第3位 バド・パウエル 「バド!ジ・アメイジング・バド・パウエルVol3」より「バド・オン・バッハ」
最後はビ・バップの天才ピアニスト、バド・パウエルです。この「バド・オン・バッハ」はジャズの天才、奇才として有名なバドが、精神病やアルコール中毒により自分の思うとおりに演奏ができなくなってしまった時期の演奏です。(Amazon)
バド・パウエルは、モダン・ジャズピアノのスタイルを作り上げた最大の功労者にして、最高のピアニストです。ただし、バドのインスピレーションに見合う演奏ができたのは1940年代後半までと言われています。
精神病を患い、その治療のための電気ショック療法。重度のアルコール中毒。さらには、警官の暴行が原因と言われる頭部への打撃による損傷など、不幸な要因が重なったのです。
事実、40年代と50年代では、別人のように聴こえるものも少なくありません。このバドのブルーノート・レーベルでの第3弾「バド!ジ・アメイジング・バド・パウエルVol3」は、そうした後期の兆候が表れているアルバムでもあります。
中でも、「音楽の父」と呼ばれ、音楽史上最も偉大と言われるヨハン・セバスチャン・バッハを取り上げた「バド・オン・バッハ」に顕著です。
ここでは、最初に学校の音楽室から聞こえてくる練習のような、たどたどしいバッハの曲が聴こえてきます。バドの頭の中ではおそらくは荘厳なバッハが高らかに鳴っているのでしょう。でも、私たちが聴くことができるのは、おそらくはバドが思う何分の1にも満たないピアノの演奏です。
そして、聴く者がやるせない気持ちになりかかったときに、やっとバドは目を覚ましたかのようにジャズを奏で始めます。その瞬間が、夢から現実への狭間、狂気の世界からジャズへと変わる瞬間です。この一瞬に、強烈にジャズを感じ、演奏者としてのバドの生身の音楽を感じます。
ジャズは決して、完ぺきな音楽ではありません。たとえ、思うように指が動かなくても、体臭のような自分独自の音楽を奏でることができるものです。そしてその強烈な個性こそが、ジャズの、バド・パウエルの、魅力となっています。
50年代以降は評価が分かれるバドですが、最も人気がある曲はと言われると、迷わずこの曲が選ばれます。後期の1959年、バド最大の人気盤がコチラ! 「ザ・シーン・チェンジズ」より「クレオパトラの夢」
この「クレオパトラの夢」は、テレビなどでもよく流れており、バド最大のヒット曲として、一度は耳にしたことがある方も多いと思います。エキゾチックな題名と、哀愁あふれるテーマは耳になじみ、聴きやすくバド最大のヒット曲と言っても良い人気曲です。
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この人気曲は、ブルーノートでの最後のアルバム「ザ・シーン・チェンジズ」の1曲目に入っています。このアルバムは、ジャケットも秀逸です。物憂げなそれでいて、シャープさが残る真剣な表情でピアノに向かうバドの後ろには、覗き込むように小さな顔を見せるバドの子供の聡明そうな横顔。全体のブルーの色調といい、構図といいジャケットから、このアルバムが特別なものである雰囲気が伝わってきます。
この「クレオパトラの夢」は、後世のジャズ・ピアニストに多大な影響を及ぼしたジャズピアノの巨人バド・パウエルに相応しい格調高い曲調と言えますが、実はこの曲は同じピアニストからの評価がわかれる曲でもあります。
熱心なバド・パウエルの信奉者として知られるピアニストのバリー・ハリスが「そんな曲は知らないね」とつれなかったり、日本を代表するピアニスト穐吉敏子には「あんな曲より、テンパス・フュージット(同じくバドのオリジナル曲)の方が数段良い」と言われる始末。
特にバドを崇拝するミュージシャンからは人気がないこの曲です。それでもその数倍、数百倍のリスナーより支持されているのもこの曲です。おそらくは、ミュージシャンサイドとしては、神がかった絶頂期のバドの姿がここにはないということなのでしょう。
この曲には人間バド・パウエルの等身大のベスト・プレイが宿っています。ことテーマの曲調やアドリブという木や枝を見る観点からはその通りと言えます。しかし、音楽と言う大きな森を見る全体像からは、この「クレオパトラの夢」が名曲、名演であるのは間違いがないところです。
クラシックの名曲をジャズで聴く!いかがでしたか?ジャズよりも長い歴史を誇るクラシックには、まだまだ名曲がズラリと揃っています。
そして、それに挑戦したジャズの名演も他にもたくさんあります。またの機会にでも、それらをご紹介いたします。それでは、また次回お会いしましょう!