線維筋痛症とは
腰や肩など全身に痛みが起こる線維筋痛症。その原因はまだ解明されていません
痛みが本人にしかわからないため、以前はなかなか理解されない病気でしたが、最近では病気自体が大分知られ、研究も少しずつ進んできました。2017年9月に人気歌手であるレディー・ガガさんが線維筋痛症を公表し、注目を集めています。
線維筋痛症の痛みとは? 日本でも200万人の罹患者
線維筋痛症になると、物に触れたり、温かさを感じたり、といった、通常は全く「痛み」を感じないはずの刺激によっても、痛みを感じてしまいます。手足や皮膚などの神経からの刺激に対し、脳が過敏に反応することで痛みが起こると報告されています。アメリカでは2005年に18歳以上に約500万人の患者がいるそうです。日本でも2007年に1.7%、約200万人と推定されています。2004年全国疫学調査では女性に多く(男性の5倍の頻度)、平均発症年齢は44歳。都市部に多いと言われています。
線維筋痛症の原因・誘因するものとして考えられているもの
原因が解明されていない線維性筋痛症ですが、発症のきっかけとして、心理的、社会的要因が指摘されています。- 交通事故・手術・怪我などの身体に対するストレス
- ツライ出産や長い介護・肉体労働の過重などの過重な負担
- 離婚・死別・親子関係・対人トラブルなどの人間関係
- 退職、就職、リストラなどの職場でのストレス
- 人格障害などの個人の性格的な要素
家族内で複数に発症することもありますが、遺伝などの影響は確認されておらず、環境の要因が大きいと考えられています。
線維筋痛症の種類・症状
線維筋痛症のみがあるタイプと、リウマチなどの病気によって起こるタイプに分かれます。リウマチなどの病気では、関節リウマチとSLEという病気に合併することに多いです。そのため、リウマチ専門医が診療に当たることが多いです。主な症状は
- 全身にわたる痛み
- 頭痛
- 筋肉痛や筋力低下
- 睡眠障害やうつ状態
- 関節痛
さらに、痛みだけでなく、口や眼の乾燥、疲労・倦怠感、抑うつ気分、不安感などの症状も見られます。リウマチなどの病気を伴う場合は、それぞれの病気の症状が伴います。
この線維筋痛症の痛みは、本人にしか判りませんが、体を動かすだけで痛みが全身に走ります。高圧の電気が流れたような痛み、息ができないような痛み、意識がなくなるほどの痛み、風が当たるだけで痛む、死んだ方がましだと思ってしまう痛みなどと表現されるような、非常につらい痛みが特徴です。痛みは本来、体にとって外的刺激に対する防御反応ですが、その反応が過敏になると全身に痛みが走り、ひどい場合は痛みのために体を動かすことができず、寝たきりになってしまうこともあります。
線維筋痛症の検査法・診断法
全身の18カ所にある「圧痛点」と呼ばれる部分に、約4kg程度の圧力を加え、痛みを感じるかどうかを検査します。11カ所以上で痛みを感じ、それが3カ月以上続く場合、線維筋痛症が疑われます。線維筋痛症には、誘因や背景があるので、問診を行って特定していくことになります。血液検査では異常の無いことが多いのですが、関節リウマチやSLEなどとの合併などを検査します。2010年にアメリカリウマチ学会が出した線維筋痛症分類(診断)基準では、
- 「広範囲の疼痛」の既往(3か月以上続く)がある…疼痛は身体左側の疼痛、身体右側の疼痛、腰から上の疼痛、腰から下の疼痛、さらに大幹中心部(頸椎、前胸部、胸椎、腰椎のいずれかの痛み)のすべてが存在するときに「広範囲の疼痛」とされる。
- 手指による触診で18カ所の圧痛点部の11カ所に圧痛を認める…約4Kgの強さの手指による触診で、1990年の基準の合計18カ所の圧痛点のうち11カ所以上に疼痛を訴える。
赤い点が圧痛点です。ここを軽く押さえて痛いとき…
- 後頭部
- 首の下の部分
- 2番目の肋骨のあたり
- 肩甲骨のあたり
- 肘のあたり
- 腕のあたり
- 親指のあたり
- 腰の骨の部分
- 足の付け根のあたり
- 膝のあたり
線維筋痛症の治療法・痛みへの対処法・鎮痛剤は効果が薄い?
背中部分の圧痛点は上記の箇所です
ウサギの皮膚にワクソニアウイルスを接種したときの浸出液を精製して作られる「ノイロトロピン」という薬に効果があると報告されています。この薬は内服と注射の2種類があり、腰痛症などの痛みに対しては保険診療ができるのですが、線維筋痛症の場合は保険適応がなく、自費診療になってしまう可能性があります。副作用は、アレルギーなどの過敏症、吐き気などが報告されています。
痛みには神経的な要素もあるため、抗うつ薬が使われることもあります。抗うつ薬にはいろいろありますが、主に下記の抗うつ薬が使われます。
腰のあたりの圧痛点
セロトニンは不安や緊張、衝動性に関係し、ノルアドレナリンは意欲、慢性に痛みに関与しています。そのため、これらの物質に作用する薬が、抗うつ薬や痛みに対する薬として使われています。
抗てんかん薬であるガバペンチン(商品名ガバペン)も効果があると言われています。2011年6月からプレガバリン(商品名リリカ)が保険適応になっており、少量から開始され徐々に増やしていきます。長期に痛みが続き、難治性である重症な場合は、効果は限定的とされています。
とはいえ、誘因や背景に心理的、社会的な因子の関与が多いので、カウンセリングなどの心理的な治療も大切です。