SタイプRのために施された改良は、他のエンジンを搭載したモデルにも効果を発揮できたのだという。事実、ソフトなスプリングとスタビライザーを備えることができるようになったのは、ロールセンターが高くなったという理由からだ。
そう考えると、このSタイプRも、従来のシャシーで登場していたならば、もっとスパルタンな乗り心地になっていたに違いない。そう実際に乗ってみるとSタイプRは、ハイパフォーマンスモデルであるにもかかわらず、実にスムーズな乗り心地を味合わせてくれる。
しかし決してゆとりや豊かさだけが取り柄のトップモデルではない。一度アクセルを全開にすれば、隠されていた実力が即座に目を覚ます。アクセルを全開とすると、そのエンジンはフィーリングを今までと異なるものとする。ミーンというスーパーチャージャーの作動音が大きく響き、車体は急速に押し出されていくのである。その感覚はどちらかといえば、AMGにある「オラオラ」と周りを蹴散らすような感じに近い。乱暴といったら言い過ぎだろうが、とにかくワイルドな感じはちゃんとある。
だが、このSタイプRの真価としては、前述したような、あまりある力を後ろに感じながら、それを少しだけ使って走る、というものだろう。そこにこそ、豊かさや贅沢さが感じられる。新たに採用されたZF社製の6速ATが組み合わせられることもあって変速も至極滑らかだから、その辺りまで含めて考えても、やはり全開よりはわずかに開けて、能ある鷹は爪隠す、とでも言いたくなるような走りをした方が結構ハマるのだ。
もちろん、そんな世界を味わうには、960万円という金額を支払わなければならないのだけれど。
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