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【この世代に聞きたい】神彌佐子 肉体のドキン

伝えたいのは恋しいとか恥ずかしいとかの感情的な「ドキン」ではなく、肉が感じる心拍の「ドキン」です。

執筆者:松原 洋一

1960年代前半生まれの日本画家を見ていると、明確な根拠があるわけではないのですが、1961年以前、1962年、1963~1965年とグループ分けができるような気がします。神(じん)さんの1962年というのは前後の世代とちょっと違うような感じを受けるのですが、どんな世代ですか。

同年齢の人には、松田聖子さん、さくらももこさんがいます。あと週刊誌で知ったんですが、有名凶悪犯罪者が多いようです…。

小学校低学年の頃にアメリカンクラッカーが流行って、ロンパールームのお姉さんはうつみ宮土理さんで、脱脂粉乳を一年間だけ飲んだ世代です。

親の世代は子供の頃に戦争を経験して、高度成長期になって家庭を持ち、自分の子供にはいろいろとしてあげたいという野望を持った世代だと思います。

それが特異な犯罪者を生む土壌になったという分析もありますが、私はそんな環境のなか「まんまとすこやか」に育ってしまいました。


そのまま「まんまとすこやか」に絵描きになったわけですね。

高校生の時、山種美術館で加山又造さんのすごく大きな作品を見たのがきっかけで日本画を描きたいと思うようになりました。特に苦渋の選択をしたとか、反対があったというのはありません。


きっかけは日本画だとしても、神さんの制作に日本画の素材は合っていると思いますか。

日本画の素材というのは、水や空気に影響されるところが難しくも面白いんです。いくら使っていても素材を凌駕できない。仕上がりが「まんまとすこやかに」とはいかないところが魅力で離れられずにいます。水性の素材は合っていると思います。


モチーフはずっと人体ですね。

人間の形態を追いかけたり、壊したりすることによって肉の感覚を造形化したいと思っています。「痛い」とか「寒い」とか肉体が感じるものを目に見える形にしてみたいと思っています。

よく抽象的だと言われますが、漠然と抽象化しているわけではないんです。むしろ目に見える形にしたいと思って描いています。だけどどこかで伝わらないように操作している自分もいます。すごく伝えたいと思っているのに…。


そんな葛藤のなかから生まれた作品というのは、伝わる人にはかなり強烈に伝わるものだと思います。印象に残ったリアクションはありますか。

舞台関係の方に「悲惨で豪華」だと言われました。その言葉がとても印象に残っています。


「悲惨で豪華」とは深い表現ですね。「悲惨」という形容は絵画にとっては決してマイナスな要素ではないし、「豪華」というのはほめ言葉ではない。この日常とは逆転した意味合いを持つようになった言葉同士が両者間の均衡だけは保っている。伝わった人によって、どちらかの言葉が悪いイメージになれば、片方の言葉がよいイメージに回復するといった具合に。

二つの言葉には共通しているものもあるんですよ。「悲惨」なものも「豪華」なものも、とりあえず見てみたい。


なるほど…。で、今度の個展はどんな感じですか?

個展でのテーマは「肺」「血管」「皮膚」です。人間の思考ではなく、実感のある肉体性がテーマにあるので「脳」には興味がありません。脳には心理とか感情が詰まっていそうだからです。

もっと直接的で物質的なものがテーマです。日常を共にしているのに置いて行かれがちな肉体を、非日常の作品の中で実感するということです。

見る人には肉体の「ドキン」を伝えたいと思います。それは、恋しいとか恥ずかしいとかの感情的な「ドキン」ではなくて、肉が感じる心拍の「ドキン」です。生命を実感するということでしょうか。




個展情報
会期:2002年6月10日~6月22日
会場:ギャラリー覚

神彌佐子経歴・展覧会記録
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