住みたい街 首都圏/キケンな街の見分け方

歩いて、見て知る地盤の危険 低地編(2ページ目)

歩いてみれば、土地の微妙な高低も分かるはず。特に低地ではごくわずかな凸凹が重要な情報を伝えていることもある。五感を研ぎ澄ませて感じるつもりで歩いてみると、いろいろなことが分かるはずだ。

中川 寛子

執筆者:中川 寛子

住みやすい街選び(首都圏)ガイド


上野台地からかつての川跡へ。
蛇行を体感しておけば川のありかが分かる


夕焼けだんだん

観光客でにぎわう夕焼けだんだん。この界隈にはここ以外にも坂が多く、すべてが同じ方向に下っている(クリックで拡大)

荒川と多摩川の間に広がる武蔵野台地は場所ごとに異なる名称で呼ばれることがある。上野の場合には上野台と呼ばれ、王子の辺りから細長く伸びている。この台地と不忍通りを挟んで向かい合うのが東京大学のある本郷台で、不忍通りはかつての利根川、荒川の氾濫原で古石神井川が流れていた場所。その後、海進(海の水位が上がること)を経て大正12年に暗渠となるまで藍染川が流れていた。

不忍通り周辺は2つの台地の間の谷というわけで、そこに下る坂のうちでもっとも有名なのが夕焼けだんだんである。ここでも坂の下、低地にはお約束の商店街がある。最近は観光客で賑わう谷中銀座商店街である。

 

へび道

右に左に不規則に折れ曲がるへび道。道路標識にも蛇行ありと記載されている(クリックで拡大)

その谷中銀座商店街と直行するように続くのがよみせ通り、へび道と言われる藍染川の暗渠上にある通りだ。商店街となっているよみせ通りはいささか分かりにくいが、へび道を歩くと蛇行という意味が分かる。これは蛇が這う姿のように曲がりくねって進むことを指し、川の流れの場合も同様。この通りは名称の通り、本当によくのたくっている。

北十間川や新堀川のように人間が掘削した川はまっすぐ流れているが、自然の川の場合にはそうそう都合よく直進はしてくれない。実際に歩いてみて蛇行の意味を体感すると、どこへ行っても「ここは元河川かもしれない」という勘が働くようになるので、ぜひ、一度歩いてみていただきたい。


 

街で工事現場を見かけたら、
基礎の状況をチェックしてみよう

建設現場

これだけの敷地に5階建て。隣とも非常に接近して建てられることになっており、ほとんど建物間に隙間はない(クリックで拡大)

ところで、今回望外な経験をした。歩いている最中に2カ所の工事現場を見かけたのである。しかも、まだ基礎ができる、その土地がどういう地盤かが分かるような状況だった。

まず、最初に見かけたのは50平米弱にコンクリート造の5階建てを建てるという現場。一般的な木造2階建ての建物であれば、基礎はべた基礎、布基礎のいずれかになることが多いが、RC造などの重い建物になると杭基礎が選定されるのが一般的。マンションもごく一部の地盤の良い場所に建つもの以外は杭基礎が採用されており、地盤によってその杭の長さが異なる。長いほど地盤が軟弱であるのは言うまでもない。

 

一戸建て建設現場

一戸建ての建設現場。前掲の写真と異なり、穴の表面に杭は出ていない(クリックで拡大)

もうひとつの現場は木造一戸建てのもの。敷地内に穴が穿たれており、覗くと中には細い鋼管が。これは上記の基礎の一部となるものとは異なり、地盤改良の一種。しかも、鋼管杭工法という、もっとも費用のかかるタイプである。

そもそも、一戸建ての地盤改良には大きくわけて3種類があり、ひとつは表層改良工法と言い、地表から2mまでの土を掘削し、ここに固化材を入れて土と混ぜ合わせ、30センチごとにタンピングランマー、振動ローラーなどと呼ばれる機械で徐々に締め固めるというもの。このやり方は表層のみに不安がある場合に用いられ、費用的には20坪程度の木造住宅建築時で数十万円まで。地表面が非常に硬くなるため、草木も生やすことができないのが難。ガーデニングはまず無理だ。

 

柱状改良の現場

こちらはセメントミルクを流し込んである現場。目黒区の傾斜地で撮影した

軟弱地盤が表層から2m~8mくらいまでの深さにある場合には柱状改良工法が用いられ、これは土の中にコンクリートの柱のようなものを作るというもの。敷地に穴が穿たれているところまでは鋼管杭工法と同じだが、覗いてみると白いセメントミルクが見えるので違いが分かる。この場合で費用は100万円くらいまで。

 

鋼管杭

穴の中に細い鋼管が入っていることが分かる(クリックで拡大)

ところが、軟弱地盤がさらに深くまである、あるいは土壌が酸性である場合には鋼管杭工法を採用することになり、場合によっては200万円近くの費用がかかることも。高橋さんによると「この辺りでは4mほどのところに硬い層があるのですが、表面近くに酸性の腐植土があるため、アルカリ性であるセメント系の地盤固化材を使うと中和されてしまい、固まりません。そこで鋼管杭を使っているのだと思われます」。

 

一戸建ての場合、地盤が良好であればいずれの工法を採用することなく、べた基礎を打って建設することができ、地盤改良の費用は必要なくなる。もし、土地、一戸建てを買おうと思った場所の近くの工事現場で地盤改良が行われていたとすると、これから買う土地、一戸建ても地盤改良が必要である可能性が出てくる。

当然、その分、費用が余分になるわけだから、下見で歩いている時に工事現場を見かけたら事前にチェックしてみてみたい。ただ、最近はシートで囲うなどして現場が外から見られなくしているケースも多いので、その場合には迷惑にならない範囲で見せてもらうこと。作業をしている人がいたら、杭や改良の深さ、方法などを聞いてみると、参考になるはずだ。

 

地盤の話からはいささか脱線するが、以上3種類の地盤改良には近年、不安があるとの指摘がある。「もっとも費用がかからない表層改良工法ではもともとセメント系固化材に少量ながら含まれている発がん性物質、六価クロムが関東ロームなど特殊な土質と反応して土中に流出する恐れがあると言われます。通常は心配ありませんが、場合によっては危険があり得るということです。また、柱状改良で地中に作られたコンクリートの柱、打設された鋼管杭は地下埋蔵物とされ、後日土地を売ろうとした場合に鑑定でマイナス評価とされ、売り主負担で撤去を求められる可能性が。そのため、最近は砕石パイル工法、ジオクロス工法その他の新しい工法が登場していますが、従来の方法に比べると時間がかかるなどのマイナスもあるようで、悩ましいところです」。

 

一戸建ては特に地盤の影響を受けやすいこともあり、どの土地を選ぶかは防災的にも、費用的にも大きな問題。まずは歩いて、見て地盤を知り、その上で考えたいところだ。






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