『Tell Me on a Sunday ~サヨナラは日曜日に~』
16年6月10日~6月26日=新国立劇場 小劇場『Tell Me on a Sunday~サヨナラは日曜日に~』
『オペラ座の怪人』を始め数多くのメガヒット・ミュージカルを生み出してきたアンドリュー・ロイド=ウェバーが79年、『エビータ』の直後という瑞々しい才気ほとばしる時代に試演。その後改編を重ね、英米をはじめ各国でも人気を博したソロ・ミュージカルが、満を持して日本に上陸します。
NYに渡ってきた若い英国人女性が、様々な恋愛体験を重ね、成長し自立してゆく物語。ドラマティックなメロディで知られるロイド=ウェバーの、本作ではヒロイン・エマの心象をそのまま音符に立ちあげたかのような、内省的で情感溢れるメロディが第一の魅力です。今回は日英米の三か国で活躍する市川洋二郎さんの演出で、エマの人間的成長に焦点を当て、無駄をそぎ落とした日本独自のバージョンが誕生する模様。ダイナミックな役柄を演じることの多い当代きってのミュージカル女優・濱田めぐみさんが、今回は“等身大の若い女性”の心の機微をどう演じるか、注目が集まります。
【演出・市川洋二郎さんインタビュー】
「濱田めぐみさん演じる“等身大のヒロイン”を通して
女性の深淵な魂を描きたい」
米国テキサス州出身、音楽座や劇団四季を経て文化庁研修制度で英米にて2年間学んだ市川洋二郎さん。本作では演出だけでなく翻訳・訳詞も手掛け、日本語の香りも生かした繊細な訳詞を心掛けたという。
「非常にきれいな曲を書く人であると同時に、不思議な曲を書く人だと思っていました。例えば『オペラ座の怪人』の2幕には、それまで誰かと同一のモチーフばかり歌っていたクリスティーヌが初めて誰も歌ったことのないメロディを歌い、自我を持つことを表現した“Wishing you were somehow here again”というナンバーがありますよね。この曲は終盤で突然、“No more memories~”といきなり曲調、リズムが変わるんです。『サンセット大通り』の“As if we never say goodbye”の最後も、流麗な音楽に急にマーチングバンドみたいな音が入ったり。私生活も含め、面白味のある人物という印象です」
――『Tell Me on a Sunday』についてはどのような印象をお持ちでしたか?
「はじめにコンセプト・アルバムを取り寄せ、次にサラ・ブライトマンが演じた舞台版の映像を観て、なかなか難しい作品だと思いました。もともとソング・サイクルとして作られ、強い物語を見出すのが難しい構成なのです。その後改編が重ねられたのですが、 10バージョンほどでしょうか、できる限りの台本を集めました。単なる連歌集に終わることがないよう、それらを聴き比べて作品への理解を深め、日本のお客様に発信するうえでどうやっていくかと考えた結果、いくつもの恋をしてゆくなかでエマが様々なことを学び、最終的に自立というところに辿り着くようにやってゆこうと考えました」
製作発表でクライマックスの楽曲を情感豊かに歌い上げた濱田めぐみさん。(C)Marino Matsushima
「僕個人の見解では、(その造形には)“男を捕まえることが一番大事”というような、70年代末当時の女性観が反映されているのかなと思います。でも、女性ってもっと深淵な魂、男性よりずっと広い視野を持っている人たちだし、今の(働く)女性の感性は(当時とは)違う部分もある。ですから、今回は(恋をしてゆくなかで)彼女がどこにたどり着くかに焦点を当てようと思ったのです」
――今回は濱田めぐみさんからのご依頼で演出を受けられたのだそうですね。
「はい、僕はもともと濱田めぐみという女優さんが好きで、彼女と一緒にお芝居をやりたいと思って劇団四季に入団したのです。在団中は同じ作品に関わることはなかったけれど、友人になり、退団後も連絡を取り合っていました。今回初めて一緒にお芝居を作っていますが、とても“わかってくださる”女優さんで、やりやすいですね。“ここでエマ(ヒロインの役名)はこういうことを感じますよね。だからこういう動きになりますよね”と言えば“なるほどそうですね”、あるいは濱田さんのほうから“ここがちょっと”とあって“それではこう直しましょう”という感じで、気兼ねなくボールを投げ合っています。
製作発表で本作について語る市川さん。
【観劇レポート】
ヒロインの心の機微を細やかに、
程よいさりげなさで描くソロ・ミュージカル
『Tell Me on a Sunday~サヨナラは日曜日に~』企画制作 ホリプロ
デザイナーになる、という夢を抱えて英国からNYへと渡るヒロイン、エマ。本作では彼女の“仕事面”ではなく“プライベート面”に焦点が当てられ、失恋を繰り返しながら少しずつ人間的な成長を遂げて行く様が、生バンドの贅沢な音色に彩られたロイド=ウェバーの珠玉のナンバーによって、丁寧に描かれてゆきます。
『Tell Me on a Sunday~サヨナラは日曜日に~』企画制作 ホリプロ
『Tell Me on a Sunday~サヨナラは日曜日に~』企画制作 ホリプロ
『キム・ジョンウク探し~あなたの初恋探します~』
6月12~26日=よみうり大手町ホール、6月29~30日=サンケイホールブリーゼ『キム・ジョンウク探し~あなたの初恋探します~』
韓国オリジナル・ミュージカルの代表作で、2010年に映画化もされている本作。その日本版が遂に登場します。
初恋の相手を忘れられないヒロインが、結婚を迫る父親に「初恋の相手探し会社」に連れて行かれ、どこか頼りない“請負人”と運命の人を探す羽目に。はじめは犬猿の仲の二人だったが……。
『キム・ジョンウク探し~あなたの初恋探します~』
【観劇ミニ・レポート】
『キム・ジョンウク探し~あなたの初恋探します~』
『キム・ジョンウク探し~あなたの初恋探します~』
なお、本作で言う“初恋”の定義は、幼稚園の頃の異性意識なども含めてしまう日本の“初恋”とは異なり、「初めての(異性との)お付き合い」を指すのだと、原作者のチャン・ユジョンさんは以前筆者がお会いした時、おっしゃっていました。韓流ドラマ『冬のソナタ』でも大きなモチーフとなっていましたが、なぜ韓国の人々はこれほど初恋への思い入れが強いのでしょうか。そのあたりは以前のチャン・ユジョンさんへのインタビューでうかがっていますので、気になった方はぜひ御参照ください。
*次頁で『ラディアント・ベイビー』以降の作品をご紹介します!