可能性3-3:極端なインフレは考えづらい
「インフレ」というと、ジンバブエや第一次大戦後のドイツのように、「トラック一杯にお札を持って買い物に行く」という極端なハイパーインフレのイメージがあります。しかし、そこまで極端なものばかりではありません。ジンバブエや第一次大戦後のドイツのインフレは、お札が多く刷られただけではなく、極端な物不足に陥ったのが原因でもあります。例えば、ジンバブエは商店に対して「高い価格で物を売ってはいけない」という命令が出されたため、物を売る商店がなくなって物不足になりました。ドイツは、ルール工業地域が戦勝国によって占領されたために、極端な物不足になりました。日本で、そのような生産・流通の停滞が起こる要素は現在はあまり考えられません。
インフレが起こるといってもそんなに極端なものにはならず、もう少し緩やかなものになりそうです。一つのモデルとしては、20世紀のトルコで発生した年率50~100%程度のインフレです。トルコは1980年代まで財政を中央銀行の国債買い取りに頼っていた、つまりお札をたくさん刷っていたので、このようなインフレになっていました。
90年代に突入し、お札の発行をやめ主に国内向けに国債を発行し始めたのですが、長年続いていたインフレの勢いは止められませんでした。21世紀になって、デノミ(旧100万リラ=新1リラの新通貨発行)を経てようやくインフレが少し止まっています。
可能性3-4:インフレで日本人の生活はどうなる?
ここから先はあくまで仮定の話ですが、インフレが進行したとして、日本人の生活はどうなるでしょうか? 普通は物価が高騰していくと年金などで生活している人が非常に苦しくなりますが、日本の年金は物価スライド制になっていて、物価が上がると支給額も引き上げられる仕組みです。物価スライド制が正しく機能すれば、年金生活者がすぐに苦しくなることはありません。ただし、その分年金支給額を引き上げなくてはいけないので、年金の破綻が近くなったり、そのためにまたお金を刷ってインフレが際限なく進むことも考えられます。預貯金などの価値も目減りします。日本は戦時中にも公債発行高が急増したことがありますが、戦後昭和21~25年のインフレで通貨価値が100分の1程度に落ち、それによって公債問題は片付きました。反面、戦前に持っていた市民の貯蓄がほぼ無価値になっています。
このインフレのため、昭和28年にはそれまで使われていた「銭」が廃止されました。また、戦前は1ドル2~4円程度だった為替レートが1ドル=360円になっています。
考えられる今後のシナリオ
結論として現実的に国債の国内消化ができなくなったら、日銀の買い取り額を数十兆ずつ増やしてインフレの様子を見つつ、現在の借金の実質的価値を減らして返していくというのが1つの方法であると思われます。今後の財政の行く末をまとめると、- 国債の国内消化をできるところまで続ける
- できなくなったら日銀に買い取らせる(お札を刷る)
- それによってインフレが進行していく
というのが現実的に考えられるシナリオとして想定されます。ギリシャのような対外的な意味でのデフォルトにはならないでしょうが、インフレが極端に進行すると、それは一種の「破綻」と言えます。インフレになると貯蓄が目減りするので、外貨、金、不動産など他の資産に換えておくのも防衛手段の一つです。