■「ずっと愛し、愛される」そうでなくても、愛することには意味がある--そう思わせる二作

愛したなら、愛されたい。それも、できるなら、ずっと--
それは、誰しもが願うことだと思います。でも、現実には、「愛されること」も「ずっと」も、かなえられないことがあるわけです。他人の気持ちはままならないし、自分も含めて、人の気持ちは移ろいやすい・・・そんな諦念は、時として、人を愛することへの恐れにつながる気がします。
でも、でも、「愛されること」や「ずっと」がかなえられなかったら、「愛する」ことは無意味なことなのでしょうか?

『容疑者Xの献身』
東野圭吾 1680円
人気ミステリー作家・東野圭吾の新作『容疑者Xの献身』には、数学という学問のみに人生を捧げ、不確実性の高い他者との積極的な関わりあいを避けてきた主人公が登場します。きわめて愛の沸点の高い彼は、ある女性に出会い、彼女に思いをかけます。そして、やむをえず罪を犯した彼女に対し、何の見返りも求めず、もてる知をすべてつぎ込み、隠蔽工作をしかけるのです。
彼の無償の愛ゆえの行為は、彼の人生にとって、何を意味していたのか。ラスト近く、彼の心情が明らかになったとき、愛するということの重みがずしんが響いてきます。


『だれかのいとしいひと』
角田光代 580円
もう一作、直木賞作家である角田光代の短編集『だれかのいとしいひと』に収録『誕生日休暇』。主人公がハワイで過ごす休暇に出会った男性は、ある女性との結婚式を控えています。でも、その女性の前に、彼には愛した女性がいました。その二人、そして、これから結婚する女性と元・夫、この二組の男女の「愛」は、ちょっとした運命のいたずらで、あっという間に撚れて、変質するのです。「ずっと」愛し愛されると思っていた関係の脆さは哀しくもありますが、その哀しさを受け止め、抱きしめて生きていこうとする登場人物に、あったかい共感を覚えます。

たとえ「愛されること」も「ずっと」もかなえられなくても、ただ愛すること。それはけっして無意味などではない――そう思わせてくれる作品たちが、愛することへの怖れを超える勇気をくれるでしょう。


■身体に刻み込まれた「愛するDNA」を目覚めさせてくれる美しい絵本

人を愛することで、時には傷つきながら、誰かとともに生きることの喜びを得て、そして、そのかけがえのない人との避けることのできない別れを体験し・・・私たちは、親や先祖たちが連綿と繰り返してきた「愛する」という営みの末に、今、ここに在る――
最後に、そんなことをしみじみと思わせてくれる一冊の絵本を。

『岸辺のふたり』
マイケル・デュドク ドゥ・ヴィット 1365円
『岸辺のふたり』の物語は、父と娘の別れから始まります。海辺でのそっけない別れ。娘は、その哀しみと父への思いを胸に抱いたまま、大人になって愛することを知り、自分の人生を歩いていく・・・2001年米国アカデミー賞短編アニメーション作品を絵本にした作品。セピア色の美しい絵とともに課たられる静謐な物語が、私たちの身体に刻み込まれた「愛するDNA」を呼び覚ましてくれるのではないでしょうか。

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