扇子は選んで、良いものを持ちたい
扇子は折り畳めて携帯に便利なので、今でも持ち歩く方が多い夏場の必携グッズの一つです。その歴史をたどれば、8世紀頃に日本で生まれた、この手のツールにしては珍しい純国産。しかも、貴族社会においては、和歌のやりとりなどのコミュニケーションツールや、モノのやりとりのための盆として使われ、武家社会では帯刀できない場所での刀代わりや采配、的などとして使われ、茶の湯では挨拶時の境界、つまり結界として使われるなど、日本の文化の様々な局面で使われるツールでもあります。
そんな扇子ですから、出来れば、それなりに選んだものを持ち歩きたいものです。良い扇子の選び方は、かつて、このガイド記事で落語家の林家彦いち師匠をお招きして、詳しく選び方を教えていただいたので、その記事を参考にして下さい。
ここでは、そんな選び方を踏まえた上で、ガイド納富が使ってみた様々な扇子の中から、これならば、こだわりの扇子と言えるのではないかと思われるものを選んでみました。今回は柄ではなく、その構造や出自に重点を置いて選んであります。なので、それぞれの扇子の中から、好きな模様や色、柄を、ご自分の好みで選んでもらえれば、その方にとっての最高の扇子になると思うのです。それでは、プライベートでもビジネスでも、シーンを選ばず粋に使えるおすすめの扇子をご紹介していきます。
第五位
日本将棋連盟「白扇」
日本将棋連盟「白扇」
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扇子の基本、白扇です。この真っ白な扇の面に、好きな文字や絵を描いて、自分だけの扇子にするのは、とてもカッコ良いことだと思います。写真の後ろの方に雉子の絵が描かれている扇子が写っていますが、あれは息子が描いたものです。扇子の状態のまま開いて描いているのですが、このように、意外に普通に描けるものです。墨で一気に好きな言葉を書いてみるのも面白いものです。
七寸五分(約22.5cm)、1,680円(税込)
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日本将棋連盟の白扇は、骨が太めでガッシリしているのが特徴。骨も11本と少なめで、文字などが書きやすくなっています。同じ白扇でも、囲碁の日本棋院のものは、もう少し骨が細く、14本あり、扇子としてはこちらの方がキレイです。価格もあまり変わらないので、お好みの方を購入すると良いでしょう。ファンの方は、棋士の方へサインなどをお願いするのにも、この白扇を使われるそうです。寄せ書きなどに使うのも面白そうですね。
第四位
落語家さんの配り物扇子
春風亭昇太師匠の芸術祭大賞受賞記念扇子
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現代において、日常的に扇子を使う職業と言うと、能楽師、舞踊家、棋士、茶の湯の師匠など、様々ですが、中でも身近なのは落語家さんではないでしょうか。落語家さんは真打ち(一人前の落語家であると認められる地位。この地位になって初めて、師匠と呼ばれる)に昇進する際や、大きな賞を取った時のお祝いなどで、扇子や手拭を配ったり、販売したりします。その際、配る相手も扇子に目が利く人々なので、自分でも高座で使える、ちゃんとしたレベルのものを作ることが多いのです。
七寸五分(約22.5cm)、非売品
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写真は、今や笑点のメンバーでもある春風亭昇太師匠が、2000年に「佃祭り」という落語で文化庁芸術祭大賞を受賞したときのパーティーで配られたものです。昇太師匠のトレードマークでもあるクラゲの模様が描かれた呑気にも涼しげな扇子。お好きな落語家さんの独演会や真打ち披露興業、何かの受賞記念の落語会などに行けば、このような扇子を手に入れられる可能性が高いです。この、普通では買えない、という部分も含めて、こだわりの一本と言えるでしょう。
第三位
松井ひろし×東京造形大学「グラデーション和扇子」
松井ひろし×東京造形大学「グラデーション和扇子」
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江戸扇子の職人である松井ひろし氏と東京造形大学の学生とのコラボレーションから生まれた、左右非対称の扇子です。この扇子、開いて外骨の短い方を手で持つようにして扇ぐと、腕の内側に扇子が当たらないので、とても扇ぎやすいのです。また、風のほとんどが自分の方に向かってくるので、扇ぐ力に対する風量の効率が良いのです。一見、おかしな形の扇子だなと思ったのですが、使ってみて、その使いやすさと効率の高さに納得しました。
八寸五分(約25.5cm)、4,200円(税込)
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そんな扇子の新しい形を、しっかりと江戸扇子の美しさの中で実現している辺り、職人松井ひろしさんの腕が光ります。畳んだときに、どうしても紙の畳んだ部分が見えてしまう形状なのですが、そこがキレイにグラデーションになるように計算されて作られているのが、また、いかにも裏地に凝るような江戸の粋を感じさせてくれます。最も一般的な男持ちの扇子は畳んだときの長さが七寸五分(約22.5cm)ですが、この扇子は八寸五分(約25.5cm)と、少し長くなっているのも、暑がりのガイド納富には嬉しい配慮です。
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