ちょっと前までガソリン直噴(GDI)をメインエンジンとしていたミツビシも、最近登場したクルマには標準的な燃焼方式のエンジンを採用している。その最大の理由は環境性能にある。ガソリン直噴は熱として逃げるエネルギーを減らして燃費や動力性能が向上するのが特徴。燃費の面から環境性能に優れたエンジンとして脚光を浴びていたが、エミッション(排気ガス)規制の面では非常に厳しく、「超-低排出ガス」認定が標準化する中ではダーティなイメージが付きかねない。そこでミツビシは事実上の撤退(一時休止か?) したわけだが、ウィッシュに追加された2L車はガソリン直噴(D-4)で「超-低排出ガス」認定を受けている。果たして、トヨタの技術力の勝利とするのは、あまりにも早呑み込みである。

ガソリン直噴が燃費とパワーで有利なのは、一般的な燃焼方式では着火できない超希薄混合気での稼働が可能なため。これが問題なのだ。

吸気した空気に含まれる酸素をすべて消費し、燃料を余すことなく燃やせる割合(重量)を理論空燃比と呼ぶ。この値はおよそ燃料1に対して空気が14.7になる。この比率では酸素も燃料も余らずに、水と二酸化炭素になってしまう。希薄燃焼(リーンバーン)では理論空燃比の空気の量に比べて少ない燃料で燃焼する。余剰空気が熱として逃げるエネルギーを圧力に転化するため、同じ燃料の量でもパワーが出る、あるいは同じパワーならば少ない燃料で済む。そのため、一時の省燃費仕様車では希薄燃焼が常識的に採用されていた。

しかし、空気に対して燃料をどんどん少なくしていくと、ついには点火しなくなってしまう。一般的に希薄燃焼の空燃比の限界は1対23と言われていた。この限界を打破するために採用されたのがガソリン直噴である。

ガソリン直噴は空気だけを吸い込み、燃料はシリンダー内に直接噴射する。吸気時にうまく混ざるように燃料を噴射すると一般的な燃焼方式と同じで希薄燃焼の壁に阻まれるのだが、圧縮行程後に燃料を噴射すれば部分的に燃料が濃くできる。プラグ周辺の燃料を濃くすれば着火が安定し、なおかつ全体の混合気は希薄燃焼の限界よりも薄くできる。この燃焼方式を、燃える部分とその周辺の空気層の2層を形成することから、成層燃焼とか層状燃焼と呼ぶ。これにより超希薄燃焼を実現したのだ。

ところが、空気が多いとやっかいなことが起こる。窒素酸化物(NOx)が発生しやすくなるのだ。周知のとおり大気の約80%は窒素。窒素そのものは酸化しにくいのだが、高圧力と高熱の中では酸化反応も起きやすい。ガソリンを構成する炭素と酸素のほうが酸化しやすいので、理論空燃比ならば窒素が酸化するだけの酸素が残らない。実際には、そううまくいかないので、理論空燃比で稼働しても窒素酸化物は排出されるが、それにしても希薄燃焼に比べれば楽なものだ。

余談だが、よく水素燃料エンジンは水しか出ないからクリーンと話す人がいるが、高温高圧で燃焼すれば大小の違いはあっても窒素酸化物は出る。ただ、圧倒的に少ないのでクリーンなのだ。

それはさておき、大量に酸素がある超希薄燃焼は窒素酸化物が生成されやすい。ガソリン車の排気ガスの主成分は一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物が代表的で、排出量制限の対象となっている。うまく燃やしても出てしまうのを、さらに少なくするために触媒を用いて処理を行う。一酸化炭素と炭化水素は酸素と結びつけて二酸化炭素(CO2)と水(H2O)に、窒素酸化物は酸素を取り除き元の窒素ガス(N2) 戻す。前者を酸化反応、後者を還元反応と呼び、最近の乗用車ではこのふたつを行える三元触媒を備えている。

ガソリン直噴も三元触媒で何とかすれば、となればいいのだが、ふつうのエンジンよりも大量に発生する窒素酸化物を従来の触媒技術で処理して、これ以上クリーンな排ガスとすることができない。

では、なぜウィッシュの2L車はガソリン直噴で「超-低排出ガス」認定を実現できたか。理由は簡単である。超希薄燃焼を止めて、理論空燃比燃焼に変更したのだ。それでもポンピングロス(吸気抵抗)の減少などにより、従来型エンジンよりも燃費やパワーで有利なのだが、ガソリン直噴のメリットは激減。面倒なメカやコストを考えると首を傾げたくなる。いずれは排ガスもクリーンな超希薄燃焼ガソリン直噴を実現するために開発持続するためとのことだが、いずれにせよ超希薄燃焼ガソリン直噴は環境性能型エンジンのメインステージから降りることになったわけだ。
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