『レ・ミゼラブル――舞台から映画へ』(日之出出版)
- ブーブリルとシェーンベルクが『レ・ミゼラブル』を書いたきっかけは、ロンドン・ミュージカル『オリバー』である……?
- さらにさかのぼって、二人がコンビを組むようになったのは、ブーブリルがNYで『ジーザス・クライスト=スーパースター』を観て触発されたため……?
- 原作者ヴィクトル・ユゴーはマリウスに自分自身を投影しながら執筆した……?
- もともとフランス語だった歌詞を英訳するにあたって、『マイ・フェア・レディ』のアラン・ジェイ・ラーナーや『屋根の上のヴァイオリン弾き』のシェルドン・ハーニックが候補に挙がったが、二人とも断った……?
- 冒頭からバルジャンが銀の燭台をもらい、改心するまでのくだりはもともとのフランス語版には無かった……?
- アン・ハサウェイの母は女優で、舞台版『レミゼ』に出演していたことがあったので、映画版のファンテーヌ役に自然に入ってゆくことができた……?
『レ・ミゼラブル――舞台から映画へ』より
マッキントッシュに『レミゼ』を最初に紹介したのは……?
より「今」に近いためか、情報量としては映画化にあたってのエピソードにかなりの紙面が割かれていますが、読んでいて最も引き込まれるのは、やはりロンドン初演に至る経緯。演出家を決める際、マッキントッシュはそもそも、彼のもとにフランス語版のテープを持ち込み、『レミゼ』を知るきっかけをくれた演出家ではなく、『キャッツ』を演出したトレバー・ナンに声をかけたとか、(←持ち込んだ演出家は今頃どう思っているかと想像してしまいます)、曲を聴いて情熱の塊となったマッキントッシュが大御所、若手を問わず様々な人材に声をかけ、作品にふさわしいチームを結成していった過程を読んでいると、業界のシビアさや、人脈、そして熱意の大切さを痛感させられます。『レ・ミゼラブル――舞台から映画へ』より
ファン心を心得た、付録の数々
さらに本書の大きな特色と言えるのが、20点にも及ぶ複製付録。中でも、ロンドン初演のポスターのシンプルさには驚かされます。リトル・コゼットのイラストにタイトルとスタッフ名、劇場名が乗せられているだけで、キャッチコピーは皆無。小さくA musicalと書かれているのが唯一の「説明」です。これでも満員御礼になってしまうのですから、現地の舞台ファンの勘は恐ろしく鋭かったというべきでしょうか。以前は『レミゼ』の代名詞でもあった「盆舞台」の図面もおまけの一つですが、こちらは模型さながらにお盆が回せるように作られています。ファンには嬉しい付録の数々。写真付きのポケットに丁寧に収められています。
新演出版、東京公演は終了しましたが、福岡、大阪、名古屋と日本公演はまだまだ継続。これからご覧になる方は、こちらの書籍で作品の背景をインプットしておけば、一味違った『レミゼ』の楽しみ方ができるかもしれませんし、もうご覧になった方なら、この本を通して新たな発見があることでしょう。縦が29センチ、厚さ4センチ近く、となかなかの大型本なのですが、「愛蔵」するにはぴったりの内容、装丁の書籍です。
*書籍情報 ベネディクト・ナイチンゲール、マーティン・バルマー著、山上要訳『レ・ミゼラブル――舞台から映画へ』(日之出出版)2013年6月21日刊行