低速トルクに厚みを増し、乗りやすくなったエンジン
僕は慎重にコースへと乗り入れていく。そして本当に徐々に、ペースを上げてコースに慣れる。最初の1ラップを終えただけで、ドッと疲れを感じた。噂に聞くとおり、まるで氷の上を走っているかのような場所が多くある。もし高い速度でそんな状況に陥ったら…考えたくもない。しかし、そんな僕の不安とは裏腹に、ランサー・エボリューション9プロトタイプは実に雄弁だった。この天気と僕の状況をして、真っ先にMRとの違いをまざまざと見せつけてくれたからである。
既に記したが、ノルドシェライフェは4速5速ギアでの超高速コーナリングとなるコーナーがそこかしこにある。もちろん雨という天候ではペースがグッと落ちるが、それでもギアを通常より1つ下げるところがある程度でしかない。
エンジンは従来型と同じ4G63型だが、より低速トルクが増し扱いやすくなった |
こういう状況では、僕のようなドライバーは、本来よりも進入速度を低くしてしまうことが多い。つまりいくらウェット路面とはいえ、ビビりから必要以上減速してしまうのだ。
結果何が起こるかというと、コーナーの脱出時に、エンジン回転数を落としすぎてしまい、再び加速状態に入るためにスロットル・ペダルを踏んでからターボがレスポンスするまで「待ち」の状態となってしまう。もちろんこれはドライビング・ミスである。
しかし、実はこんなミスこそが、MRと9プロトタイプの違いを明確にしてくれたのだった。というのも実は今回同時に、ここでMRも走らせており、僕はMRでもそういうミスを犯した。するとMRは当然、立ち上がりでエンジン回転が落ちているために、ターボのレスポンスが得られてトルクが沸き上がるまでにタイムラグを生んでしまうのだ。
しかしランエボ9プロトタイプで同じミスをした場合、そういった「待ち」の状態が払拭されていることがすぐに分かる。同じように速度を下げすぎたため、エンジン回転は下がっているにも関わらず、スロットル・ペダルを踏むと時間差なくレスポンスして力が沸き上がるように出てくる。だから脱出時にトルクが明らかに1テンポ以上早く感じられ、すぐに力強い加速感が得られる。
こんなミスから発見してしまって申し訳ない次第なのだが、これこそがランエボ9プロトタイプにおける特長のひとつ。全域高性能、高レスポンスを謳うMIVECターボの実力だ。