子宮筋腫と妊娠の関係
不妊の原因にもなる子宮筋腫。妊娠前に注意が必要です
そして、子宮には、受精卵が子宮内膜にくっつく「着床」という重要な役割があります。精子と卵子がタイミングよく受精したとしても、着床に至らなければ妊娠は成立しません。そのため、子宮の形状の異常や、子宮内膜症、子宮筋腫などの病気も不妊の原因となります。
特に子宮筋腫が原因での不妊は最近増加しています。この背景には妊娠、出産の高年齢化があると言えるでしょう。さらに、月経が始まる初経年齢が低下しているため、月経に依存して発育する子宮筋腫の好発年齢も低下傾向にあるため、いざ妊娠しようという時に子宮筋腫が発見されることが非常に多くなってきていると感じます。
40代女性の3人に1人!? 子宮筋腫はありふれた病気
子宮筋腫とは、子宮を構成する筋肉由来の良性腫瘍のこと。40代女性の約3人に1人が小さな子宮筋腫を持っていると言われるほどありふれた病気で、深刻な問題になることはあまりありません。しかし閉経までの女性ホルモンが分泌されている間は増大する可能性があります。女性なら誰でもできる可能性のある病気ですが、なぜ子宮筋腫ができるのか原因は不明です。 子宮筋腫のでき方には以下の3種類があります
- 子宮の内の月経を起こす部分(子宮内腔)にできる粘膜下筋腫
- 子宮筋層の中にできる筋層内筋腫
- 子宮の外側にできる漿膜下筋腫
子宮筋腫に多い症状
子宮筋腫は無症状のことも多いですが、月経異常、月経痛、腰痛、下腹部痛、腹部圧迫感、不妊・流産の原因など、大きくなると、膀胱や腸などの周囲臓器を圧迫して頻尿や便秘になることもあります。子宮筋腫があると月経時の出血量が多くなったり、生理痛がひどい、といったいわゆる月経異常をきたす方が最も多いようです。 月経が長引いて止まりにくくなったり、生理日でもないのに突然出血したり、などの症状を訴える方もいます。 出血が長引けば貧血になりますがジワジワと進行するので体の方も貧血状態に慣れてしまって、それと気づかない人も多くいらっしゃいます。 それでも「なんとなく疲れやすくなった」、「階段を昇ると息が切れる」、さらに進むと「時々めまいがする」などの症状が出てきます。
月経直前から月経期間中を通して、下腹部の痛みや腹痛、頭痛等の症状のある方がいますが、これを月経痛といいます。 これらの症状の強い状態を月経困難症と呼びます。子宮筋腫は、しばしば月経困難症を伴います。
子宮筋腫が不妊症の原因になる理由
子宮筋腫ができると子宮は大きくなり、その形もデコボコになるため、受精卵が着床しにくくなります。 筋腫のコブが子宮内腔にある「粘膜下筋腫」の場合、子宮内に避妊リングをいれているのと同じ状態となります。この場合、 妊娠の条件はさらに悪くなります。また、せっかく着床しても子宮は硬く、そして収縮しやすく、知らないうちに流産してしまうこともあります。
子宮筋腫があり、他に不妊の原因がはっきりしない方や、繰り返し流産になってしまう方のうち、筋腫を取り除く手術を受けることでかなりの人が妊娠、出産をされていることも事実です。
子宮筋腫があっても妊娠は可能?
