アパートを買うまでの険しい道のり
まず、最初の問題は、ローンの審査でした。貯金のなかったTさんは、建物の費用100%に、司法書士代の費用として10%を含め、「110%ローン」を希望していました。外国人であることに加え、110%ローンを借りることは難しく、ローンを借りるためには、いくつもの銀行に掛け合わなければなりませんでした。ローンの担当者からは、さんざん嫌みを言われ、銀行のビューローを泣きながら出てきたことも、一度や二度ではなかったといいます。キッチンのシンクや棚はDIYでTさんがご自身で取り付けたもの |
Tさんが購入しようとしていた物件は、不動産業者の所有だったので、安心していたのですが、実はここに落とし穴がありました。
水栓をひねると部屋が水浸しに
契約書にサインをする段階になって、売り主の不動産業者が「水道に問題があると思うので、1000ユーロ値引きする」と言い出しました。不審に思ったTさんは、問題があった箇所を直すための実費を出してもらうように交渉したそうです。契約後に、アパートの水栓をひねってみると、水が噴水のようにあふれ出してきたそう。理由は、水道工事の費用を抑えるために専門業者ではなく、素人に工事を任せていたからでした。そのほかにも、湯沸かし器の給湯がなぜかトイレの配管とつながっていたり、給排水管のあちらこちらに不具合があり、1分間水を使っただけで床一面が水たまりになってしまうほど、ひどいものだったようです。
こういった状況になることを売り主だけでなく、司法書士も事前に知っていたふしがあったため、結局、Tさんは裁判を起こしました。裁判の結果、水まわりの問題解決にかかった工事費用(2000ユーロ以上)もすべて支払ってもらうことができました。
このアパートはわが子のようなもの
壁の一部を解体して、採光のためにガラスブロックを埋め込みました |
このようにいろいろなトラブルを乗り越え、手をかけてきたアパートに対し、Tさんは「自分の子供のように思う」といいます。自分の部屋だと思うと愛着がわき、賃貸のアパートとは全然違うそうです。
パリでは、古い物件のほうが価格が上がる傾向にあり、むしろ1960~70年代に建てられた比較的新しいもののほうが値上がりしにくいのだとか。それは、築年数を経た建物でも、手を加えることで、品質が向上すれば、より高い評価が得られるということなのでしょう。世界的な経済危機になるという不安もありますが、Tさんによると、今でもパリは需要が多すぎるので、たぶんこの傾向は今後も大きく変わらないだろうということです。