。事件の規模こそ違えど、どこの国でも日本人旅行者が非常に騙しやすい存在であるのは同じである様子。ただオーストリアで発生する軽犯罪の多くは、犯行手口が極めて似通っているため、しっかりと気を付けていれば予防できるケースがほとんどです。楽しいはずの旅が、「こんなはずじゃなかった……」と苦い思い出になってしまわないよう、くれぐれも身辺には注意してご旅行くださいね!