今後の生食は自己責任? 覚えておきたい最低限の自衛策
危険と報じられてもファンが多い生肉、レアの焼肉……少しでも安全に食べる方法は?
食中毒による死亡事故が相次ぎ生肉の危険性も詳しく伝えられた今、今後は安全な食品を提供すべき店側の責任はもちろん、リスクがあるものを注文する側の自己責任も問われ始めるかもしれません。
危険な生食を避けるのが一番ですが、それでもたまには生肉が食べたい人や、完全に火を通した肉を味気なく感じてしまう人は少なくないでしょう。生肉のリスクをゼロにすることは不可能ですが、最小リスクに抑えることは可能です。いずれにしてもO-111などの強力な食中毒の原因菌に対抗できるほど完璧な予防法はありませんが、生肉による食中毒リスクを最小限に抑えるための自衛策だけでも覚えておくことをお薦めします。
最も手軽な自衛策……薬味の殺菌効果を活用する
殺菌効果がある薬味類を生肉と一緒に食べると、食中毒の危険性を減らせる可能性があります。以下に代表的な薬味を挙げるので、積極的に合わせて食べるようにしましょう。■ 大根おろし
大根はそのままでは強い殺菌効果はありませんが大根おろしにすると消毒効果が生まれます。ただし、おろしてから時間が経つと効果が落ちるため、なるべく食べる直前におろすようにしましょう。
■ 生姜
生姜の独特の香りを生む成分にも殺菌効果があります。生肉とも相性が良い上に、ニンニクと異なり食後に体臭・口臭に出てしまう心配もないので、お薦めできる薬味です。
■ ワサビ
ワサビは日本で発達した香辛料で、辛味成分に殺菌力があります。一度に大量に摂取すると、鼻に抜けるような痛烈な刺激があるため、少しずつしか摂れませんが、こちらも生肉との相性が良い薬味です。
■ ニンニク
ニンニクにも殺菌力があります。汗や呼気に独特の臭いが出てしまうため、食べる場面は少し注意が必要です。また、生のニンニクの大量摂取は消化器系を荒らす可能性があるため、ほどほどにするようにしましょう。
■ ミント
歯磨き粉の香りでもおなじみですが、ミントも殺菌力があるハーブの一つです。
ポン酢・バルサミコ酢・白ワインを活用する
上記の薬味に加え、外食でも頼みやすく、確実な殺菌力が期待できるのは「酢」です。殺菌力を発揮してくれる「胃酸」の働きを阻害しない調味料とも言えます。菌というと怖いかもしれませんが、胃は常におびただしい数の菌を受け入れて処理しています。食べ物を扱う手も、口内から食道までのルートも、びっくりするような数の常在菌で覆われています。食べ物を無菌にしても、消化器には常に菌が入っていくということです。胃酸はこれらを殺菌します。その証拠に、胃酸の分泌を抑える薬を服用している人の場合、細菌による食中毒が起こりやすいことが判明しています。肉などの生食の危険性を減らすためには、胃酸による殺菌効果を保つ食事を心がけることが重要です。酢の欠点は大量には摂れないことですが、様々な料理に上手に合わせることができます。和食なら風味を考えてポン酢系。洋食ならバルサミコ酢の風味がお薦め。柑橘類の絞り汁も殺菌力があるので、和食ならすだち、洋食ならライムなどをあわせるのも意味があります。
また、お酒好きにはよい知らせとして、発酵食品で胃酸の効果を妨害せず、殺菌力があって摂取しやすいものに白ワインがあります。肉には赤ワインの方が合うとされていますが、食中毒予防という点からは生肉と合わせる場合は白ワインの方がよいと言えます。
賢い組み合わせで食中毒予防! 生肉×殺菌効果食材の献立例
食中毒予防の観点を踏まえて、味付け法や付け合わせを工夫した、生肉系や半生肉系の具体的な献立例を挙げてみましょう。■ 牛肉のカルパッチョのバルサミコ仕立て
殺菌と風味の点からお薦め。さらに軽くミントを散らすと、殺菌効果に加えて彩りも豊かになります。
■ 牛肉のたたきとおろしボン酢
おろしポン酢の殺菌効果を活用しましょう。さらにすだちを加えると、殺菌効果も上がり、風味も豊かになります。彩りを添えるワサビはもちろん、味の変化を楽しめる生姜、ニンニク、紅葉おろしなど添えるのも良いですね。
また、外食の場合、私は生肉を食べるなら和食系の店がいいと考えています。理由は3つあります。1つ目は扱う肉の部位です。通常の和食店では、生肉を出す場合でも、腸管出血性大腸菌感染の原因となる内臓系の肉の調理はしていません。2つ目は衛生管理を徹底しなければならない食材を、日常的に多く扱っていること。食中毒の原因となりやすい刺身などを提供するには、まな板の衛生管理も日常的に十分配慮されているはずです。食材によって複数の料理包丁も使い分けられています。3つ目は、納豆、梅干し、緑茶などの消化管感染を予防する効果がある食材と、ワサビ、生姜などの薬味を使う献立が豊富なこと。例えば寿司屋なら、ワサビを効かした生肉(牛赤身)の握り寿司、梅シソ巻といった注文も、こちらの知識次第ですることができます。
次のページでは、上記の工夫を取り入れたとしても避けるべき肉の部位、万一菌を食べてしまった場合に食中毒発症を防ぐための自衛策をご紹介します。