人体を構成する細胞の数は60兆個!
がん細胞はどのように発生するのでしょうか。がんの発症要因について考えてみましょう
正常な細胞には、必要に応じて増えたり、適切な状態になると増えることを止めたり、あるいは増えた細胞が脱落するようなしくみが備わっています。たとえば、皮膚は定期的に入れ替わっていて、一定の期間が過ぎると垢として脱落します。髪の抜け毛も同じようなしくみです。
こうした、いわゆる新陳代謝は、細胞がコピーされることによって起こります。もちろん皮膚だけではなく、人間を構成する全細胞で起こっており、その期間は90~120日程度だといわれます。
細胞のコピーによるはたらきは、細胞のコピーミス(=遺伝子の変化)が起こると、正しく機能しなくなってしまいます。その結果、異常な細胞が増え続けてしまったり、脱落すべきものがしなくなったりします。これが「がん」の始まりなのです。
ミスコピーされたがん細胞が増殖してできる「がん」
じつは、人間の体の中では、細胞のミスコピーは毎日起こっていて、その数は1000~2000個といわれます。つまり、体の中では、毎日1000~2000ものがん細胞ができていると考えられるのです。とはいえ、人間の体を構成する60兆個のうちの1000~2000ですから、割合としては微々たるものです。そして人間の体には、細胞のミスコピーを削除するはたらきがあります。これはリンパ球と呼ばれる白血球の一種による免疫機構で、通常はミスコピーがどれほど発生しても、このはたらきですべて削除されます。
ところが、ミスコピーによってできた細胞(=がん細胞)が1つでも残ってしまうと、細胞分裂をして2、4、8、16と増えていきます。その結果、がん細胞の数が10億個などという数まで増殖し、身体に害を与える悪性腫瘍、いわゆる病気としての「がん」になるのです。
無限に増殖しながら悪性腫瘍になってしまう過程
ミスコピーでできたがん細胞が、悪性腫瘍になるまで増えてしまうのには、大まかに2つの原因があります。1つは、がん細胞がもつ、自らを増殖させるはたらきが異常に強くなり、際限なく増殖するようになってしまうこと。もう1つの原因は、「がん抑制遺伝子」のはたらきに関係します。通常、成長した正常細胞の多くは、「がん抑制遺伝子」によって増殖を止めます。これは、増殖を止めるブレーキの役割をするタンパク質のはたらきによるものです。しかしがん細胞は、細胞増殖因子を多量に分泌して、「がん抑制遺伝子」を正しくはたらかなくさせてしまいます。つまり、細胞の増殖へのブレーキがきかなくなってしまうのです。
また、「免疫力が下がると、がんになる」などといわれますが、これは「がん抑制遺伝子」の能力が落ちていることを意味することが多いようです。
がんは最初に発生した場所から移動して、異なる組織や臓器に「転移」します。転移の経路は、血液やリンパの流れに乗って移動する「血行性転移」「リンパ行性転移」があります。また「播種性転移」という、腹腔や胸腔などの体腔内に遊離したがん細胞がほかの部位に転移するものもあります。
転移した細胞は、転移先がどの部位でも元のがんと同一種となります。たとえば乳がんの細胞が肺に転移した場合、そこで発生するがんは、悪性の肺細胞ではなく、悪性の乳腺細胞によって形成されます。
なお、がんの「再発」とは、小さながんが手術で取りきれずに再び現れたり、抗がん剤や放射線で小さくなったがんがまた大きくなったり、別の場所に同じがんが出現することをいいます。(監修:今村 甲彦)