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「不良社員」は不必要か?

政府は働く時間を自己裁量とする代わりに残業代を支払わないことを骨子とする「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入を決めた。人件費削減したい企業により、これまでも様々な雇用形態が考えられたが、その目的は極論すれば「働かない社員の排除」だ。しかし「働かない社員」の見極めは難しい。本当に働いていない社員もいる一方、働いてないように見えながら重要な役割を果たしている社員がいることもあるのだ。

松井 政就

執筆者:松井 政就

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「働かないアリ」は本当に働いていないのか?

「働かないアリ」は本当に働いていないのか?

政府は新成長戦略の一環として、働く時間を自己裁量とする代わりに残業代を支払わないことを骨子とする「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入を決めた。これは「成果報酬型」雇用契約の一種だ。

今回の方針では、その対象を「専門職」としている。

一般論で言えば、専門職とはかなりの専門性を有し、その技術や能力を用いて働く人と思われるだろう。

ところが現実はそうとは限らない。たとえばポストの細分化によって、本来であれば専門職ではないはずの社員が見かけ上専門職されているケースもある。

他にも、一部の家電量販店において問題視されているように、長時間勤務が当たり前となっている現場の社員を管理職に昇格させ、残業代を免れるなど「姑息な手段」まで現れている。

人件費を削減したい企業により、これまでも様々な雇用形態が考えられたが、その目的は、極論すれば「働かない社員の排除」だ。

しかし「働かない社員」の見極めは難しい。本当に働いていない社員もいる一方、働いてないように見えながら重要な役割を果たしている社員がいることもあるのだ。


「働かないアリ」は本当に働いていないのか?

ここで「アリ」の例を挙げる。

『アリとキリギリス』という童話にあるように、アリは働く生き物の代名詞とされている。その行動は統制され、目的に向かって大勢が統一されて行動するイメージがある。

しかしそんな中に「働かないアリ」がいる。他のアリが黙々とエサを運んでいる傍らで、あっちに行ったりこっちに来たりと、うろうろしているだけでエサ運びに加わらない。場合によっては仲間から離れ、遠くまで放浪に出ることもある。

こうした「働かないアリ」は、組織の中の役立たずの事例としてビジネスセミナーでも話題にのぼることが多い。ところが、そうした働かないアリが、実は仕事をサボっているわけではないことがわかってきたのだ。

働き者だけでは集団の生産性が下がる

北海道大学大学院農学研究科助手(研究当時)の長谷川英祐氏らによれば、働かないアリがいたほうがアリ全体としての仕事の効率が高くなることが判明したという。

カドフシアリ三十匹のコロニー三つをサンプルとして生態調査をしたところ、ウロウロしたりしてサボっているアリが二割いた。そこで、サボっているアリを取り除いたところ、それまでハキハキと働いていたアリの働きが悪くなったというのである。

「遊軍」は新しいエサの偵察隊

さらに、大阪府立大学工学研究科の西森拓助教授(当時)の研究により、働きアリはエサを運ぶという「決まった仕事」は上手だが、どこにあるかわからない新しいエサを見つけることが不得意ということがわかった。

一方、働かないと見られていたアリは、決まった仕事をせず、遠くまで歩き回っているため、新しいエサを見つける可能性が高かったのだ。

つまり、サボっていると思われていたアリは新しいエサの偵察隊としての役割を果たしていたのだ。


「不良社員」にも役割がある

会社にも働かないアリはいる。「不良社員」や「遊軍」と言われる一群だ。
他の部署に顔を出したり、市場調査と称して街に出かけたりするなど、マジメに仕事をしている人から見れば目障りな存在だ。

ところが新しい事業計画のような場面になると、そんな不良社員が突拍子もないアイデアを出すことがある。頻繁に出歩いているため、じっと座って働いている人よりも、広い範囲の事に触れる機会が多いせいかもしれない。

もし不良社員をすべてリストラしたとすれば、その会社は決まったことだけをしている間はいいが、いざ時代が大きく動いた時、不良社員がいないせいで変化に対応できず危機に瀕するかもしれない。

そんなことになればかなり皮肉だ。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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