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「家は夏のことを考えて建てるべき」は正しいのか?(2ページ目)

私たち日本人の間には住まいについて、夏の暑さを考えて建てたり購入すべきということが、あたかも一般常識のごとく広がっているように思います。その要因となったのは教科書に載っている吉田兼好(兼好法師)の「徒然草」の一節が影響しているようですが、現在の住宅には合わない考え方となっているかもしれない、というのがこの記事の内容です。

田中 直輝

執筆者:田中 直輝

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では、なぜ今、日本人が冬に死亡するケースが多いのでしょうか。それは建物の断熱性能が高くないため、「ヒートショック」のリスクが高まっているからです。これは脳梗塞や心筋梗塞などの症状を指します。

実は外よりも事故が発生しやすい住宅の中

例えばこういうこと。ベッドやフトンの中は38℃くらいの温度になっており、寝室も人の温度が発散しますから冬の夜でも15℃以上となっています。しかし、トイレの温度は下手をすると0℃くらいになっていることがあります。

高断熱サッシ

冬の寒さ対策で効果的なのは開口部(窓など)の断熱性能を高めること。写真はスウェーデンハウスが取り入れている木製三重ガラスサッシ(クリックすると拡大します)

そうなると、ベッドの中とトイレでは30℃以上の温度差が存在することになり、これがお年寄りなど体に急激な作用を与え、ヒートショックを発生させるというメカニズムです。同じように危険な場所として、お風呂なども冬にはリスクが高い場所となります。

ですので、冬の寒い環境であっても建物の中に温度変化ができるだけ発生しない、断熱性能が高い住宅を私たちは建てるべきだと、岩前教授は指摘されているわけです。

一方で「家の中は外よりも危ない環境なのでは」という指摘も。これは住宅業界で近年よく指摘されるようになったことで、住宅内で年間発生する死亡事故は、実は交通事故より多いのです。

だから教授は「行ってらっしゃい。気をつけて」というよりも、「お帰りなさい。気をつけて」というべきではないか、と話されていました。ただこれは、ヒートショックだけでなく、階段などでの転倒事故など住まいの中には様々な危険が潜んでいるということですが…。

これらの岩前教授の話の大前提となるのは、住まいについて住まい手の健康や安全を最優先に考えるべきではないか、ということです。

これをさらに別の角度から考えてみると、次のようになります。最近、地球環境への配慮や省エネルギー、省CO2がいわれ、断熱性の高い住まいづくりのトレンドが高まっていますが、それは人の健康などとより関連性をもって取り組む必要があるだろうと。

近年、国は新築住宅についてZEHの普及を推進しています。これはエネルギー消費量と太陽光発電システムなどで作るエネルギーの差し引きがおおむねゼロになる、あるいは後者の方が多い住宅のことをいいます。

ですが、エネルギーをゼロあるいは、消費エネルギーより多くすること自体は比較的容易です。大容量の太陽光発電システムや蓄電池など、創エネ・蓄エネの設備を搭載すれば可能だからです。

ZEHでも断熱性強化が「質」の善し悪しがポイントに

断熱性がそれほど高くない住宅でもそのような設備を取り入れればZEHが可能になるのです。これっておかしな話。だって、断熱性が高くないということはヒートショックなどの住まいのリスクについてはあまり改善されていないということですから。

断熱の強化

これからの住まいづくりでは、夏の暑さ対策と冬の寒さ対策を高いレベルで両立することを重視すべきだ(クリックすると拡大します)

住まいの質については現在、色々なことがいわれていますが、断熱性のことについてはエネルギーベースで説明されることが多いと思います。皆さんにはそれだけではなく、健康や安全などといった視点からも、しっかりと考えていただきたいと思うのです。

言葉を換えると、ZEHの創エネや蓄エネといったわかりやすい部分にだけ目を奪われるのではなく、断熱性の善し悪しというわかりづらいですが、より重要な部分にも注目していただいた方が、皆さんにとってより満足度が高い住まいになる可能性が高まるということなのです。

さて、ここまで夏の暑さ対策より冬の寒さ対策を、というニュアンスで話を進めてきましたが、だからといって夏の暑さ対策が重要ではないといいたいのではないのです。省エネが叫ばれる中、できるだけエアコンに頼らずに暮らせるようにすべきです。

だから、間取りや開口部の位置などを工夫したり、昔から伝わる夏の暑さを和らげるためのアイテムを駆使したりすることを、皆さんの住まいづくりに積極的に取り入れることは大変良いことです。

私たちに求められるのは、夏の暑さ対策はもちろん冬の寒さ対策にも配慮したより質の高い住宅を建てることなのだと考えられます。
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