高血圧症/高血圧薬・降圧剤

高血圧薬・降圧剤の種類・作用・副作用

病院で処方される降圧剤は主に7種類に分けられます。それぞれの降圧剤の効果、作用、気を付けるべき副作用などについて解説します。

井上 真理子

執筆者:井上 真理子

医師 / 生活習慣病ガイド

患者さんごとの処方が大切! 降圧剤の種類

くすり

一日を通してよい血圧にコントロールするためには、処方された飲み方を守ることが大切です

病院で処方される血圧の薬(降圧剤)はさまざま。メインの作用はもちろん血圧を下げることですが、それ以外の効果が実証されているものもあります。また、頻度は少ないですが副作用が認められることもあるため、実際に患者さんに降圧剤を処方する際には、これらのサブの作用や副作用などを加味しながら、個々の患者さんに合った薬を選ぶことになります。

降圧剤は、主に以下の7種類に分けられます。
  • カルシウム拮抗薬 (ジヒドロピリジン系/ベンゾチアゼピン系)
  • アンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)
  • ACE阻害薬
  • 利尿薬 (サイアザイド系/ループ利尿薬)
  • β遮断薬
  • α遮断薬
  • 合剤 (利尿剤+ARB/カルシウム拮抗薬+ARB)
それぞれの特徴と適応疾患、副作用について以下で解説します。

カルシウム拮抗薬

■カルシウム拮抗薬の作用・効果
もっとも多く処方されている降圧剤。血管の壁のなかに存在する筋肉(血管平滑筋)にカルシウムイオンが入ってくると、この筋肉が収縮します。これをブロックすることでこの筋肉を弛緩させ、血管の収縮を妨げ、血圧を下げます。

主に以下の2種類が使われています。

a) ジヒドロピリジン系 (DHP系) 
現在使用されている降圧薬のなかで最も有効性が高い薬。急速に強力に血圧を下げるため、内服された患者さんの多くから「薬は本当に効くんですね」と驚きの感想を聞くことも少なくありません。高齢者も含め、多くの症例で第一選択となる薬です。また、狭心症、とくに冠攣縮性の患者さんには著明な効果があります。商品名では、ノルバスク、アダラート、カルブロック、アテレックなど。

b) ベンゾチアゼピン系 (BTZ系) 
血圧を下げる作用はより緩徐で弱く、マイルドな降圧、徐脈作用を期待するときに用いることがあります。心臓抑制作用を伴うので、心不全や除脈など、心臓疾患のある方には使用しません。

■カルシウム拮抗薬の副作用・注意点
動悸、頭痛、ほてり感、浮腫み、歯肉増生、便秘など。

アンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)

■ARBの作用・効果
日本ではカルシウム拮抗薬に次いでよく使用されている薬。血管収縮や体液貯留、交感神経活性亢進を抑制することで血圧を下げます。この薬にはメインの血圧を下げる以外にも以下のような効果が報告されています。
  • 心臓保護作用……心肥大を抑制し、心不全の予後を改善
  • 腎臓保護作用……降圧とは独立に腎臓の機能を保護
  • インスリン感受性改善作用……インスリンの効きにくい体質を改善、糖尿病の発症を抑制
このため、心臓や腎臓の病気を合併したり、糖尿病を有するような症例で第一選択薬として使われます。また、利尿剤と併用すると、相乗的に血圧を下げる作用があるため、しばしば併用します。

■ARBの副作用・注意点
副作用は少ないですが、妊婦や授乳婦は内服が禁止されています。また、腎臓と肝臓で代謝・排泄されるので、重症肝障害や腎障害の場合には注意が必要です。

ACE阻害薬

■ACE阻害薬の作用・効果
ARBと作用点が近く、ARBに非常に似たお薬と思っていただいていいかと思います。ARB同様、血圧を下げる働きとは別に、臓器の障害が進むのを予防するため、さまざまな臓器合併症や糖尿病を有する患者さんに推奨される薬です。

■ACE阻害薬の副作用・注意点
腎臓から排泄されるので、腎障害の方には使用できません。副作用としては空咳が有名で、20~30%の方で内服開始1週間後から数か月以内に出現します。この副作用は薬を止めると速やかに消えますので心配はありません。一説には、この空咳が高齢者の誤嚥性肺炎予防になるということも言われています。ご高齢になると、誤嚥と言って、食べ物が誤って気管のほうに入ってしまうことがありますが、加齢とともに咳反応が悪くなり、誤嚥しても吐き出されずにそのまま肺に入って肺炎(誤嚥性肺炎)になってしまうケースが少なくありません。この誤嚥が、ACE阻害薬の副作用の咳によって減るという報告があるのです。

