SMAP騒動に見る「アイドルは誰のものなのか?」
社会現象にまで発展したアイドルの去就
まず、年間総売上が1000億以上とも言われるジャニーズ事務所だが、SMAPにまつわる売上も200億を超えるとも噂される。つまり冷静に見れば、事務所にとってSMAPが不在となることの損失はけっして小さくなく、騒動収束の理由としてこうした“大人の事情”もゼロだったわけではないだろう。
アイドルという“社会的財産”
しかしグループ存続を決断した最大きな理由の一つとしてファンの熱意が大きかったことは疑うまでもない。やめないでというメッセージの発信、CDの購買運動などファンは具体的な行動を起こし、さらには国会議員が存続を希望する発言まで行った。そしてメンバーによって活動継続が明らかにされた翌日には安倍総理までが歓迎の発言をするなど一つの社会現象にまで発展した。
これは人気アイドルという存在がいわば“社会的財産”としての役割を持っていることの現れだろう。
ファンがアイドルを支え、アイドルもファンの心の支えになっている
人前に立って活動するアイドルは受け手であるファンに夢を与える存在だが、それはエンターテインメントとして人を楽しませるだけでなく、ファンが人生を投影する対象としての意味も持っている。1月18日に放送されたフジテレビ「SMAP×SMAP」にて、メンバーの中居正広氏が「今回の件でSMAPがどれだけ皆さんに支えていただいているのかということをあらためて強く感じました」と語ったが、実はファンこそ彼らに支えられている。
アイドルは人生を投影する対象でもある
社会現象に発展したアイドル的な存在はこれまでにもいた。それは人間だけではない。
1980年代の終わりに日本中を席巻した競走馬のオグリキャップもその一つだ。
地方の笠松競馬出身で、血統も地味で安く売られたオグリキャップが中央競馬に移籍し、並みいるエリート馬を蹴散らす姿は日本中の人々の心を打ち、一躍アイドルホースとなった。
ところが、そんなオグリがトラブルに見舞われた。当時の馬主が脱税問題で資格を失ったことに伴い、別の馬主に期限つきでレンタルされたのだ。すると新しい馬主は支払ったレンタル料に見合うだけの賞金を稼がせようと、通常では考えられないような無理なローテーションでオグリを出走させたのだ。
その行為に日本中から「やめてほしい」「オグリが心配だ」と批判が殺到した。とりわけサラリーマンが自分の人生をオグリに投影していたからだ。
それまで馬は馬主のものとされてきたが、これがきっかけとなり、「馬は馬主だけでなくファンのものでもある」という考え方が生まれることとなった。
人気者が背負う宿命
アイドル的な存在は、それが人気者になればなるほど社会にとってなくてはならない存在となる。その代表とも言えるのが長嶋茂雄読売巨人軍終身名誉監督だろう。
2004年3月に脳梗塞で倒れた際は、巨人ファン、アンチ巨人に関係なく日本中が回復を祈った。その後、後遺症はあるものの回復し、ファンに元気な姿を見せている。
そんな長嶋氏は、個人としての生活を犠牲にしてでもファンのためにサービスする人であることが知られている。
かつて職業欄に「長嶋茂雄」と書いたという逸話もあるように、長嶋氏の背負う重圧など我々には想像もできないが、自分が元気な姿を見せることがファンの支えになることを、一番よくわかっているのが長嶋氏本人であろう。
芸能界のもう一つの側面を見る機会
今回のSMAPの件は、おそらく本人たちもこれほどまでに大きな騒動になるとは思っていなかっただろうが、「ファンがアイドルを支え、アイドルもファンの心の支えになっている」ということを知るいい機会となったと言える。それと同時に、SMAPほどの大物でも事務所を独立することは簡単でないほど芸能界が厳しい世界であるということを知るいい機会ともなったとも言える。