社会ニュース/よくわかる時事問題

カジノとギャンブル依存症における日本の誤った認識

日本におけるカジノ合法化がなかなか進まない。2013年に提出された通称「カジノ法案」も、衆議院選挙にともない廃案となったまま今国会でも再提出されていない。その最大の理由が反対派の抵抗だ。反対グループはカジノによってギャンブル依存症が増加すると主張するが、果たしてそれは事実なのだろうか?

松井 政就

執筆者:松井 政就

社会ニュースガイド

カジノとギャンブル依存症における「日本特有の事情」

カジノとギャンブル依存症における「日本特有の事情」

観光立国の目玉として期待される統合型リゾート「IR(Integrated Resort)」。海外から観光客やビジネス客を誘致し、大がかりなコンベンションなども執り行える日本にとって新しい産業である。

その中核にあるのがカジノだ。

コンベンション会場の維持やイベントなどの開催など、IRにおける大がかりな活動はカジノの売上げによってはじめて可能となるものであり、IRにとってカジノはまさに心臓とも呼ぶべきものである。

ところが肝腎のカジノ合法化がなかなか進まない。根強い反対があるからだ。現在もカジノ法案は成立の見込みすら立たず、2020年の東京五輪開催にはすでに時間的に間に合わない可能性が高まりつつある。

反対派の最大の主張は「カジノによってギャンブル依存症が増加する」というものだが、それは本当だろうか?


厚労省発表「ギャンブル依存症536万人」の一人歩き

カジノの合法化作業が進められる中、厚労省からショッキングな数字が発表された。日本におけるギャンブル依存症と疑われる人が推定536万人いるという情報だ。

仮にこの数字が事実だとすれば人口の約5%に達し、諸外国の平均1~2%と比べ、突出していることになる。

そのインパクトもあってか、この数字はメディアでも度々取り上げられた。その多くはカジノ解禁の話題の中で取り扱われたため、結果として「カジノ」と「ギャンブル依存症536万人」という数字がセットで一人歩きしてしまうことを招いた。

反対者の主張には、必ずといってよいほどこの数字が用いられるため、事情を知らない人が「カジノ=ギャンブル依存症の原因」という先入観を持つ役割を果たしてしまうこととなった。

しかし、日本にはまだカジノはなく、ギャンブル依存症とされる536万人は、当然のことながらカジノによるものではない


ギャンブル依存症の原因の9割はパチンコ・パチスロ

その原因の大半はパチンコ(パチスロ)だ。

国立病院機構久里浜医療センターで「病的ギャンブリング外来」の責任者を務める河本泰信精神科医長は、2014年11月11日付け「夕刊フジ」の取材に対し、「諸外国の1-2%に比べ、日本は多い。町中にパチンコ屋があふれ、気軽にギャンブルをできることが背景にあります」と語っている。

実際に同センターではギャンブル依存症の原因の9割がパチンコやパチスロであることが判明している。

たとえば今、目の前で火事になっている家があるとしたら、やるべきは「消火」である。そのためには、できるだけ「火元(出火場所)」を特定し、鎮火させるのが先だ。火事にならないための研究と、目の前の火を消すことは別問題だからだ。

仮に今、ギャンブル依存症の疑いが536万人という数字が事実だとするなら、まずやるべきことは、存在しないカジノの是非を問うことではなく、今「火元」となっているパチンコにおいて依存症対策を講じることであろう。


依存症対策が形骸化しているパチンコ業界

海外のカジノではギャンブル問題への対応は厳格で、21歳以下の人間の利用を禁止する法律や、依存症の疑いのある客に入場を制限するルールなどがある。

一方、パチンコ業界はというと、未成年者などの遊技を禁止するルールは一応あるものの、実際に身分証の提示などを求めるケースは稀であるし、依存症対策としては、適度に楽しむようアナウンスするに留まり、あくまで利用者の自主性に任せているのが実情だ。

カジノ合法化の取り組みの中でも、パチンコへの対策ががあまり議題に上がらない一方、まだ存在しないカジノばかりが依存症への悪影響を指摘されるのはややバランスを欠いた議論といえる。
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