上司・部下の利害関係を超える
利害の対立を認めることから始まる |
「コーチングの契約期間中に、コーチが精神的もしくは物理的な利害の対立を感じることなく、クライアントに対して客観的に敬意をもってサービスを提供することができないならば、コーチング契約をすぐさま完了しなければならない」
これを読むと、「上司と部下にはコーチングはありえない」と思われるかもしれません。確かに常にコーチングを行うことは無理でしょう。上司と部下との関係は純粋なコーチとクライアントとの関係以外の要素が必ず含まれ、そこに利害関係が生じやすいからです。
しかし、コーチングによって、上司と部下の利害を超えた関係が開けるのも確かです。そして、利害を超えた生身の人と人との関係、かかわり合いができたとき、上司と部下の関係はこれまでにない力強い関係になります。
このためにも、上司は部下との利害の対立について意識を払うことが必要です。それによって、コーチングをより効果的に活用できるようになります。さらには、利害の対立をお互いに明らかにして話し合うことが、本音に基づいた関係を創り出すことにつながります。
部下ではなく自分自身をコーチング
それでは、最初の「今夜はデートがあるので残業できません」という部下に対して、上司はどうかかわればいいのでしょう?
ここで大事な問いは、「上司であるあなたはどうしたいですか?」
つまり、この状況でコーチングをされる対象は「部下」ではなく、「上司自身」なのです。もちろん、部下が上司をコーチングしてくれるとは限りません。上司は自分自身でコーチングするしかありません。
自分は「今晩中に納品する」という課題についてどう思っているのか? 「今夜はデートがあるので残業できません」とう部下についてどう感じているのか? 課題を達成することはどんな意味があるのか? 自分にはどんな可能性があるのか? そして、自分はどうしたいのか?
いろいろな問いが自分自身に投げかけられるでしょう。そして、自分の中からいろいろな答えが出てくると思います。
グッと我慢すること、怒りをぶつけること、自分の気持ちをそのまま伝えること、頭を下げてお願いすること、などなど。
あなたはあなた自身の答えを見つける力があります。それを信じて、自ら答えを見つけて、行動していきましょう。どれが正しい、間違っている、ではありません。もちろん、それに対して部下はいろいろな反応をします。予想外のことが起きるかもしれません。それでも、自分を信じて、そこから創り出していくしかありません。
まずは自分自身に問いかけてみましょう。
「自分はどうしたいんだろう?」
【参考書籍】
■『コーチング・バイブル』(ローラ ウィットワース/フィル サンダール/ヘンリー キムジーハウス著 CTIジャパン訳 東洋経済新報社)
【関連サイト】
■「器の大きさは感情の許容度に比例します――あえて、嫌なものと向き合おう!」
■「感情を抑えるだけでなく、積極的に活用しよう!――怒りを使いこなす自分になる!」
■「これであなたも部下の話がさらに聴けるようになります――コーチングに必要な1枚の白紙」