日本画/日本画関連情報

長澤芙美創作小咄/猫岳詣

猫岳帰りの「ねこ又」は、油なめなめ手ぬぐい踊り。さてさて我が家の愚猫にも、その日が来るのか猫岳詣。またまた送る小咄の、主役は超一貫目の巨漢猫!

執筆者:松原 洋一

長澤芙美
長澤芙美 NAGASAWA FUMI
1981年 兵庫県明石市生まれ
2006年 京都市立芸術大学美術科日本画専攻卒業

最新情報

展覧会名:長澤芙美 日本画展~猫岳詣~
会期:2009年4月2日(木)~4月11日(土)
時間:10:00~18:00、水日祝休廊
会場:川田画廊
住所:神戸市東灘区田中町1-13-22-1F
電話:078-451-1154

 


猫岳帰りの「ねこ又」は、油なめなめ手ぬぐい踊り
さてさて我が家の愚猫にも、その日が来るのか猫岳詣~


猫岳のことなら少しは知っている。
年を経た猫、または一貫目を越えた猫はみな猫岳へ猫岳詣に行くのだ。阿蘇の猫岳には猫の神様が住んでいて、猫岳に詣でた猫たちに神通力をあたえるという。

多くはそのまま猫の神様のもとで修行を続けることになるのだが、たまに猫岳から戻ってくる猫がいて、するともうふつうの猫ではない。耳が裂け、尾は二股になり、おそろしい形相をして術を使う「ねこ又」というものになる。

 
ねこ又になれば障子を開け閉めするくらいはお茶の子さいさいで、陽気な猫などは手ぬぐいを被って踊り出し、行灯があればその油を舐めに現れる。人語を解し、時には人を化かすこともあるということで、紳士淑女の皆様にはくれぐれもご注意申し上げたい。

その猫岳詣、うちの愚猫とて他人事ではない。有難いことに息災で、かれこれ八年も生きているし、一貫目はとうに越えて二貫目にさしかかろうかというところ、猫岳詣の案内パンフレットもちらほらと舞い込むようになってきた。

先立っても昼寝の途中に電話が鳴って、眠気をこらえて出ると、無駄に慇懃な話し方をする年配女性の声で、お宅の猫ちゃんは猫岳詣のご予定はおありでいらっしゃいますか、という。どうやら猫岳詣の道中の世話を焼いてくれる、猫岳詣に便乗したいわゆる猫岳商法のセールス電話なのだった。なんでも商売の時代である。

 
今は猫岳のねの字も知らぬふうでゴロゴロと過ごしているが、いつかはうちの猫もその神通力とやらを授かりに行くはずだ。

その時にはおおげさな道中の世話など焼かなくていい、涙を拭いたハンケチーフを風呂敷がわりに、せめてものはなむけに鰹節と木天蓼(またたび)を包んで背負わせ、質素に送り出してやろうと決めているが、万が一ねこ又になって戻ってきて人様に迷惑をかけるのも本意ではなく、しばらくはただの猫のままにいて欲しいと思う。

(文章・カット:長澤芙美)
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