北米のプレミアムSUV市場の盛り上がりは大したものである。高級高性能にエスカレートするばかりだ。北米ホンダが開発したMDXもまた北米プレミアムSUV市場をターゲットにしたモデルである。
3.5LのV6を搭載するゆったりサイズのボディ。FFベースの4WDを採用し、4WDシステムには新開発の電子制御フルタイム4WDのVTM-4を用いる。VTM-4については別項で述べているので、システム概要を知りたい方はそちらをご覧になってほしい。
もちろん、モノコックフレームを用いた乗用車型設計を採用。サイズや設計の要点を見ると、同じく北米ホンダが開発したプレミアム志向の上級ステーションワゴン型ミニバンのラグレイトを彷彿させる。
ハードウェアの構成だけでなく、使い勝手でもラグレイトをSUV化した感が強い。プレミアムSUVでも珍しいサードシートを採用。上級ステーションワゴン型ミニバンのサードシートほどのゆとりはないが、オデッセイクラスと比較してもゆとりを感じさせる
付け加えるならば、日本仕様は本革シートとデュアルモニターのAVシステム&DVDナビが標準装着されたエクスクルーシブのみ。装備やグレード見てもラグレイドと同等以上の車格設定である。
プレミアムSUVではオンロードでの走りがモールスポイントのひとつとなっている。エンジン性能だけでなく、高速操安性や快適性において上級乗用車と同等なのが必須。その通り、MDXも悠々としたロングクルージングを楽しめるパワーとフットワーク、快適性を実現している。
V6エンジンらしい軽快なパワーフィール。低回転域でのトルクやドライバビリティを高めながら、高回転域でも息苦しさがない。全開の加速中にも神経を逆撫でするような騒音や振動はなく、連続登坂などで高いエンジン回転数を維持するような走り方でも、心理的な疲労が少ないエンジンフィールである。
興味深いのは、オンロードの高性能をスポーツ性に求めなかったことだ。SUVの高い重心高と重い車重をもって、安心できる操安を得るために、一般的な快適志向の乗用車より引き締まったサスチューンを採用する。そのため、低中速域での荒れた路面では少々路面感覚が強い。ちょっとゴツゴツする振動もあるわけだ。しかし、ことさらな硬さはない。全開走行でも不安定にならない程度に引き締めているが、なるべく長いストロークを使うように設定された、しなやか型フットワークなのだ。ボディの動きは鷹揚であり、ゆったりとしたツーリングが楽しめる。同乗者にも心地よい安心感と落ち着いた居心地を与えている。
ゆったりとした室内と高速長距離走行を気楽にこなせる走行性能。しかも、ミニバンのような使い方もできる。ボディサイズが大きいのが玉に瑕だが、それもプレミアムSUVとすれば必要条件のひとつだ。
問題は価格である。MDXの価格設定については自動車評論家同士の話の中でも意見が分かれる。確かにハリアーで最も高価な3000AIRS4WDが367万円、ランクル・プラド3400TZ・Gセレクションが399万円である。MDXの485万円はランクル100の最上級グレード4700VX・Gセレクション(467万円)並みである。確かに、これらのクルマと比較すると割高感が強い。
しかし、本革内装やデュアルモニターAVシステム&ナビ、サンルーフまで標準装備されているのだ。けっこう高性能型なので、これらの装備を仮にオプション装着するとすれば、それだけで100万円近い投資になる。つまり、一般的な上級装備だけでまとめるならば380万円前後。車格と価格のバランスは採れている。
とはいえ、現実的には高付加価値装備仕様だけで485万円する。わざわざ価格の敷居を高くしているわけだ。この辺りは数を沢山売るよりもプレミアムSUVとしてのブランドイメージを優先したと考えるべき。皮肉な言い方をすれば、機能(費用対効果)よりもイメージが重要なプレミアムクラスのやり方をそのままなのだ。日本の一般的なユーザーニーズからすれば、機能面からSUVを求めるドライバーは少なく、ましてやプレミアムクラスである。選ぶほうもイメージや雰囲気を優先して当然。高価高付加価値路線でまとめるのも、MDXのキャラクターを決定づける上では必然だったのだろう。