利尿薬

■利尿薬の作用・効果
日本で処方される頻度は低いですが、海外では多く使用されている薬。値段も安く効果もあるため、今後は処方される機会が増えるのではないかと思います。以下の2種類がよく使用されます。

a) サイアザイド系
腎臓でのナトリウムの再吸収を抑制し、体内のナトリウムを少なくすることで短期的には循環血液量が減少、長期的には末梢血管抵抗を低下させて血圧を下げます。しかし、腎臓の機能がある程度以上悪くなると効きません。

b) ループ利尿薬
腎臓でのNaCl再吸収を抑制して利尿効果を発揮します。サイアザイド系と比べると、利尿作用は強いのですが、血圧を下げる効果は弱いので、圧倒的にサイアザイドのほうが使用されます。しかし、腎機能が低下している例でも有効であるという利点があります。

c) アルドステロン拮抗薬(カリウム保持性利尿薬)
アルドステロンは副腎で作られるホルモンの1つで、体内のナトリウムとカリウムのバランスを調節していますが、このホルモンの作用をブロックすることで腎臓からのナトリウム排泄を促し、血圧を下げるお薬です。いくつかの降圧剤を併用してもなかなか血圧がじゅうぶんに下がらない治療抵抗性高血圧の方によく投与されます。また、心不全の予後を改善することも報告されています。

■ 利尿薬の副作用・注意点
(a)サイアザイド系、(b)ループ利尿薬には、以下のような代謝への影響があります。
  • 低カリウム血症………血液中のカリウムが少ない状態。大きく減ると筋力低下やけいれん、麻痺、嘔吐、便秘などの症状が現れます
  • 耐糖能低下……血糖値が下がりにくくなります
  • 高尿酸血症……尿酸値が高くなります
しかし、1/4錠~1/2錠程度の少量であれば、これらのリスクを抑えることができますので、高齢者、腎疾患、糖尿病などの方に少量処方されます。ですが、β遮断薬と併用すると、血糖や脂質の代謝に悪影響を与えるため、勧められません。

低カリウム血症の予防にはカリウム保持性利尿薬を併用したり、カリウムを多く含むかんきつ類の摂取などを勧めたりします。

これらに対して、(c)アルドステロン拮抗薬には以下のような副作用があります。アルドステロン拮抗薬は利尿剤とは逆に、腎臓からのカリウムの排泄を抑制するため、内服中は高カリウム血症に注意が必要です。ほかの利尿剤との併用では副作用が相殺されてよいのですが、ARBやACE阻害薬との併用ではさらにカリウムが上がりやすくなり、より注意しなくてはなりません。また、中等度以上の腎機能障害の方には使えません。古くから使われているものは性ホルモン作用の抑制に伴う女性化乳房などの副作用がありましたが、新しいものでは頻度が非常に少なくなっています。

β遮断薬

■ β遮断薬の作用・効果
緊張やストレスなどによって分泌されるカテコラミンというホルモンは、細胞の受容体に結合して作用します。受容体にはαとβの2種類がありますが、このうち心臓にあるβ受容体を遮断することで心拍出量を減らし、中枢での交感神経を抑えることで血圧を下げる薬です。若い方の高血圧や、心不全の予後改善の目的で使用されます。

■ β遮断薬の副作用・注意点
単独または利尿薬との併用によって血糖や脂質の代謝に悪影響を及ぼすので、高齢者や糖尿病、耐糖能異常などの合併がある場合には第一選択にはなりません。また、気管支喘息の患者さんには使えません。突然中止すると狭心症あるいは高血圧発作を生ずることがあるので、自己判断で内服をやめてしまうと危険です。中止する場合には徐々に減量していかなくてはなりません。

α遮断薬

■ α遮断薬の作用・効果
カテコラミン受容体のうちα受容体を遮断することによって血管の収縮を抑え、血圧を下げる薬。早朝に血圧が急激に上昇する早朝高血圧が起きると、心筋梗塞や脳卒中を起こす危険が高いことが知られていますが、この早朝高血圧を抑える目的で、しばしば眠前にα遮断薬を投与します。前立腺肥大に伴う排尿障害にも適応があります。

■ α遮断薬の副作用・注意点
初めて内服する際には起立性低血圧によるめまい、動悸、失神があるので、少量から初めて徐々に増量にします。

合剤

■ 合剤の作用・効果
1種類の降圧剤でじゅうぶん血圧が下がらないこともしばしばあり、そういうときには2種類、3種類と併用することになります。しかし、薬の数が増えるほど、忘れずに内服することが難しくなります。そこで、近年、2種類の薬を合わせて1粒にした配合剤も増えてきています。現在、実際に処方できる合剤は、
  • 利尿剤+ARB
  • カルシウム拮抗薬+ARB
です。合剤のほうが値段も安く、今後ますます増えていくと思われます。ただし、それぞれの薬の容量が決まっていますので、必ずしもすべての患者さんに合うわけではありません。
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