MDXの4WDシステ(VTM-4)は、かなり変則的である。何とセンターデフギアもなければ、リヤデフギアもないのである。ちょっと見には、これで大丈夫なのといいたくなるほどだ。
ふつうの乗用車は4輪のうち、前後いずれかの2輪を駆動する。対して、4WDは4輪すべてを駆動する。そのためAWD(全輪駆動)とも言われる。もっとも、乗用車の場合は4輪がほとんどなので4WDが一般化しているが、大型トラックや軍用車両では6輪(3軸)以上のタイプも少なくなく、自動車全般からすればAWDという表現が標準的である。
それはともかくとして、複数の車輪を駆動する場合に問題になるのは、それぞれの車輪の軌跡の違いの処理。完全な直進ならばいずれの車輪も同じ距離(回転数)になるが、ちょっとでも曲がれば、内外の車輪の描く軌跡の長さに差が出てしまう。逆に左右の車輪の回転数が同じだと、どちらか一方のタイヤがスリップしない限り、曲がることができない。そこで、デフレンシャル・ギア、ふだんの言い方ならばデフギアが必要になる。2WDの場合は、FFでもFR、ミッドシップでも駆動力はデフギアを介して、左右の車輪に分配される。
まずはデフギアの構造を簡単に説明する。左右の車軸をギアで連結。右が前に回れば左は後ろに回る(逆転ギア)ようになっている。プロペラシャフトはこのギア全体(ギアケース)を回す。左右の車輪を繋ぐ逆転ギアの部分は直進時には動かない。ギアケースごと一定方向に回り、動力は左右の駆動輪に均等に分配される。ところが、コーナリング等で左右の軌跡が異なると、逆転ギアの部分が動いて、左右輪の軌跡長の違いを吸収する。
プロペラシャフトの回転数を基準にすると、直進中は左右輪ともプラマイ0だが、右コーナリングでは車輪の回転数は右マイナス、左プラスになる。左右車軸を繋ぐ逆転ギアがバランスバーの如く作用するのだ。
4WD車の場合は、前後それぞれの車軸にデフギアが必要となるのは当然として、さらに前後輪の回転数の差を吸収するために、もう一つのデフギアが必要となる。これがセンターデギアである。
MDXにはセンターデフギアがない。リヤデフギアもない。しかも、2WDとの切り替え操作もない。
後輪の左右に取り付けられた電子制御多板クラッチが前後輪の差動、後左右輪の差動をコントロールしているのだ。デフギアは存在しないが、デフレンシャル機構は存在しているのだ。
ギアのように増減速は行わず、すべてはクラッチ板の滑り量でコントロールされる。そう考えると、「こんな小さなクラッチ板で平気なのか」と不安も出てくる。クラッチ板滑る分効率が悪いのでは、と考えてもおかしくない。しかし、それはイメージの問題だけなのだ。