もちろん、子宮筋腫がある人が必ずしも不妊とは限りません。筋腫をもったまま妊娠される方もいます。しかし、子宮筋腫をもっての妊娠はそれ自体少し問題があります。子宮は妊娠すると柔らかくなり大きくなりますが、筋腫があると子宮は硬くなっていることが多く、大きくなりにくいのです。そして一旦大きくなってもちょっとした刺激が子宮に加わると簡単に収縮しやすく、その結果流産してしまうケースもあります。
流産だけでなく、早産も子宮筋腫の人には多く認められます。子宮筋腫があると分かっている場合、妊娠したら流産、早産に十分注意し、お腹が張ったり、痛みを感じたらすぐに安静にするようにしましょう。
また、子宮筋腫があると帝王切開になると心配される方がよくいらっしゃいます。子宮筋腫は妊娠の経過とともに軟らかくなるものが多いので、筋腫のサイズが小さくて、軟らかくなっていれば、赤ちゃんの頭が筋腫を越えて下がってくることができます。この場合、帝王切開をしないで分娩することができます。ただし、子宮の出口付近に筋腫があり、赤ちゃんの頭が下がってこれそうにない場合、帝王切開になる確率は高くなります。
子宮筋腫の治療法
無症状や症状が軽い場合は、定期的な検診で様子をみることが多いです。症状が強い場合や大きさが徐々に増大する場合には、治療の必要が出てきます。子宮筋腫の治療法は、症状の程度や筋腫の大きさ、位置、そして妊娠・出産の希望の有無によって相談しますが、手術療法が基本です。症状が軽い場合でも、他に不妊の原因がなく子宮筋腫が不妊の原因と考えられる場合、筋腫核核出術を行います。手術希望がない場合には、薬物による治療を行います。からだを閉経の状態に近づけて、女性ホルモンを下げて筋腫の縮小を図ります。更年期の方はそのまま閉経に持ち込むことを狙いますが、更年期前の方では治療後に筋腫が再び増大することが多く、手術の前に縮小させて手術を安全に進めるために行われることが多い治療法です。
特殊治療として子宮筋腫を養う血管を閉塞させる筋腫塞栓術や、強力な超音波を筋腫に照射して筋腫を縮小させる収束超音波治療法などを行う施設がありますが、治療後の妊娠に関する安全性が確立している方法ではありません。
さまざまな子宮筋腫の手術療法
子宮筋腫があるとわかった場合の手術としては、子宮を取ってしまう子宮全摘術と子宮を残し筋腫だけを取る筋腫核核出術とがあります。子宮全摘術は、子宮を全部取ってしまう手術のことです。40歳を過ぎて、もうこれ以上妊娠の予定のない方は、子宮全摘術が選択肢の一つとなります。 子宮全摘術を行えば、子宮筋腫の再発を心配する必要もないし、子宮癌になることもなくなります。そして子宮筋腫が原因で起きていた症状はすべて治まることになります。 最近では開腹せず、内視鏡下で子宮全摘術ができるようになってきています。内視鏡手術の特徴は、身体への侵襲が少なく、入院期間が短いことです。
筋腫核出術は、子宮を温存して筋腫だけを取り除く手術です。若い方、今後妊娠の予定のある方、子宮を全部取るのに抵抗がある方などに行われる手術です。子宮筋腫が不妊の原因と考えられる場合は、この筋腫核出術を行います。開腹して行う方法と内視鏡下に行う方法がありますが、筋腫の位置や大きさによって検討します。また、内視鏡下手術には、筋層内筋腫、漿膜下筋腫に対して行われる腹腔鏡下手術と、粘膜下筋腫に対して行われる子宮鏡下手術とがあります。腹腔鏡下手術は、お腹に2~4ヶ所の小さな穴をあけて行う方法であり、子宮鏡下手術は膣から子宮の中に内視鏡を入れて行う方法でお腹に傷ができることはありません。腹腔鏡下での手術には、筋腫の大きさと数に制限がありますが、5cm程度の小切開と腹腔鏡を組み合わせる腹腔鏡補助下手術の登場により、腹腔鏡下では無理と判断された大きな筋腫や多発性の筋腫も、小さな傷で取ることができるようになってきました。小切開を組み合わせると一ヶ所の傷がやや大きめですので、全てを腹腔鏡のみで行う場合に比べ、痛みがやや強いことと術後の癒着の可能性もありますが、開腹手術に比べるとどちらも軽度である事は言うまでもありません。
内視鏡下手術は保険適用にもなり、実施する施設も増えてきましたが、特殊機器・器具を必要とし、内視鏡下手術に特異的な合併症もありうること、術式の修得には熟練を要する手術でもあります。日本産科婦人科内視鏡学会では、内視鏡手術のエキスパートを技術認定医として公開しています。
このように、子宮筋腫に対する手術には、いろいろな方法があります。子宮筋腫は命に関わる深刻な病気ではありませんので、筋腫の状態をよく理解し、手術の方法など専門医とじっくり相談した上で治療を受けるようにしましょう。