今回は石鹸、中でも固形石鹸のお話です。石鹸置きに入った化粧石鹸は、香りも素敵で、お肌の清潔さを保ってくれそうです。ところが、多くの病院は、院内での固形石鹸の使用を禁止しています。人にとっては病院と家庭は異なる場所でも、細菌にとっては同じ固形石鹸、特に石鹸置きに入った固形石鹸から溶け出した石鹸水は、栄養豊富な培養液そのものです。
石鹸水で増える菌は、病院では、院内感染の原因となるために問題となります。家庭でも、本来皮膚にいない菌を塗りつけるのは、皮膚の健康を害する可能性があります。
そこで、家庭でできる固形石鹸の細菌汚染防止方法を取り上げます。ポイントは、水分をふき取る事と冷蔵保存です。
【石鹸置きは微生物がいっぱい】
通常の石鹸には、汚れを落とす洗浄効果はあっても人にとって有害な菌を殺す消毒効果はありません。石鹸置きの石鹸水を顕微鏡で覗いてみましょう。
まず目立つのが少し大きいアメーバです。そのアメーバが食べている(貪食している)のが、細菌です。
細菌が取り込んでいるのが、一つは石鹸の成分の脂肪酸です。
もう一つは人の皮膚からの成分、垢に含まれる各種成分、すなわち皮脂や皮膚の蛋白成分(ケラチンの分解物)です。
つまり、石鹸置きに溜まった石鹸水は、一部の微生物にとっては栄養素を食べ放題の天国そのものなのです。
【石鹸水の中で増殖する菌達】
どんな菌達が石鹸水の中で増殖するのでしょうか?
実は、石鹸水の中は、あまり菌達が増殖するには適した環境ではありません。
ところが、細菌には、いろいろな栄養素を必要とする菌と、あまり栄養素を必要としない菌があるのです。後者の代表がブドウ糖非発酵菌と呼ぶ一群の菌で、石鹸水の中で増殖することができる菌です。
この群の特徴は、消毒剤に対して抵抗力があることです。但し病原性は強くありません。病院では、抵抗力が弱っている人に取り付いて、院内感染の原因となります。
健康な人では直接問題になる事はありません。しかし、次に述べる皮膚の常在菌を乱す原因となります。
【皮膚を守っているのは常在菌】
皮膚の潤いを作っているのは、化粧品の成分ではなく皮脂腺や汗腺からの分泌物です。これらの分泌物は、皮膚を清潔に保つためにも必要です。
この分泌物を、栄養源として皮膚で生息している菌がいます。皮膚の常在菌で、主な菌は表皮ブドウ球菌の仲間です。指先を含めて、全身の皮膚の表面に生息しています。
現在の解釈では、これらの常在菌が皮膚表面を覆う事は、外部からの化膿性の病原菌、例えば黄色ブドウ球菌などによる化膿症を予防するとされています。
【石鹸置きにたまった石鹸水はダニの朝食】
固形石鹸を石鹸置きに常温で保存すると、箱に溜まった石鹸水は菌だらけになります。朝目覚めて、このまま洗顔すると、表皮ブドウ球菌が守っている皮膚に、ブドウ糖非発酵菌を塗りつけることになります。
このブドウ糖非発酵菌は、皮膚のダニの餌(朝食)になってしまうので問題です。そしてダニが増殖すれば、肌荒れの原因ともなってしまいます。
【使用中の固形石鹸の保存の仕方】
洗顔する時、固形石鹸を使用せずに液体石鹸(液体洗顔料)やチュウブ入り洗顔料を使用すれば石鹸置きに溜まった石鹸水の菌の問題は解決します。
でも、高級(高価な)石鹸を使用中だと使い切りたいのが消費者心理です。
細菌の増殖に必要なのは、1.栄養素 2.水分 3.温度です。
固形石鹸が溶けた石鹸水は、栄養素をたくさん含んでいます。特にいわゆる高級石鹸は添加物が多いので、さらに栄養豊富です。
ということは、水分と温度に注意すれば菌の増殖を抑える事が可能です。
・水分:使用後に紙タオルで水分を拭き取る事で解決します。
・温度:石鹸を冷蔵庫に保存する事で解決します。
石鹸箱に周りの水分を拭き取った石鹸を入れて、湿気防止のために煎餅などの袋に入っているシリカゲルを容器に入れるとさらに効果的です。
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