MRの転職

最新製薬業界事情 2012(2ページ目)

2012年の製薬業界には2つの大きな変化が見られました。そのひとつは医薬品の卸売企業によるMR業務への本格的な進出です。そしてもうひとつが欧米並みの販売活動規制のスタート。これらはいずれも数年前から兆しがありましたが、そうした変化が「本格化した」という点で2012年は特徴的な年であり、今後MRの転職市場や仕事内容に大きな影響を与える可能性があります。

高橋 俊夫

執筆者:高橋 俊夫

MRの転職ガイド

接待などを厳しく規制してきた製薬業界

2012jijou0202

販売活動規制の強化は「薬物治療のパートナー」としての専門性をいっそう高める効果が。

次に「販売活動規制の本格化」というもうひとつの大きな変化を見てみましょう。
医薬品は健康や命に大きな影響を与えるため、どの医薬品を使用するかは患者さん一人ひとりの治療における有効性や安全性といった点で判断されるべきものです。従ってそうした医薬品の適切な使用判断をゆがめるような販売活動を抑制するために、製薬業界では販売活動の一環として行われる接待や金品の授受などを規制する取り組みに力を入れてきました。

業界団体である日本製薬工業協会では、自主的規範として1993年に「医療用医薬品プロモーションコード」を策定しました。さらに1997年には「製薬協企業行動憲章」を、そして2001年には「製薬協コンプライアンス・プログラム・ガイドライン」をそれぞれ策定し、業界の自主規制を整備してきました。また医療用医薬品製造販売業公正取引協議会による「公正競争規約」も制定され、製薬業界は他業界と比べても接待などの規制が厳しい業界となりました。

製薬会社に対する接待規制の本格化

その後も「プロモーションコード」や「憲章」、「ガイドライン」の改定を重ねながら自主規制をさらに強化してきた製薬業界ですが、より厳しい規制が採られている欧米の製薬業界を意識して2012年に「公正競争規約」が改定されました。また医薬品の開発などに係る産学連携活動のルールとして新たに「透明性ガイドライン」が設けられました。こうしていよいよ欧米並みに厳しい販売活動規制がスタートしたのです。

改定後の「公正競争規約」では、たとえばMRがドクターとゴルフなどの娯楽を共にすることは全面禁止に。またMRは自社医薬品の理解を深めてもらうため昼食時などに病院内のドクターに集まってもらい医薬品の説明会を実施しますが、そうした場合に提供できるお弁当代も上限(3,000円)が定められるなど、かなり細かい点まで活動を規制しています。こうした規制によりドクターとの接し方をかなり変えることを余儀なくされるMRも少なくありません。

接待規制の本格化がMR活動におよぼす影響

では新しいルールの下でMRの活動はどのように変わっていくのでしょうか。多く聞かれるのは「少人数の講演会や、ドクターを講師として招聘する社内研修などが多くなるだろう」という声。これは改定後の公正競争規約でも講演会や社内研修などの講師に対しては、慰労のために上限2万円までの飲食が認められているためです。

しかしこうした方法で関係を深める機会を持てるのは、講演会の講師を務めるような一部の著名なドクターに限られます。また社内研修の講師にしても、忙しいドクターに何度も来てはもらえません。つまりこうした取り組みはMRの日常的な活動に活用できるようなものではないのです。では、MRの日々の活動はどのように変わるのでしょうか

これまでは差別化の難しい医薬品も多かった

MRの本来の役割は、ドクターが治療を行う際に自社の医薬品を適正に使用するために必要な情報を提供することで治療に貢献し、そうした活動を通じてドクターの信頼を得て自社医薬品の普及を図ることにあります。

しかし実際には、効能効果や安全性において競合他社の医薬品と明確な差別化が難しい場合も多く、結果的にはドクターとMRとの人間関係によって薬が選ばれるということも少なくないようです。そうした実態のなかで、娯楽や飲食の提供といった活動は人間関係づくりの「潤滑油」として少なからぬ効果を発揮していたことは想像に難くありません。

本来の薬物治療パートナーへ

もちろんこれまでもMRは人間関係だけでドクターの信頼を得ていたわけではありません。自社の医薬品の情報はもとより、他社医薬品の情報や論文などの参考文献、臨床試験データなど様々な情報を提供して治療に貢献することで信頼を得るといったことも日常的に行われてきました。

今後は人間関係づくりに依存して自社医薬品の処方量を増やすことが従来よりも難しくなることで、こうした「ドクターの治療に貢献することによって処方量を増やす」という本来の活動に今まで以上に真剣に取り組まざるをえなくなるでしょう。つまり、今回の規制強化はMRが本来の姿である「薬物治療のパートナー」として医療従事者の信頼を得ていく契機になると考えられます。

製薬会社の開発方針も追い風に

そうはいっても、これまでは差別化が難しいために人間関係に頼らざるを得なかったという事情もあります。しかしそれも最近の製薬会社各社の開発方針の見直しによって変わりつつあります。

大手製薬会社は近年、「がん」「認知症」「うつ病」など、患者さんによって症状や治療方法が異なることの多い疾患の医薬品に力を入れてきています。こうした疾患では、一人ひとりの患者さんの症状や状況に合わせた治療が必要となるため、製薬会社各社に蓄積されたデータやMRが入手する情報が治療に役立てられるケースが各段に増えてきています。すなわち扱う医薬品の面でもMRが存在価値を発揮しやすい環境になってきたわけです。

これまでもMRは専門性の高い営業職として人気がありましたが、これからは今まで以上に患者さんの治療に貢献でき、専門性もいそう高くなっていくことが期待できそうです。
【編集部おすすめの購入サイト】
楽天市場で転職関連の書籍を見るAmazon で転職関連の書籍を見る
  • 前のページへ
  • 1
  • 2
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます