カフェ/神田神保町・馬喰町・新宿・飯田橋のカフェ

カフェ・トロワバグ…神田神保町

愛され続けてきた老舗。20年間、一日も休まなかった女主人の亡きあとは、娘さんがカウンターに立って、変わらぬネルドリップのおいしい珈琲を点てています。名物はグラタントースト。

川口 葉子

執筆者:川口 葉子

カフェガイド

トロワ・バグの店内写真
神保町交差点そば、ビルの階段をおりて地下一階へ。30年以上変わらないネルドリップのコーヒーの香りが迎えてくれる。

1976年開店、ネルドリップ珈琲の香る老舗 

カフェ・トロワバグのショップカードには、コーヒーポットとカップと3つの輪のイラストが描かれている。輪はそれぞれ、お客さまと店主と珈琲。三者がつながるイメージを醸し出しつつ、じつはオーナーの姓「三輪」さんをフランス語に訳してトロワ+バグという洒落た由来がある。

34年の歴史を持つ老舗珈琲店。重厚な木のカウンターに立って迎えてくれるのが女性店主の三輪徳子さんである。父はオーナーの三輪正和さん、母は二代目店長をつとめた弘子さん。弘子さんが病に倒れて亡くなったあと、娘の徳子さんがトロワバグを受け継いだ。

「母は20年間、ただの1日もお店を休みませんでした。病気が判明してからも、お店にいるのが一番落ちつくといって、亡くなる直前までカウンターに立ち続けたのです」

そんな逸話を聞かせていただいて胸が熱くなった。そして、弘子さんの“喫茶魂”が徳子さんに確実に受け継がれていることも素晴らしいと思う。

トロワ・バグの店内写真
ネルドリップする三輪徳子さん。カウンターはたっぷりの紫陽花に彩られていました。

「いつもの一杯」を支えるもの 

トロワバグは長年にわたり多くの常連客に愛されてきた。彼らの信頼に応えるためにも、おいしい珈琲の味は変えられない。毎日、安定した味が出せるよう細心の注意をはらいながら、コクテール堂のオールドビーンズをネルでドリップする。

「豆の状態が毎日変化するのはもちろんですが、ネルの状態も変わります。おろしたての新しいネルと使いこんだネルでは、布地の目のつまり具合が違いますから、お湯が落ちるスピードも変わるんです」

珈琲豆、お湯の温度、ネルの状態、そして点てる人自身のコンディション。「いつも変わらぬ一杯」には複雑な要素が絡み合っている。

「気分や体調がそのまま珈琲の味に出てしまいます。味にこだわるお客さまがいらして『今日の珈琲は…』と感想をおっしゃるので、手を抜けません」

母はお店が忙しい状態のときも決してばたばたした雰囲気にはならかったけれど、自分はまだ余裕がありません、と徳子さん。しかし、あたたかい目で見守ってくれるお客さまに支えられて、店内はつねに落ちついた穏やかなトーンに満ちている。

トロワ・バグの店内写真
カップのコレクションに混じって、亡き三輪弘子さんの笑顔の写真が飾られていました。

名物メニューは「グラタントースト」 

柔らかな酸味と甘みを大切にした「トロワブレンド」(500円)はお店の顔。コロンビアとモカをブレンドしている。苦み系がお好みなら「ハイブレンド」(550円)をどうぞ。

自家製のスイーツも名物の「グラタントースト」(写真下)も、弘子さんが遺したレシピ通りに、余計な飾りを加えずに丁寧に手作りしている。夏は自慢の珈琲で作る珈琲ゼリー、冬は生チョコなど、季節ごとのスイーツも登場する。

開店当初から人気の「グラタントースト」は、白い食パンの上に自家製のベシャメルソースとハムとゴーダチーズをのせ、さらにベシャメルソースを重ねて、ふっくら香ばしく焼きあげた一品。
玉ネギをじっくりと炒めて甘みを引きだすところから始めるベシャメルソース。そのシンプルで真面目なおいしさが、舌にも胃にも優しい充足感を与えてくれる。

トロワ・バグの店内写真
弘子さんが考案したふかふかの「グラタントースト」は珈琲とセットで1000円。 かぼちゃを根気よく裏ごしして作る「かぼちゃのムース」などのスイーツも好評。

手挽きのミルも現役で活躍

驚いたのは、カウンターのすみに据え付けられた古めかしい手挽きのミルと秤。なんとどちらも現役で、ストレートコーヒーを挽くときに使っているそう。私はこれと似たような仕組みのミルを、英国グラスミアにある詩人ワーズワース(~1850)の家で見かけましたよ。
「古いものは作りが単純で頑丈なので、壊れないんですね」

思わず何枚かシャッターを切ると、「カメラマンの方は、みなこのミルを撮影します」と徳子さんが笑った。

珈琲とうつわを愛したご両親のもと、幼いころから珈琲の世界に慣れ親しんできた徳子さんにとって、喫茶店と珈琲は「生活になくてはならないもので、空気のような存在」。珈琲の豊かな香りは心を癒し、穏やかな気持ちにさせてくれるという。

弘子さんが遺したアドバイスは、とにかく続けなさい、ということ。毎日同じ状態でお店に立ち続けることの大切さ。そして「あなた自身もちゃんときれいにしていなさい」とも言われたそうだ。

「お店そのものが母の形見ですから、守っていけることが嬉しいですね」

常連客のほとんどが神保町で働く出版系の人々なので、土日や祝日になるとお店はのんびりペースに。休日に神保町散策を楽しみたい人にとっては、またとない休憩場所になる。

「せわしない日々を送っていらっしゃる方が多いと思いますが、喫茶店で珈琲を飲みながらフラットな気持ちで過ごす時間をお楽しみください」

トロワ・バグの店内写真
テーブル席を仕切るガラスには、開店当初から単なるデザインとして墓碑の飾りがあしらわれている。To the memory of Mrs.LUCY wife of Mr WILLIAM MAYNARD…「妻ルーシーの想い出に」。まるで弘子さんを偲ぶよう。

CAFE TROIS BAGUES menu 

Beverage
トロワブレンド(まろやかな酸味)…500円(おかわり300円)
ハイブレンド(コクのある苦味)…550円(おかわり350円)
ストレートコーヒー各種(マンデリン、ガテマラ etc.)…650円~
カフェオレ …600円
カフェクレーム …700円
カフェポンパドール …750円
ダージリンティ …600円
ハーブティ …650円
ミルクティフロート …650円

Foods
グラタントースト&珈琲セット …1000円
バタートースト …400円

Sweets
自家製ケーキ&珈琲セット …700円
(カボチャのムース、チーズケーキ、ガトーショコラ、黒ゴマプリン)
カフェジェラート …650円

shop data

CAFE TROIS BAGUES(カフェ・トロワバグ)
【住所】東京都千代田区神田神保町1-12-1 B1F
【TEL】03-3294-8597
【OPEN】10:00~19:00、土12:00~19:00
【CLOSE】日曜・祝日
【MAP】Yahoo!地図情報
【最寄り駅】都営線・メトロ「神保町」駅A5出口より徒歩1分。ドラッグストア「キムラヤ」の並び、白山通り沿い。

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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※メニューや料金などのデータは、取材時または記事公開時点での内容です。

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