国際基準として採択された日本の安全基準
燃料電池車普及のためには、水素の爆発に関する安全性が課題でしたが、2013年6月、日本、米国、欧州連合(EU)を含めた述べ33か国・地域が燃料電池車の安全性に関する国際基準を決め、日本案を基準として採用されました。その安全基準は、車両内に搭載するタンクの中の水素濃度の上限を4%とし、電子爆発を防ぐ仕組みを義務付けるというものです。これによって水素が万が一漏れたとしても、4%以下であるので着火の条件を満たさず、安全な車両となります。また、車体に対しての圧力を高めたり、低くしたりする作業を何万回繰り返すことで耐久性の高い車を作るための実験が繰り返されています。
この日本基準が国際基準として採択されたことを受け、世界の燃料電池車は日本仕様で展開されることになります。これから約10年で燃料電池車の市場は3兆円に拡大すると見込まれており、その市場の中で、国内の基準を満たす開発力がある企業や、製造生産ノウハウを持つ企業、IPなど知的財産を保有する企業など、各自動車関連企業は再度国際競争力をつけることが期待されています。
日本は、自動車産業においては既存の強固な産業構造を保有することから、これまで電気自動車のような産業構造を劇的に変えてしまう新技術、もっと言えば破壊的創造を伴う新技術を応援することが難しいという背景がありました。
しかし燃料電池車はハイブリット自動車の普及モデルと同様に、既存の産業構造を守ることができるという観点から、政府としても普及のためのサポートがしやすいという事実があります。そのため今後は官民で協調して燃料電子者の普及モデルが形成されていくでしょう。
(図)燃料電池車 安全基準として日本案採用
燃料電池車が普及するために
これまでに述べたような追い風が吹く中で、燃料電池車が普及するために今後必要となることは、どのようなことでしょうか。一つは、新たな普及モデルの構築です。燃料電池車は燃料電池の動力のみで走行することが可能ですが、車両技術とインフラの協調が普及には欠かすことができないため、ハイブリッド方式と組み合わせた普及モデルも視野に入れる必要があります。既存のガソリンスタンドの立場、水素スタンドの普及が進むことなどを考え、自動車大手各社は多くのサプライヤーとの垂直統合構造を壊すことなく、サプライヤー力を結集してさらなる進化に向けて取り組む必要があります。そして環境対応することはもちろん、エネルギー回収効率や、コスト低減に向けた動きを求めていくでしょう。
またユーザー目線で言えば、何より気になるポイントとしては、燃料電池車が販売される価格ではないでしょうか。数年前までは燃料電池車を購入しようとすると、なんと1台1億円もかかる時代がありました。
しかし、現在では普及期に向けて原価低減が進み、多くの代替材料を活用できる目途が立ってきたことから、2015年から16年にかけて燃料電池車の価格は一気に500万円程度に引き下げられると予測されるようになりました(日本経済新聞報道)。さらに補助金などを加えれば、一般家庭でも購入できるようになるでしょう。
政府も日本を牽引してきた自動車産業界を守るために、普及に向けた規制緩和や、研究開発など自動車メーカーの技術革新のサポートを強力に行っていくのではないでしょうか。