乳がん治療では、何科を受診すればよいのか
乳腺外科が主体となって行う乳がん治療。主治医とよく話しあって治療法を決めていくことが大切です
でも、乳がんの治療を行うのは、「外科」です。特に「乳腺外科」というところが主体となって行います。
日本乳がん学会は「乳がんの治療経験が豊富である」と学会が認めた「乳腺専門医」の氏名と勤務先、診療科名を載せたリストを学会のホームページで公開しています(日本乳癌学会)。主な診療科は「外科、内科、産婦人科、放射線科」です。
ここで、素朴な疑問が湧いてきます。なぜ外科、内科、産婦人科、放射線科と4つもの科に乳がんの専門家がいるのでしょうか? その理由は、乳がんの治療法に大きく関わっています。
可能なら外科的療法の手術が基本…乳房温存術と乳房切除術
がんの進行や個々人の体調などを見て外科的療法が可能な状態だと判断された場合、手術でがんを取り除きます。ちょっと前まで、乳房を含めて胸の筋肉までもごそっと取り除く方法が行われていましたが、最近ではあまり行われていません。今は乳房全体を取り除く『乳房切除術』と、がんを含む乳房の一部だけを切除する『乳房部分切除術』の2つが主流です。そして、この手術を行うのが外科(乳腺外科)なのです。
放射線療法…局所に残ったがん細胞を死滅させる
乳房部分切除術の場合、残した部分の乳房に多分いると思われるがん細胞を死滅させるために行います(「多分いるだろう」というのは曖昧に聞こえるかもしれませんが、目には見えなくてもがん細胞が散らばっている可能性が高いと考えます。放射線照射により乳房に再発する危険を減らすことが期待できます)。これは放射線科で行われる治療です。薬物療法 その1…抗がん剤を使う方法(化学療法)
乳がんが発見された時、がん細胞は血液にのって全身に広がり、他の臓器に転移していることがあります。これは目に見えるほど大きい場合と目に見えない位小さい場合があります。この全身に散らばったがん細胞を殺して再発を防ごうという方法が化学療法です。
術後に行われることが多いですが、術前に行って、がんを小さくしてから手術するという風に使われることもあります。
抗がん剤なので使う薬物によっては、吐き気、脱毛、白血球低下などの副作用がでることがあります。この辺は内科の先生と協力して行うことも多いようです。
薬物療法 その2…内分泌(ホルモン)療法
乳がんはエストロゲン依存性のがんといわれています。つまり、簡単に言うと乳がんの中には(全ての乳がんではないのですが7割以上がこのタイプといわれます)エストロゲンという女性ホルモンがあるとすくすくと育ってしまう種類があるということです。逆にそういったタイプの乳がんの方はホルモン療法という方法で、ある程度増殖を抑えることができます。手術や生検でとった組織で大体判定できます。『抗エストロゲン剤』『選択的アロマターゼ阻害剤』といったお薬の種類があります。
抗がん剤よりも副作用が弱いですが、一般的にほかの薬に比べて治療期間は格段に長くなります。また、閉経前と後では体内の女性ホルモンの量が違うので(1/100くらいになるといわれています)投薬の内容が変わります。
薬物療法 その3…分子標的療法
がんの増殖に関わっていると思われる分子を狙い撃ちにして、その働きを抑える治療です。代表的なものに、がん細胞の表面にHER2受容体というタンパク質をもった乳がん細胞だけを標的にして治療する方法があります。手術や生検でとった組織を検査すると、この方法が効果的かどうかわかります。乳がん全体の大体20~30%に効果的といわれています。『ハーセプチン』という薬が使われます。乳がんと一言でいっても治療はさまざま。また、医学の進歩とともに、新しい治療法も出てきます。主治医とよく相談して、最適な方法を考えていきましょう。
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