福岡県屈指の歴史を持つ学校
福岡県立大学はJR田川伊田駅から徒歩15分ほどのところにある県立大学です。鉄道なら博多駅から約1時間30分、小倉駅から約1時間。ほか、博多の西鉄天神高速バスターミナルから大学行きのバスもあり、所要時間は約1時間25分です。その歴史は古く、1945(昭和20)年に設置された福岡県立保健婦学校までさかのぼり、福岡県保健師の歴史を語る上で重要な役割を果たしてきたことが読み取れます。参考までに、これまでの卒業生のうち、保健師として就職するのは毎年5人程度とか。これは競争率の激しい福岡県内の学校としてはかなり多いといえます。
困難事例も想定した選抜
保健師免許を取得をするためのコースは選択制で、目安となる人数は10人程度。2年生の後期に公衆衛生看護学Iなどの指定科目を履修することが応募の最低条件になっています。もちろんただ履修すればいいわけではなく、選考時には出席率やレポート状況なども加味されます。指定科目の中には選択科目の疫学も入るので、希望者は事前のガイダンスをしっかり聞いて履修科目を選ぶことが大切です。選択制となった初年度の希望者は20人ほどいましたが、当時は15人に絞ったそうです。合否の判定は指定科目の成績のほか、虐待の場面がかいま見える、ハイリスクなケーススタディのDVDを見せたうえでの集団面接で判断しているそう。なぜ、このようなやり方をしているのか? 保健師教育を担当する尾形由起子教授は、
尾形由起子教授
と話してくれました。また、その意味について
「潜在的に声が出せない人たちにちゃんと声をかけて、問題解決に進めるような保健師を育てたいからです。本学に入ってくる学生たちの多くは比較的成績もよく、家庭環境も良好なケースが多いのですが、世の中には自分たちが見てきたもの以外のケースがたくさんあります。それを理解し、自分の生まれ育った環境とは異なる世界の人たちにもちゃんと声をかけ、手を差し伸べられる人になってほしいからです」
尾形教授は福岡県の保健師として15年ほど現場で活動してきたといい、その時の経験や自分を育ててくれた先輩たちの想いを、ここでの教育に役立てたいと語っていたのが印象的でした。
お年寄りに育てていただく
保健師教育の特長は、福岡県の抱える問題を意識した科目を作っていることです。地区診断はもちろん、地域や人を肌で感じる授業を進めるべく、隣の福智町の協力の元、高齢者宅への家庭訪問を実施している。その意義について尾形教授は、「家庭訪問は地域看護実習でやっておりまして、お年寄りの生活史を聞いてくることを課題としました。それにより、お年寄りだって自分たちのように若かった時期もあり、途中病気をしたり、いろいろな人との関係があって今があることを知ることができるのです。こうしてお年寄りに育てていただくことがとても大切なことなんです」
と話してくれました。中には実習が終わっても関係が続き、ご飯に呼ばれる学生もいるとか。逆に大学もお年寄りたちに来てもらい、成果の発表会をするなど、両者のよい関係が保健師教育の充実につながっているようです。また、こうも付け加えました。
「この実習により、こころを感じること。その人の人生、生き方を教えていただくこと。お年寄りの生活環境を見ること。介護問題を取り巻く、家族や社会資源など、たくさんのことを学ぶことができます。そして、何が足りているのか、足りていないのかを知ると、何のために制度が作られたのか、家族看護論はなぜ学ぶのかまで、考えることができるのです」
骨太の保健師を育てたい
最後に、尾形教授からのメッセージです。「保健師というのは医師会や行政などと関わる際には、頭脳とプレゼン力、全体を整理してみる統計的な力が必要です。一方、引きこもりの人や、いわゆる路上生活者の人たちに関わるには、横に座り、ひとりの人間として困っていることを聞き出すなどの力が必要です。この両面を持つ骨太の保健師を育てたいと思っています」
さらに、保健師に楽しさについて、こんな話もしてくれました。
「保健師は、困った人たちのケースに入ったときなど、様々な職種の人たちと共に関わっていくので、自然とチームができます。それが公私にわたり仲間になることが多いのです。仲間が増えれば次の困りごとができても、すぐに対応できます。10年くらい経験を積めば、これらの人脈を生かしながら、地域で泳ぐように仕事をできるようになるはずです」
(大学データ)
福岡県立大学看護学部看護学科ヘルスプロモーション看護学系:尾形由起子教授/松浦賢長教授/山下清香准教授/阿部眞理子講師/小野順子講師/原田直樹講師/吉田恭子講師/梶原由紀子助教/手島聖子助教/楢橋明子助教/吉村美奈子助教/杉沢みぎわ助手/中村美穂子助手
定員:90人
保健師コース:10人程度
保健師コース最終選抜時期:2年後期終了時