「斎藤家」がまるごとハイセンスな宿に変身
集落丸山の管理人、佐古田さん
ヒグラシの声に誘われて、夏の日の夕刻、田んぼと黒豆畑に囲まれた集落丸山に到着。切妻入母屋の見事な古民家ばかりが立ち並ぶ。家紋が標されたトタン屋根の内側は今でも茅葺きだそう。バスは週に4本。金曜日だけ、やってくる。トンボ舞う景色を見ながら、思わず、陽水の「少年時代」を口ずさんでいた。
車を置くと、作務衣姿の管理人、佐古田純子さんがやってきた。佐古田さんは実際にこの集落に生まれ、今でも住み、宿泊者の世話係をやってくれている。この他、お客さんが多いと集落の人たちが手伝ってくれるという。
斎藤さんの表札の奥には、土間が続く
2棟のうちの1棟「ほの穂」に案内される。玄関には「斎藤」さんの表札がかかっている。それもそのはず、所有者は以前からの持ち主のまま。前述のLLPが、古民家改修分野で日本指折りの才本建築事務所とともに改装を施して、10年間の賃貸契約をし、集落が運営を任されている。10年後にどうするかは、集落の協議次第。そんな「地域本位」の再生術で生まれたスタイルの宿なのだ。
丹波・篠山地域では同じスキームで古民家宿が増える計画だという。これから、古民家を集落ごと再生し、「集落全体を一軒の宿とみなす」新しい「集落ツーリズム」が篠山地域から花開いていくことだろう。
センスあふれる古民家の内装
玄関を一歩入ると、懐かしさに包まれる。通り土間が続き、一番奥にはおくどさん(かまど)。左手には和室が3室と寝室、ソファが置かれたリビングが1室と、広々とした空間が広がる。5名まで宿泊ができるが、2名で使ってもいい。
テレビや時計は置いていない。古材をそのまま使い「昔に戻す」手法で快適に滞在できるよう、見ごとに改装されている。バスルームやトイレはホテル並みに改装されているが、五右衛門風呂(現在は給湯式)も残されている。再生のデザインセンスに思わず脱帽した。
「ほの穂」の寝室。ベッドが用意されている。
中庭では、烏骨鶏の大家族が放し飼いにされている。時々ヤギのハナちゃんが顔を出す。夜の帳が降りると、シカよけの空砲が鳴る。静かな、静かな、里山の宵。
準備ができたらいつでもいいですよ、と頼んでおいた夕食に呼ばれた。夕食は、「
ひわの蔵」でのフレンチか、車で3分程離れた蕎麦懐石の名店「
ろあん松田」、といういずれもハイエンドな店から選ぶ。
フレンチのカリスマの「蔵」へ
私が今回選んだのは、神戸・北野町のフレンチの名店「ジャンティ・オジェ」オーナーシェフ高柳好徳さんが、神戸の店を弟子に任せ、篠山にやってきて構えた「ひわの蔵」。宿泊している「ほの穂」の納屋を改造したオープンキッチンの店だ。
「ひわの蔵」の高柳シェフ。地元産の野菜を使ったフレンチの魔術師
「どうぞー」と遠くから高柳シェフの声。烏骨鶏の遊ぶ中庭をまたいで、「ひわの蔵」へ。そこはまさしく、高柳さんの小宇宙。クラシック時計やワイングラスが飾られ、ワインが冷やされた8席のカウンター越しには様々な食材が用意されている。「田舎で耕作しながら料理を提供したい」という自らの願いをかなえたシェフの料理に期待が高まる。
コースで提供されるのは、目の前の畑で採れた新鮮な野菜や、里山のきのこ。それに、フランス直輸入のジビエなどが加わる。季節になればもちろん、篠山産のイノシシなども加わるだろう。
驚くほどに甘い野菜を使い、いくつもの皿が並ぶコース料理(予約制)
この日は、驚くほど甘い野菜の数々や、メインとしてウズラのグリルなど。デザートまで、余すところなく、おいしいを連発してシェフおまかせコースをいただいた。楽しい会話と料理に花を添えてくれたのが、シェフおすすめのシャンパンにワイン、そして締めには、地元・西山酒造場の
地元産グラッパ(これが秀逸!)。
店を出ると、気持ちいい夜風が頬をなでた。
極上の朝食は、蕎麦懐石名店の監修
「関西の至宝」監修の朝食。懐かしさの中にも洗練された味がある
朝食は、土間に続くダイドコに作りに来てくれる。それまでは、ゆっくり寝室で寝ていよう。もそもそと起き、朝食の時間に和室に行くと、蕎麦通の間で「関西の至宝」と呼ばれる「ろあん松田」監修の朝食が用意されている。なんて贅沢なのだろう。
ごま油が絶妙なきんぴら。蕎麦店で使っているおダシでいただく冷や奴。3年寝かせた黒豆味噌の味噌汁、等々。この朝食をして、最高の朝食といわず何と言おう。
チェックアウトは11時。それまで、もう一度、朝風呂に浸かってもいい。
教えたくない自分の故郷が、篠山に一軒できた気がした。
■ 集落丸山
住所:兵庫県篠山市丸山30
TEL:079-552-5770
地図:
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