奥会津の手仕事の道具

カゴ好き、ザル好きってなかなか多いのかもしれませんが、実は私はこれらをほとんど持っていません。いや、昔はそれなりに色々持っていた時期もあったのですが、あるときわーっと全部放出してしまい、現在はほとんど手元に残っていない状態。今あるのはカゴが3つくらいで、ザルはひとつもなし。といって好きじゃないわけでもないのですが、見ていいな、可愛いなと思うことはあっても、むやみにカゴ・ザルを所有するのはやめました。

カゴやザルは収納などに便利なのかもしれませんが、大きさが一定ではないことも多いので、並べたり仕舞うのにセンスを要します。色々なカゴが欲しくなると、結局バラバラになってかさばって、収納に困ったりする。また目にゴミが詰まるのでお掃除も丁寧にしないとホコリが溜まります。こまめに拭かなければなりません。また天然素材だと虫が来る場合もあります。こういうお手入れがきちんとできない、私のようなずぼらでいい加減な感じに暮らす人にとって、カゴはストレスになってしまうこともあり、自分は向いてないのだな、という結論に達しました。

巻貝を思い起こさせるような、編み目の自然な流れがきれいです。

巻貝を思い起こさせるような、編み目の自然な流れがきれいです。


そういうわけでカゴ、ザル系には極力手を出さないように過ごして来たのですが、つい最近、ほいっと買ってしまったものがありました。福島県の奥会津、三島町の工芸家・五十嵐文吾さんの作ったまたたびの平ザルです。三島町は昔からカゴやザル、縄などの編み組細工の盛んな地域で、縄文時代から編み組の技術が存在していたといわれており、国の伝統工芸品としても指定されています(五十嵐さんも伝統工芸士で、2012年に21_21 DESIGN SIGHTで開催された「テマヒマ展<東北の食と住>」にも登場されていました)。毎年6月に行われる「ふるさと会津工人まつり」では、またたびの他、山ぶどうやアケビの蔓、ヒロロなどでできた、たくさんのカゴ、ザルの手工芸品が並びます。数年前にこの工人祭りに行ったことがあるのですが、朝9時オープンにもかかわらず、9時の時点で五十嵐さんのザルはほぼ全て売り切れ! 他のブースも続々品薄状態という、オドロキの大盛況ぶりでした。五十嵐さんはもう90歳を超えるおじいちゃんなのですが、今も現役でザルを編み続けています。会場では五十嵐さん始め、出店者の方々がカゴやザルを編んでいる様子を見ることもでき、素朴な雰囲気ながら興味深いイベントでした。また、まるで妖精が出て来そうなほど自然に溢れた奥会津の景色が素晴らしかったことも印象に残っています。

縁はひとつひとつ質感が違います。

天然の木なので、縁はひとつひとつ質感が違います。



蕎麦のための平たいザル

さて、買わないようにしていたはずなのに、なぜ手を伸ばしてしまったのか。その一番の理由は「やっぱり蕎麦はザルに盛りたい」でした。はぁぁ、意外とどうでもいい理由。全く説得力がないですが、お蕎麦ってやはりシンプルなものが好きで、茹でて冷やした蕎麦をシャキッと水切りし、薬味はシソ、ネギ、海苔、山葵、くらいで、そば猪口に入れた汁にちょちょっと付けて食べるのが一番美味しいと思っています。要はざる蕎麦です。ざる蕎麦って言うくらいなら、お蕎麦を載せるザルはこだわって、自分が気持ちよく感じるものがいいと常々思っていたのでした。奥会津のまたたびのザルは、しなやかで弾力があり柔らかいので素材を傷つけない、軽く水切れがいいので昔から炊事道具として愛用されてきた、吸水性、吸湿性に優れていて余分な水分を取り除く、などなど、様々な利点が謳われていたので、道具としてどんなものなのか興味がありました。ザル、カゴを敬遠する人間にも、それを越える魅力を感じさせました。しかし、五十嵐さんのことは以前よりウワサには聞いていましたが、その人気ぶりのために、なかなか現物に出会うことがありませんでした。

裏側。ちゃんと足のようなでっぱりがあるのもいい。

裏側。ちゃんと足のようなでっぱりがあるのもいい。


このザルを見つけたのは、西荻窪にある364という生活雑貨の店です。ここでは質の良い暮らしの道具と食材を扱っていて、その具体的な使い方を教えてくれるワークショップも度々開催されています。また店主の1人、駒井京子さんは各種メディアで活躍するスタイリストさんでもあり、これらの道具をセンス良くコーディネートするヒントを教えてくれます。私が訪れたときも、このザルにクラッカーやナッツを盛り、フランスアンティークのクロスやワイングラスを合わせた素敵なディスプレイをされていて、はっと目を引きました。このディスプレイを見せてもらったとき、蕎麦以外にもいろんな用途に使えるんだな、と想像の幅が広がりました。

蕎麦を盛ってみました。

蕎麦を盛ってみました。


五十嵐さんのザルは、実際手に取ってみると編み目がきりっと端正で美しく、かといって生真面目に編まれたというより、手の自然な動きでリズミカルに作られた、飄々とした朗らかさがあるように思いました。縁のところはぐるりと柳の木を回しているのですが、この濃い茶の色合いがアクセントにもなり、あまり和風過ぎない軽さを感じます。ザルというより、食器の感覚で使えるものです。そういった、他のザルにはない風情に心を惹かれました。そして、またたびは木の香りがほんのりと鰹節のような匂いにも似ていて、食べ物がおいしそうになるような気がしました。蕎麦には大変合うように思います。ただし、猫が大好きな香りでもあるので、猫に見つかると要注意です。

実際にお蕎麦を盛ってみて良かったのは、水切れが良いせいか、蕎麦がペタと底にくっつきにくく、最後までつるりときれいにいただけました。くっつきにくいなら、おむすびなどを置いてもよいかもしれません。鍋のときに切った野菜を並べるにも便利だと思います。焼いたパンなども適度に水分を吸収し、程よい食感で食べられるそうです。しかしやっぱり、きれいな編み目の上に乗った蕎麦は、本当においしそうに見えるし、日本人のためのまっとうな道具だなと納得させられる趣があります。

パンを載せてもサマになります。

パンを載せてもなんだかサマになります。


使った後、水に漬けるとしなやかさが増すので意外と洗いやすく、目に詰まりにくい感じがしました。食器のようにざぶざぶ洗って使うなら、ホコリが溜まる心配はあまりないので、気軽に使いこなせそうです。ただ天然素材なので、湿気が多いとカビることもあるため、洗った後はよく乾かしたほうがいいそうです。これを機に今後ザルが増えるということはたぶんないですが、蕎麦のための平ザルは、やはりこういうものでないと、と思いました。


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